スウェーデンの買春禁止法がもたらした規範意識の変化

(売)春という行為を合法化の下で管理するか違法行為として禁止するかという論争は、欧州のフェミニストにとってお馴染みのものになっている。前者の合法化モデルを進めてきたのはオランダで、ドラッグの合法化と同じように売春婦も職業として認めてきた。その主な目的は、売春婦の人権を守りながら管理•運営していくことだった。

このオランダモデルに断固として反対してきたのがスウェーデンのフェミニストたちである。実際にスウェーデンでは1999年から世界に先駆けて買春行為を禁止した(最高1年の罰則規定)。彼の思想を要約すると、「買売春を法的に認めることは、男性に依存する家父長的な体制を温存するだけでなく、(海外からの)人身売買を含む犯罪行為の助長に繋がる。根本的な解決のためには、男性が女性を買うという行為自体を減らさなければならない」というもの。

スウェーデンのフェミニストは、自国の13年間の社会実験を成功と結論付けている。1999年の買春禁止法の施行後、スウェーデンの路上における売春婦の数は減少し、今ではノルウェーやデンマー クの3分の1になっている。その一方で、路上を取り締まったとしても、インターネットや携帯を利用したブラックマーケットに流れるだけという懐疑的な声もある。たしかにスウェーデンの闇市場は拡大傾向にあるが、欧州諸国と比べると、その拡大の割合は低水準に留まっている。つまり、買春を禁止することによって闇市場に需要が流れたわけではなくて、むしろ(本来もっと増えるはずだった)闇市場の拡大の抑制に寄与しており、人身売買などの犯罪の抑止にも繋がっているという。

また、買春禁止法のもたらした最大の成果は「買売春はいけない」という規範意識を作りあげたことだと指摘される。法律が施行する前の世論調査では、これに賛成するスウェーデン人の割合は3割だったが、今では7割まで増えている。「買売春は悪いこと」という規範が浸透することで、路上での買春だけでなく、闇市場の潜在需要も減らしている。例えば、スウェーデンが違法ダウンロードの刑罰化を進めたとしても、「違法ダウンロードはいけないこと」という規範意識が共有されない限り、人々はいくらでも抜け穴を探してダウンロードをやめない。その意味で、スウェーデン人の買売春に対する規範意識が変わってきていることは大きな成果といってよいだろう。

ただし、スウェーデン人の男性 が海外に新たな市場を求める動きはあるようだ。ノルウェーは2009年から世界に先駆けて自国民の国外での買春を禁止した。他国で合法だと認められている行為に対してどうやって罰則を課すのか不明だが、おそらく実質的な効果というよりも規範意識を高めるためのアナウンス効果を狙っているのだろう。

今、スウェーデンのフェミニストたちは、ノルウェーと同様の罰則規定を設けるようにスウェーデン政府に働きかけている。現在のスウェーデンの政治状況を見ると、政権の右派ブロックではキリスト教民主同盟以外の3党が反対しているが、野党の3党(左党、環境党、社民党)はこの提案を支持している。来年の総選挙で左派ブロックが勝てばすぐに法制化される可能性がある。また、EUの中でもスウェーデンモデルは注目を浴びており、フランスなどにも輸入される見込みである。これがオランダの合法モデルを侵食するかはわからないが、長期でみれば、欧州レベルでも大きな対立を生みそうだ。

 参照:欧州議会でのカンファレンス(2012年12月4日)、スウェーデンのDNへのフェミニストの意見文

ぐし について

スウェーデンのウプサラ大学大学院政治行政学修士取得、欧州議会漁業委員会で研修生として勤務後(-2013年3月)、ブリュッセルでEU政策や市場動向などを調査の仕事に従事。2014年11月から慶應大学のEUSI研究員。千葉市まちづくり未来研究員(自転車政策)。NPO Rights副代表理事として若者政策(主に若者参画)の提言や分析を行う。連絡先:gushiken17@hotmail.com
カテゴリー: スウェーデン, スウェーデン(政治・社会), EU パーマリンク

コメントを残す

以下に詳細を記入するか、アイコンをクリックしてログインしてください。

WordPress.com ロゴ

WordPress.com アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Twitter 画像

Twitter アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Facebook の写真

Facebook アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Google+ フォト

Google+ アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

%s と連携中