EU残留派内で亀裂発生!移民制限に舵を切る労働党

国民投票の一週間前に、残留派内で亀裂が生じ、投票行動にも影響を与える可能性がある。英大手紙のGuardianFTの記事で報じられている。

6月14日、英労働党は残留派が勝利すれば,EU移民を制限できるようにEUと交渉を行う用意があると言い始めた。移民問題で支持が増えないことに焦った労働党が投票直前になって移民の制限に舵を切り始めたのである。だが,これは「単一市場のアクセスは移動の自由の保障とセットであり、EU移民の制限は行わない」とするキャメロン首相の主張と真っ向から対立するものである。

キャメロン首相は、EU移民の制限措置を巡って昨年から再交渉を行ってきたが、EU側は「EU移民の制限を行うのであればEU単一市場へのアクセスは認めない」としてこれを突っぱねた。EU移民の制限を認めれば他国もドミノ倒しのように続く可能性があるので、EUにとって決して譲歩できないものである。実際、スイスはEU移民の制限を求めたがEUは反対している。参考記事

労働党の要求は実現不可能なので、キャメロン首相が受け入れることはない(受け入れたら嘘つき野郎といわれるだろう)。一方で,労働党が求める移民制限の要求を明確に突っぱねれば、移民をコントロールできないと有権者に思われるとともに、労働党の一部の議員や党員からの失望を買うことになるだろう。キャメロン首相は八方ふさがりで、どっちに転んでも残留派への信頼は損なわれることになる。

ポピュリズムにポピュリズムで対抗すれば、有権者はうんざりするだけだ。労働党がこんな無責任かつ大衆迎合的な姿勢をみせ始めたのはナンセンスというほかない。

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EU離脱派のプロパガンダ映画!

英国の国民投票があと9日に迫ってきた。賛否の動向については前回記事で触れたので(前回記事)、今回は、国民投票をよりよく「楽しむ」ために、EU離脱派の有志が製作した「英国離脱映画(Brexit the Movie )」というプロパガンダ映画を紹介したい。国民投票に合わせてクラウドファンディングで資金調達して作ったものだ。

この映画は「全ての問題の原因はEUにある」ので、「EUを離脱すればより良い未来がやってくる」と説く。その主なメッセージは、①EUは非民主的な機構でありコントロールできない、②規制ばかりを作って自由なビジネスを阻害している、③EUに加盟しないスイスの方が大成功している、④EUを離脱すればアメリカや新興国と自由にFTAを結ぶことができる、⑤EUは極右政党が台頭していて危険だ、というものだ。

この映画は、レポーターが色んな現場をまわって当事者っぽい人から「EUは許せない」という話を聞き出す。次に専門家っぽい人が出てきて補足説明をした上で「だからEUから離脱するのが良い」と繋ぐ構成になっている。これをテンポよく何度も繰り返されると、見ている人は何となく離脱した方がよいという気持ちになってくる。映画の内容は事実誤認やミスリーディングな描写が多いのだが、普通の人はそんなことに気づきやしない。ポピュリズムと戦うことがいかに困難なことかを考えさせられる映画である。

 

EU機構のことを誰も知らない

EUとは何か?

レポーターがブリュッセルでEU機構について街頭インタビューして尋ねる。「欧州理事会(European Council)とEU理事会(the Council of European Union)の違いは分かりますか?  欧州委員会(the European Commission)と欧州評議会(the Council of Europe)の違いは分かりますか?」と。もちろん、回答できる人は誰もいない。レポーターは、人々が認識できない政治機構で政治が行われていていいのかと問いかける。

EU首相や大統領を誰も知らない(注1)

EU首相は誰か?

