先週、EUの多年度財政枠組案(MFF)がすべての加盟国の合意が得られた。これはEUの2014-2020年の7年間の予算の上限とその内 訳を設定するもの。EUの予算は発足以来、EUの権限の拡大や加盟国の増加に沿ってずっと右肩上がりだった。それが、今回初めて減ることとなった。
欧州委員会は当初1兆€を超える予算を提案していた(2007-2013年の予算より4.8%の増大)。しかし、イギリスや北欧諸国を筆頭に加盟国の激しい抵抗を受けたため、当初の提案よりも500億€(約6兆円)削減され、9600億€となった(2007-2013年の予算よりも3.3%の減少)。予算の内訳/分配を見てみると、農業分野への補助金が削られ、R&Dやインフラ、教育に対する予算枠が相対的に増えている。また、一人当たりの欧州官僚の給料が5%ほど減らされる模様。
ただ、予算案が採用されるためには、欧州議会の承認を受ける必要があるが、議長のマーティン=ショルツ(独)は、R&Dを始めとする未来への投資が削減されたとして不満を表明。4つの政党グループー保守党、社民党、自由党、緑の党ーも予算案の否決の可能性を示唆している。
もし欧州議会が否決すれば、多年度の予算枠が崩壊、R&Dなどの長期的な投資の計画が立てにくくなる。ただし、その場合、来年の予算は前年度の予算が2%のインフレ分を上乗せした上で自動的に繰り上げされる。つまり、EUとしては、長期的な予算が組みにくくなるデメリットはあるが、全体の予算額は増えるというメリットがある。
予算案をめぐる動きは欧州での関心の的となっている。どちらが良い選択肢なのかは一概にはいえないが、欧州議会の官僚の同僚の一人は、予算案を拒否するべきだ、といっていた。来年、欧州議会選挙があるが、その投票率は40%台で低迷している。もし予算を巡る戦いで存在感を見せつければ人々の欧州議会に対する関心が高まり、投票率も上がるというのだ。
たしかに欧州議会が予算案を拒否すれば欧州議会に対する注目度は上がる。欧州の重要な政策がここで決まると分かれば、好き嫌いに関わらず、選挙に行く人は増えるだろう。だが、実際に議会が否決をした場合、EUの市民が賛成するかどうかは別問題である。欧州議会は、未来への投資を減らすべきではないと主張しているが、逆に、多くの国民は(あまり内容を知らず)EU予算の削減を支持していることも事実。 加盟国の首相がEU予算の削減を進めているのは、多くの国民がそれを求めていると考えているからだ。一方、欧州議会は、EUの市民の多くがEU予算の増大を求めていると思っている。加盟国政府は自国の民意に従う必要があるし、欧州議会はEU市民全体の民意を反映させることが仕事だ。民主主義の原則に照らしてみて、どちらも間違っているわけではない。
いずれにしても、来月の3月、ストラスブルグでの欧州議会の投票は要チェックである。