20代前半よりも高い10代の投票率

  先日、私が活動しているNPO Rightsで選挙権年齢の18歳への引き下げに関するセミナーイベント(特に欧州諸国での16歳への引き下げの動向および研究結果の紹介)を開催した。そこでのプレゼン内容(リンク参照)に基づき、日本の選挙権年齢を20歳から18歳(あるいは16歳)に引き下げるメリットとして、1)若者全体の投票率の向上、2)若者の政治的成熟性の向上の二点を紹介したい。

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 欧米の社会科学の世界では、若者の政治に対する関心や参加が低迷する中、若者の政治参加を促す手段として選挙権の16歳への引き下げの有効性が議論されてきた[1]。そこでの論争の主な焦点は、選挙権年齢の引き下げによって「若者の投票率」が向上するのかという点と、政治的な判断能力に欠けている(と思われている)16-17歳に選挙権を与えることで「選挙の質」が悪化しないかという点である。

 これまでは16・17歳の若者の政治的成熟度(主に政治への関心度•知識度•参加度•有効感に関する指数)が投票に参加出来るほどに高まっていないとの研究結果[2a•b]に基づき、過激な主張の政党や議員に支持が集中するなど「選挙の質」の悪化に繋がる可能性もあるとして、反対意見が支配的だった。また、引き下げ賛成派の中には、若いうちに投票習慣(voting habit)を身につければ将来的にも投票参加の傾向が高まるとの分析結果[3]に基づき、選挙権年齢をできるだけ下げるべきと主張する研究者もいるが、政治的関心も知識も欠けている(と思われている)若者に選挙権を与えることで、投票率の低下を助長し、非投票習慣(non-voting habit)を植え付けるとの懸念が強かった。

 しかし、最近の研究結果からは選挙権年齢の引き下げに好意的な見方が出てきている。実際に引き下げに踏み切った国では、①10代の投票率が相対的に高いこと、②選挙権を与えることで10代の政治的成熟度が向上することが実証的な研究を元に指摘されている。

①10代の投票率は相対的に高い

 ドイツ、オーストリア、ノルウェーなどの選挙権年齢を16歳に引き下げている事例では、10代の投票率が20歳前半よりも相対的に高く、16・17歳の投票率が18・19歳を上回ることが分かっている。日本では、常に20代前半が最も投票率が低く、10代はさらに低くなるというイメージを持っている人がいるかもしれないが、それは間違いである。デンマークの地方選挙でも18-19歳の方が20代前半よりも投票率が高いという調査結果がある。

 なぜ10代の方が投票率が高いのだろうか? デンマークの研究者[4]は、投票行為と社会的属性を細かく調査した上、そのメカニズムは親の影響(および同居率)にあると指摘している。すなわち、18歳の若者は親と同居する割合が8割を超えるため、投票率の高い親の世代の影響によって同世代の投票率が上昇するが、22歳になると親との同居率は約18%まで下がるため、投票参加の圧力が弱まる、という説明である。つまり、これまで年齢と投票率の関係は、年齢が上がるほど投票率も上昇するという「正の関係」として理解されてきたが、むしろ、10代に関しては年齢が下がるほど投票率が上がるという「負の関係」が見てとれるのである。これは素晴らしいスクープである!

デンマークの地方選挙の投票率(2009)
デンマークの投票率(2009年)

ブレーメンの州議会選挙(2011)
2011年ブレーメン選挙の投票率

ドイツの総選挙(2009)
2009年ドイツの総選挙

②若者の政治的成熟度は向上する

 オーストリアの事例からは、たしかに16・17歳と18・19歳の若者の政治的成熟度を比較した場合では前者の政治的成熟度は低い傾向があったが、実際に投票機会を与えることで、学校教育や選挙キャンペーンによる学習効果を通じて、16•17歳の政治的成熟度は向上することが示されている。

 オーストリアの研究者[5]は、2004年と2008年に、16-17歳と18歳以上の若者の政治に対する関心度の調査を実施した。それによれば、2004年の総選挙では、16-17歳の「関心がある」「とても関心がある」と回答する割合が31%だったが、選挙権年齢を引き下げた後の2008年の総選挙では61%まで上昇した。また、ニュースをチェックする頻度でも同様の効果が見られた。また、その他の投票行動(投票の質)などの指標においても、オーストリアの地方選挙での分析[6]では、16-17歳は18歳と比較して有為な差は見られないとの結果が出ている 。ただし、ノルウェーの分析[7]では、16-17歳と18歳では政治的成熟度に著しい差があるとして16歳の引き下げには慎重な見方を示している点には注意が必要だ。