国民が代表者を選び、国民が求める政策を代わりに実施してもらうのが(代議制の)民主主義の基本である。では、EUの国の人々、自分たちの代表者の顔と名前を知っているのだろうか? レポーターはブリュッセルの街中で、EU首相のジャン•クロード•ユンカー(元ルクセンブルグ首相)を知っているのかと質問してみると、誰も答えられない。英国であれば、選挙でキャメロン首相を代表として選ぶので、彼のことは誰でも知っている。EUでは、代表者を選べず、コントロールすることができない。レポーターは、そんな状態で民主主義が機能するのかと問いかける。

EU官僚はキャメロン首相よりも高給取り(注2)

EU官僚の給与

EU官僚は高い給与をもらって特権をたくさん持っているイメージがあるが、本当なのか? レポーターが欧州議会に行って調べると、なんと、英国のキャメロン首相よりも高い給与をもらっている官僚の数は1万人、EU官僚の5人に1人の割合で存在するという。EU官僚は、基礎給与に加えて、駐在手当、世帯手当、家族手当、教育手当などが付与され、さらに、EU官僚の特権により減税を受けることができる。また、欧州議会の豪華設備や欧州議員の給与体系を指摘し、その特権性を強調する 。

EUの漁業政策のせいで英国の漁業は壊滅(注3)

漁師の声

レポーターは英国の港町を訪れると、EUによって破滅に追いやられた可哀想な漁業者の声を紹介する。漁業者は「昔はたくさん魚が取れたんだ。それがEUに入ってからドイツの船がやってきて魚を奪っていったんだ」という。また、漁業者は、EUは漁業者に対してお金をばらまき退職を促してると文句を言う。レポーターは、EU加盟後,北海の漁獲量枠の一部を他国に与えざるをえなくなり,英国の漁船の漁獲量が劇的に減少したが、EUを離脱すれば 英国の漁業を取り戻せると主張する 。

昔は大漁今はこれだけ

日常を取り巻く膨大なEU規制(注4)

EU法令が日常を覆う

専門家っぽい人は、EU規制が健全なビジネスを阻害していると主張する。専門家っぽい人たちは、レポーターと一緒に、日常生活を取り囲むEU関連法令の数を映像でシュールに表現することにした。被規制男は、規制された家を出ると、家に関するEU関連法令の数が表示される。舗装道路の法令数は1467件、自動車は1872件、お皿は99件、ミルクは1万 2000件,スプーンは210件という具合に−。そして、これらの規制は、すべてEU官僚と大企業のために作られていると主張する。

自動車や道路に関する法令数

ミルクやフレーク、スプーンの規則

世界は規制で溢れている

 

貿易障壁で囲まれているEU(注5)

EUは貿易障壁でいっぱい

専門家っぽい人は、EUは自国産業を守るために,他国からの物品に対して①高い関税と②輸入数量制限を課し、③複雑怪奇な規制を設けることによって貿易障壁を築いていると主張する。

その実例として,英国における砂糖の加工工場の社長の声を登場させる。社長は「本来であればEU外からサトウキビを安く輸入できるのに、EUが高い関税を課しているせいで加工の仕事が減ってしまった」という。非効率なEU企業を守ることで、コストが上がり、市民は貧しくなっているという。さらに、勤勉なアジア系の人がせっせと製品を作るのに対して、怠け者の南欧系の人は仕事をせずにEUにロビーイングをして規制を作らせるという場面が流されて,だからEUの経済はダメなんだという主張が展開される。

FTAで後塵を拝すEU

EUは貿易協定で負けている

専門家っぽい人によれば、保護主義的なEUは自由貿易協定( FTA)を結ぼうとしないという。FTAを結んでいる国のGDPの総和をみると,スイス、シンガポール、韓国、チリなどと比べてEUは遅れているのだから、EUを離脱して個別のFTAを結ぶのが良いのだと繋げる。

EU加盟国ではないのに繁栄するスイス

スイスはすごい

スイスのGPDは高い

レポーターは、スイスを訪れる。スイスは、ノバルティス、ネスレ、ロッシュ、ロレックス,オメガ,UBS,クレディットスイスなどの世界的企業が集まり、一人当たり輸出額は英国の5倍,一人当たりGDPは英国の2倍,失業率は低く,給与は高い,そして、多くのFTAを結んでおり、ビジネスを阻害する規制が少ない。ここでレポーターは,「スイスは英国より多少優れているどころではない。ファンタスティックに優れているのだ」と褒めちぎった上,どうしてスイスはこんなに優れているのかと問う。

