若者の投票率向上の鍵はお母さんです

 投稿で10代の投票率が相対的に20代前半を上回る傾向があること、そのメカニズムとして親の影響(=親との同居率の高さ)があることを紹介した。これに関連してもう一つ面白い研究結果があるので共有したい。ずばり「(父親よりも)母親が投票した場合に子供の投票率が上がる」という知見である。

 デンマークの研究者は、2009年のデンマークの地方選挙で200万人を超える有権者を対象とした分析調査を実施した[1]。この研究のユニークな点は、「有権者の投票参加に関する情報(投票/棄権)」とともに、「個人の社会的属性に関する情報(学歴、収入、家族構成、住所、市民権、中学三年生の成績」をリンクし相互参照できるようにしたことである(投票は投票所での選挙人名簿を活用、社会的属性は自治体の持つ社会•人口統計を活用している)。これにより、どういう人が投票に参加しているのかがより明確に明らかになった。ここまで幅広いビッグデータを活用した投票分析は世界的にもあまり例がないため、非常に価値の高い研究といえる。

 もともと投票率に関する研究では、有権者の学歴や収入と投票率に相関関係があることは常識とされていたが、今回のデンマークでの事例分析によって、親との同居率および親の投票率が(特に10代の)子供の投票率を決定する要因になっていることが鮮やかに示された(柔道でいえば一本!)。


図:親が投票する場合に上乗せされる子供の投票率
(投票しない親を持つ子供の投票率との比較)

投票参加する親を持つ子供の投票率の差(投票しない親を持つ子供の投票率をベースとする)

 上記は、親が投票する場合に上乗せされる子供の投票率(投票しない親を持つ子供の投票率との比較)を示したグラフである。親が投票する場合、子供の投票率は、そうでない子供よりも平均15%ほど上回り、特に10代で突出して高くなる。このことは、親との同居割合の高い10代では、親の投票参加がより直接的に子供の投票率の上昇に寄与していること(逆に、投票に行かない親を持つ場合、10代の子供の投票率はさらに低下すること)を示唆している。また、父親と母親の投票率と子供の投票率の相関関係を見ると、父親よりも母親が強い影響力を持っており、10代ではそうした傾向はさらに顕著になる(18歳の場合、母親の投票参加を促す影響力は父親の18%以上となる)。

 図:親の投票•棄権に応じた子供の投票率の変化(同居/同居しない場合)両親の投票の影響(同居/同居していない場合)

 上記のグラフは、親が投票•棄権した場合の子供の平均的な投票率の変化を示したものだ。グラフから分かるように、親と同居している人の投票率は両親と連動する傾向がある(両親が投票した場合には71%、両親が投票しない場合には15%)。一方で、親と同居していない人は、両親の投票率との連動はそれほど見られない(両親が投票した場合には53%、両親が投票しない場合には25%)。

 いずれにしても、母親の影響力の方が一貫して強いことには間違いないが、男性は父親からの影響、女性は母親からの影響を受けやすい傾向があることも見てとれる。

 まとめ

 こうしたデンマークの事例分析がすべて日本に当てはまるとは限らないが、母親の影響力は他の研究でも指摘されているため、先進国には共通した現象といえる〔2a•2b〕。ただ、10代の若者の投票率の場合、日本の母親の影響力はデンマークの母親よりも強い可能性がある。

 日本では一般的に主婦が多く、子供の世話や教育により多大な時間を割く一方、父親はサラリーマンとして子育てよりも仕事を優先する傾向があるため、日本の子供の母親に対する愛着や信頼度は父親よりも強いとの見方ができる。デンマークでもこうした傾向はみられるが、父親による子育てへの参加はより一般的になりつつあるため、父親の子供への影響力は日本よりも強いと考えられる(あくまで仮説[2])。こうした違いを考慮すると、日本の選挙権年齢が18歳に引き下げられた場合、上記のデンマークの事例よりも、子供の投票率は母親の投票によって左右される可能性がある。

 つまり、日本の若者の投票率の向上の観点からは、若者だけでなく、特に母親の投票率向上に焦点を当てた啓発運動が重要になるといえる。

参考資料:
[1]:Yosef. B.,Kasper M.H(2012). Leaving the Nest and the Social Act of Voting: Turnout among First-Time Voters. Journal of Elections, Public Opinion and Parties, 22(4), pp.380–406
[2a]:Elder, Laurel & Greene, Steven (2012) The politics of parenthood: parenthood effects on issue attitudes and candidate evaluations in 2008. American Politics Research, 40(3), pp. 419–449
[2b]:Coffe, Hilde & Voorpostel, Marieke (2010) Young people, parents and radical right voting. The case of the Swiss People’s Party. Electoral Studies, 29(3), pp. 435–443
[3]:例えば、父親の子育てへの参加の指標として父親休暇がある。デンマークでは父親休暇が二ヶ月間割り当てられており、ほとんどの父親が利用している。ただし、両親が休暇を取る全体期間に占める父親の休暇取得の割合はまだ8%である。http://europa.eu/epic/countries/denmark/index_en.htm

ぐし について

スウェーデンのウプサラ大学大学院政治行政学修士取得、欧州議会漁業委員会で研修生として勤務後(-2013年3月)、ブリュッセルでEU政策や市場動向などを調査の仕事に従事。2014年11月から慶應大学のEUSI研究員。千葉市まちづくり未来研究員(自転車政策)。NPO Rights副代表理事として若者政策(主に若者参画)の提言や分析を行う。連絡先:gushiken17@hotmail.com
カテゴリー: EU, 政治参加・投票率・若者政策 パーマリンク

若者の投票率向上の鍵はお母さんです への1件のフィードバック

  1. Tatsu より:

    Reblogged this on Tatsumaru Times and commented:
    もうひと記事。

コメントを残す

以下に詳細を記入するか、アイコンをクリックしてログインしてください。

WordPress.com ロゴ

WordPress.com アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Twitter 画像

Twitter アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Facebook の写真

Facebook アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Google+ フォト

Google+ アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

%s と連携中