オーストリアの16-17歳の政治への関心度の変化オーストリアの16•17歳の政治への関心度の変化

オーストリアの16-17歳のニュースを見る頻度の変化オーストリアの16•17歳のニュースを見る頻度の変化

日本の選挙権年齢の引き下げ論議への示唆

 上記の欧州諸国の経験を当てはめれば、日本の選挙権年齢を20歳から18歳に引き下げた場合、若者全体の投票率が上昇する可能性は極めて高いといえる。もちろん、社会科学における知見なので、一定の法則や傾向がそのまますべての国に当てはまることはありえないが、日本の過去三回の衆議院選挙の投票率をみると、20代の前半では20歳の投票率が相対的に高くなっている。このことは、10代に年齢が下がるほど投票率が上昇するという負の関係が日本でも当てはまることを示唆している。

過去三回の衆議院議員選挙の20代前半の投票率
衆議院選挙の投票率(20代2)

 また、若い時期からの投票習慣を植え付けるという観点からも18歳への引き下げは有効といえる。上記の統計を見て分かるように、最も投票率の低い年齢層は21歳〜23歳である。現在の日本の選挙権年齢は20歳であるが、ちょうどその年に初選挙が実施される人はむしろ少数派である。国政選挙は通常4年と3年の周期で回っているため、日本の若者が初投票の機会が得られる平均年齢も21歳以上となり、若者の非投票習慣の固定化に寄与しているともいえる。選挙権年齢を18歳まで引き下げれば、初投票の平均年齢は19歳以上になるため、投票習慣の植え付けにはより効果がある(ただし若者の投票率を引き上げるためには18歳よりも16歳まで引き下げる方がより合理的なやり方である)。

 それに加えて、オーストリアの事例からは、16-17歳に投票機会を与えることで、学校教育やキャンペーンを通じた学習効果によって政治的成熟度が向上することが指摘されている。日本でも選挙権年齢が18歳に引き下げた場合、高校三年生が有権者に含まれるため、学校教育の現場でも生きた政治を学ぶための整備が必要になる。これまで政治教育の取り組みは体系的に行なわれていないため、むしろ、日本の若者の政治的な関心や知識を伸ばす「伸びしろ」は大きいともいえる。

 また、オーストリアやドイツの事例からは、18歳と比べて16-17歳だけ無鉄砲な投票行動をするという現象は見られないため、日本でも選挙権年齢を20歳から18歳に引き下げたとしても「選挙の質」を低下させるということはないと考えられる(そもそも日本の18-19歳の有権者割合は2.4%に過ぎないため、仮に全員が同じように無鉄砲な投票行動をしたとしてもその影響力は限定されている)。

まとめ

 若者の投票率の向上および政治的成熟性の育成の観点からは、日本の選挙権年齢を16歳まで引き下げることが理想的であるが、それは現実的に難しいので、まずは18歳への引き下げ(および被選挙権18歳)を速やかに進めるべきである。

参考文献:
[1]Zeglovits, E., (2013). Voting at 16? Youth suffrage is up for debate. European View, 12, 249–254
[2a]Electoral Commission. (2004). Age of electoral majority: Report and recommendations. London: The Electoral Commission:http://www.electoralcommission.org.uk/i-am-a/journalist/electoral-commission-media-centre/news-releases-reviews-and-research/voting-age-should-stay-at-18-says-the-electoral-commission
[2b]Chan, T. W., & Clayton, M. (2006). Should the voting age be lowered to sixteen? Normative and empirical considerations. Political Studies, 54(3), 533–558
[3]Franklin, M. N. (2004). Voter turnout and the dynamics of electoral competition in established democracies since 1945. Cambridge: Cambridge University Press
[4]Yosef. B.,Kasper M.H(2012). Leaving the Nest and the Social Act of Voting: Turnout among First-Time Voters. Journal of Elections, Public Opinion and Parties Vol. 22, No. 4, 380–406
[5]Zeglovits, E.,Zandonella, M. (2013). Political interest of adolescents before and after lowering the voting age: The case of Austria. Journal of Youth Studies, 16(8), 1084–1104.
[6]Wagner, M., Johann, D., Kritzinger, S. (2012). Voting at 16: Turnout and the quality of vote choice.Electoral Studies, 31(2), 372–383
[7]Bergh, J. (2013). Does voting rights affect the political maturity of 16- and 17-year-olds? Findings from the 2011 Norwegian Voting-Age Trial. Electoral Studies, 32, 90–100

ぐし について

スウェーデンのウプサラ大学大学院政治行政学修士取得、欧州議会漁業委員会で研修生として勤務後(-2013年3月)、ブリュッセルでEU政策や市場動向などを調査の仕事に従事。2014年11月から慶應大学のEUSI研究員。千葉市まちづくり未来研究員(自転車政策)。NPO Rights副代表理事として若者政策(主に若者参画)の提言や分析を行う。連絡先:gushiken17@hotmail.com
カテゴリー: EU, 政治参加・投票率・若者政策 パーマリンク

20代前半よりも高い10代の投票率 への1件のフィードバック

  1. Tatsu より:

    Reblogged this on Tatsumaru Times and commented:
    小串さんのブログより。

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