ここでスイス人の専門家っぽい人が登場し、スイスの成功の秘訣は「EUに加盟していないところにある」と説明する。EUは非民主主義的でトップダウンであるのに対して,スイスは超民主主義国であってボトムアップの国だ。5万人の署名を集めれば国民投票を行うことができ,国民が政治家や官僚をコントロールすることができる。だから、英国もEUから離脱するのが良いとアピールする。

EUにおけるポピュリズムと極右極左の台頭

マリーヌルペンEUにいると危険

2008年の経済危機後、EU諸国は失業率が高止まりし、極右政党が台頭している。フランスでは、マリーヌルペン率いるナショナルフロントが欧州議会選挙で第1党となった。他の国でもテロや暴動の脅威にさらされ、EUはより危険な場所になっている。また、EUによる非民主的に決定を押し付けることで、極右勢力を生み出すことに加担している。こんなEUからは離脱した方が良いと主張する。


注釈

(注1)EUにおいては,国民が自国の選挙で選んだ加盟国の代表者らがEU首相(欧州委員長)やEU大統領を任命している。また,欧州議会選挙を通じて首相候補の政党を選べる仕組みを取っている。欧州議会はEU首相を罷免する権利を持っており,実際に1999年に不信任決議をしたことがある。加盟国は日常的にEU行政機関を監視しており、EUの行政機関がブレーキのない機関車という主張は間違いである。 参考記事

(注2)キャメロン首相の給与は手取りで約900万ポンド(額面で140万ポンド)であり、国際的にも民間水準でもその地位の割には決して高くない。また,EU官僚が高給取りだというが、有能な人材を集めるためには民間エリートに準じた給与体系を用意することは不可欠である。どこの国でも官僚批判はウケがいいが、官僚の給与を引き下げれば引き下げるほど有為な人材の流出が加速することになる。なお2014年~2020年にはEU官僚の給与は減額されることとなっている。参考記事

(注3)EUの共通漁業政策により許容漁獲枠が高く設定され,資源の枯渇を招いたことは事実だが,その制度上の問題点は2013年の改革案で軌道修正されている。参考記事。また、EUから離脱すれば英国のEEZから他漁船を追い出せると思っているかもしれないが,タラやサバなどの回遊魚については広域での共同管理が必要になるので,周辺国と漁獲枠を調整することに変わりはない。ノルウェーやアイスランドがEUと漁獲枠を調整しているのと同じことである。むしろ、サバ戦争のようにノルウェーやアイスランドと対立する可能性がある。その際にEUは強い影響力を行使できるが、英国単独であれば何もできなくなる恐れがある。参考記事

(注4)EU関連法令の数の根拠が不明であり、その数が多いのか少ないのかも判断できない。規制はが少ないのが良いというが、それでは安全基準や環境基準に関する規制なども必要ないのだろうか? 個別具体的にこの規制は問題だというのであれば有益だが、規制が多くて問題というのはただの印象論や愚痴に過ぎない。なお,EUは2年前から,規制の簡素化と単一市場のサービス分野(特にデジタル分野)の統合深化に向けた取り組みを急ピッチで推進している。これは英国の強い要望で行われているものである。英国に有利な形でサービス分野の市場統合への取り組みが進んでいるにも関わらず,そこから離脱しようとするのは合理的な判断とは言えない。

(注5)EUはWTOに加盟後、関税も輸入ルールも規制も一定程度撤廃している。世界的に見て貿易障壁が多いとは必ずしも言えない。もちろん、センシティブな分野については関税や非関税障壁を残しているところもあるが、それはどこの国も似たようなものである。また、FTAの数が少ないという批判があるが、EUはこれまで WTOの貿易枠組みの進展に注力していたため、FTAの交渉は抑制していた。世界全体で自由貿易の枠組みを構築する方が良いと考えていたからだ。また、経済規模が大きい国の方が利害調整が難しくなるので、交渉期間が長くなることは致し方ない面がある。

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なぜ英国はEU離脱に向かっていくのか?

