EUの共通漁業政策の修正案の行方

週間前、共通漁業政策(CFP)の改革案が欧州議会の大多数の賛成で可決した。しかし、本当の戦いはこれから始まる。欧州議会で可決された改革案は、加盟国政府で構成される閣僚理事会で承認されなければならない。もし閣僚理事会で合意が得られなければ、新たに修正点を付け加えた上で、欧州議会へと突き返される(second reading)。もし欧州議会がこれを受け入れなければ、調停委員会(日本でいう両院協議会のようなもの)が招集され(third reading)、両者の妥協が計られる。

さて、閣僚理事会はどう動くだろうか?

今のところ、欧州議会で可決したCFPの修正案がそのまま閣僚理事会を受け入れる可能性は低いとみられている。その理由は大きくわけて二つある。1)上院と下院の政党グループの議席のバランスがねじれていること 2)対立の争点が政策よりもEUの制度のあり方に関するものであること。

(1)閣僚理事会では、人口のサイズに考慮する形で、それぞれの加盟国に持ち票が分配されている。全体の345のうち、ドイツ、フランス、イギリス、イタリアには29票(8.9%)ずつ与えられている。また、意思決定の方法は、税制や外交などの主権が関わる政策においては「全会一致方式」、それ以外の多くの政策分野では「特定多数決方式(Qualified Majority System)」が採用されている。特定多数方式では、全体の255の票数(74%)を超えれば法案が可決。逆にいえば、91票(26%)で法案をブロックすることができる。

 現在の閣僚理事会と欧州議会のにおける政党の勢力図(~2013年1月現在)

 欧州議会と閣僚理事会の勢力図

現在、閣僚理事会における政権政党の構成を見ると、27の加盟国のうち15カ国が(穏健)保守党グループ(EPP)によって率いられている(連立政権の場合は首相の所属する政党を指す)。政党グループの持ち票の割合は、EPPグループが50.7%、(英)保守党のECRは11%、社民党は22.9%となっている。つまり、現行の特定多数方式の下では、(特定多数の74%を満たさない)EPPグループだけで法案を可決に導くことは不可能だが、少なくとも気に入らないものをブロックできる。

一方、欧州議会では、EPPの議席割合は35.8%で過半数を満たしていないため、他の政党が政策ごとに連立を組んだ場合、EPPはそれをブロックすることはできない。EPPが過半数を満たすためには、ECR(英保守党)とALDE(自由党)との右派陣営と協力するか、あるいは左派のS&D(社民党)と大連立を組む必要がある。過去の投票記録を見る限り、いくつかの政策分野(農業/漁業/予算)では、EPPとS&Dが大連立を組むことが多いが、環境政策などの分野においては、両党は対立する傾向にある。また、ALDE(自由党)はいつもEPP(保守党)に歩調を合わせるが、環境/市民的自由の政策領域になると、S&D(社民党)につく場合が多い。

最近の研究では、欧州議会で右派陣営(EPP,ALDE,ECR)の多数で可決された法案は、閣僚理事会でもそのまま可決する傾向にあるが、左派陣営(S&D,ALDE, Green)によって可決された法案は閣僚理事会でブロックされることが多いということが明らかになっている。まさに「ねじれ」状態である。

なぜ共通漁業政策(CFP)の修正案が閣僚理事会でブロックされる可能性があるかというと、CFPの改革案の中身は左派陣営の多数によって可決されているからだ。閣僚理事会の多数派は右派政権によって構成されていることから、左派陣営の法案をそのまま通すことは難しいだろう。

(2)もう一つの理由は、閣僚理事会と欧州議会の対立点は漁業政策の中身ではなく、EUの政策決定の制度に関することだからだ。これまで魚の漁獲枠の設定については閣僚理事会が独占的に決めてきた。しかし、リスボン条約の発効後、欧州議会の立法権が拡大したという解釈の下、今回のCFPの改革案は、「中長期的な漁獲枠を決めるプロセスへの欧州議会の関与」を求めている。

閣僚理事会は「MSYの遵守」や「船外投棄の禁止」などの項目については細かいところで妥協の余地はあるが、「中長期の漁獲枠を決めるプロセスへの欧州議会の参加」は認められないとして反対している。欧州議会は「リスボン条約に記載されている権利を求めている」として断固戦う姿勢を見せている。もし両者が妥協をしなかったら、「MSYの遵守」や「船外投棄の禁止」などの重要な事項についても先延ばしになる。最悪の場合、来年の夏まで待っても可決しない可能性すらある。閣僚理事会は「漁獲枠にこだわる欧州議会に非がある」といい、欧州議会は「閣僚理事会が悪い」という。

欧州議会の議員は自分たちに妥協の余地はない、閣僚理事会にすべてが委ねられていると主張。だが、このままチキンレースのようにブレーキを踏まずに進めば、閣僚理事会の合意が得られないまま、改革案がクラッシュするかもしれない。ある漁業委員会の議員は「もしそうなったら、いくら閣僚理事会に非があるとしても、我々は漁業者に土下座して謝らないといけない」とも言っている。

ぐし について

スウェーデンのウプサラ大学大学院政治行政学修士取得、欧州議会漁業委員会で研修生として勤務後(-2013年3月)、ブリュッセルでEU政策や市場動向などを調査の仕事に従事。2014年11月から慶應大学のEUSI研究員。千葉市まちづくり未来研究員(自転車政策)。NPO Rights副代表理事として若者政策(主に若者参画)の提言や分析を行う。連絡先:gushiken17@hotmail.com
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