ユトレヒト市の「学生起業党」

二ヶ月前にドイツで開催されたG20ユースフォーラムというイベントに参加し(以前記事を 参照)、オランダのユトレヒト市で「学生起業党(Student&Starter)」を立ち上げたスティーブンという学生(24歳)と出会った。2014年3月の市議会選挙で1議席(得票率3.8%)を獲得し、大学生と市議会議員(兼業議員)として活動している。

オランダでは、複数の大学都市(デルフト、フローニンゲン、アムステルダム)で学生の運営する学生党が存在するが、ユトレヒト市では彼が立ち上げるまではなかった。ここではスティーブンという学生とユトレヒトの学生起業党について簡単に紹介したい。

学生起業党党首のスティーブン・メンケ

Steven Menkeユ トレヒト市は、人口約25万人に対し、18歳~26歳までの学生数が約6万人近くいる大学都市である。そこで勉強するスティーブンは、細身で180cm以上の背丈、さわやかで優等生オーラの漂う24歳の若者である。

彼は、経済学と人文学を専攻しながら、大学組合の執行部の一員として学生の学習•生活環境の向上のための活動に関わっていた。そのときに学生向けの住宅環境、自転車関連インフラ(自転車道や駐輪場)、大学卒業後の雇用や起業促進の環境整備が不十分であると感じるようになった。そして、ユトレヒト市では人口の4分の1弱を学生が占めるにも関わらず、市議会での政策には学生の意見が十分に反映されていない、市の政策決定者は学生を数年ごとに入れ替わる「お客様(Guest)」として見るだけで、ユトレヒト市の大事な市民の一員として扱おうとしていない、と。

Student &Starterの設立

Logo-Student-Starter-300x124Student &Starterのホームページ

スティーブンは、2013 年春に若者による若者のための政党の立ち上げを模索し始める。オランダの市議会選挙は比例代表制であるが、スウェーデンやドイツのように少数政党の乱立を防ぐための得票率の上限(前者は4%、後者は5%)が存在しないため、市議会議員になるためには最低限の得票数さえ獲得すれば良い。

前回のユトレヒト市議会選挙の投票率は50%で、1議席確保に必要な得票数は2800票だった。彼は、ユトレヒト市内の学生6万人のうち、1万人の支持を集めれば、約3議席を確保できると予測し、このプロジェクトを支持してくれる若者(及びそれを応援してくれる大人)に声をかけ始めた。その後、集まった仲間と一緒に政策提言(マニフェスト)をまとめ上げ、選挙戦に向けた準備を進めた。また民主的手続きの正当性を高めるため、党の会員で予備選挙の実施を決定。会員の中で選挙に出たい人が党内選挙を戦い、その結果に従って名簿リストを作成した。最終的にはス ティーブンをトップ候補者とした20人の名簿が出来上がった。

選挙キャンペーンでは、主に若い世代や学生を対象とし、ツイッタ―やフェイスブックなどのSNSのPR活動にも力を入れた。英語のマニフェストも公開し、外国人の学生も参加できるようにした。その結果、2014年3月の選挙では1 議席を獲得、当初目標としていた3議席には届かなかったが、市議会と学生を繋ぐ架け橋を作ったことには意味がある。スティーブンは、市議会の本会議を傍聴する若者の参加が増えたと言う。

Student Starter CandidateStudent&Starterの選挙名簿

学生政党のあり方と意義

スティーブンは、学生起業党の市議会議員は必ずしも4年の任期を全うする必要はなく、1年か2年以内に他の学生に議員を交代したいという。特に大学生は、海外留学、インターン、就職などで移動の流れが早いため、期間限定で議員経験を積めた方が参加しやすい。一方、有権者の側も学生党の立候補者が4年間議員として任期を全うすることをそもそも期待していない。学生政党として公約した政策を進めてくれれば良いのであって誰がやるかは大した問題ではないとされている。

もちろん、任期途中で議員をスムーズに入れ替えるためには、党内の民主的で透明性のある意思決定過程に加え、人材の育成•引き継ぎの仕組みが求められる。スティーブンによる学生党の設立の試みは成功したとしたとしても、その後を有能な学生にバトンを渡せなければ、組織は死ぬ。

欧州の若者は既存の大手政党の青年部組織の代表として議員になるケースが多い。しかし、特に若者世代の既存政党への違和感は強くなっており、社会や政治に関心はもっていても、(閉鎖的で近寄りがたいというイメージの)政党に加入するという選択をする人は少なくなっている。むしろ、ある特定の課題を解決するための小規模のNPOや地域団体により魅力を感じる若者が増加する傾向にある。

そのため、学生起業党は、地域の学生や若者の利害の代弁を第一の目的としており、同年代の若者が運営しているという意味では近寄りやすいだろう。今後、スティーブン、ユトレヒトの学生起業党がどういう変化を遂げてゆくのか注目したい。

ぐし について

スウェーデンのウプサラ大学大学院政治行政学修士取得、欧州議会漁業委員会で研修生として勤務後(-2013年3月)、ブリュッセルでEU政策や市場動向などを調査の仕事に従事。2014年11月から慶應大学のEUSI研究員。千葉市まちづくり未来研究員(自転車政策)。NPO Rights副代表理事として若者政策(主に若者参画)の提言や分析を行う。連絡先:gushiken17@hotmail.com
カテゴリー: EU, 政治参加・投票率・若者政策 パーマリンク

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