 英国がEUに残るのか離脱するのか否か全く見通せない状況になってきた。当初は、国民投票が近づけば、リスクを回避しようとする人が増えると考えられていたが、むしろ、投票日が近づくほど離脱派が勢いを増してきており、EU離脱のシナリオが現実のものになりつつある。

 こうした事態に最も驚いているのはキャメロン首相だろう。

 キャメロン首相は、不確かな未来の危険性を指摘し、現状維持に訴える作戦で数多くの論戦を乗り越えてきた。2011年の選挙制度改革に関する国民投票の際には、改革案に賛成すれば、少数政党の増加により、宙吊り国会(hang parliament)になるとして反対キャンペーンを成功させた。2014年9月にスコットランドが英国独立を巡って住民投票を実施した際には、キャメロン首相は「スコットランドが独立すれば、EUにも加盟できず、通貨(ポンド)が使えなくなり、経済・雇用に大打撃を与える」という人々の不安に訴える選挙キャンペーンを展開して勝利を手にした。また、2015年5月の総選挙の時は、労働党が勝てば、スコットランド国民党と連立を組んで社会主義政策を進めるとネガティブキャンペーンを行うことで、下馬評を覆して過半数を確保することに成功した。

 今回の国民投票においても、キャメロン首相は、「不確かな未来」と「確かな現状」の二つの選択肢を迫れば、国民はEU残留を選ぶはずだと確信しており、「EU離脱は経済や雇用を破壊する」というキャンペーンを展開してきた。だが、経済問題で不安を掻き立てるキャンペーンは失敗しつつある。国民にメッセージが全然届いていないのである。

 グラフ:スコットランドの英国独立をめぐる住民投票(賛成・反対)の世論調査

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 英国世論調査会社のYougovによれば、スコットランドの独立を巡る住民投票(2014年9月17日)の時も終盤になって賛否が拮抗する構図だったが、最後の一週間でリスク回避に走る人が増えたようだ。今回のEU離脱に関する国民投票でも投票一ヶ月前になって賛否が拮抗する構図になっている。スコットランドのように、国民投票の終盤でEU残留に向かう人が増えてくるのだろうか?

 グラフ:個人の経済状況の向上・悪化・変化(住民投票と国民投票の1ヶ月前)

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 Yougovによれば、二年前の住民投票と今回の国民投票では、人々のリスクの認識に大きな違いが見られる。住民投票の一ヶ月前に「スコットランドが独立した場合に個人の経済状況が向上するか、悪化するか、変わらないか」という質問をしたところ、悪化すると回答したスコットランド人は42%で、変わらないと答えた人は22%だった。今回、これと同様の質問を英国人にしたところ、悪化する答えた割合は21%で、変わらないと回答した人は47%にも及んでいる。

 この調査が信頼できるものであるとすれば、キャメロン首相がなりふり構わず訴える経済的なリスクは国民に響いていない。どうして響かないのか? EU離脱のリスクをリスクとして認識していないのだろうか? もしそうだとしたら、まだあと二週間、キャメロン首相に巻き返しの可能性は残されている。だが、もし有権者が、EUに加盟して主権をコントロールできない方がリスクだと認識していれば、キャメロン首相が採用した経済リスクを訴える戦略は響かないだろう。実際、討論の主戦場は、経済問題ではなく、主権や移民の問題に移りつつある。

 むしろ、EU残留派が抱える最大のブレーキは、キャメロン首相である。彼の主張の内容は理路整然としていて理解できるし説得力があるが、共感しにくい。鼻持ちならない、金持ちのエリート野郎であり、米国のヒラリー・クリントンのような嫌味さが滲み出ている。何より、キャメロン首相のアキレス腱は、彼自身が保守党の党首になった時に純移民を数万人まで制限すると約束したマニフェストが守られいないことである。これは国民が最も関心を持っている問題であるが、マニフェストは守られるどころか、EU移民は17万人まで膨れ上がっている(2015年)。「キャメロン首相は数万人に制限すると言ったくせに、守られていないじゃないか」と離脱派から批判されれば、その点は真実なだけに反論ができない。いくら経済論戦で勝とうとも、この点でうまく立ち回ることができなければ、国民を動かすことはできず、支持は増えないだろう。

 一方、現在、英国のメディアを席巻しているのは離脱派のタレントたちだ。EU離脱派の主役は、元ロンドン知事のボリス・ジョンソンである。太っちょで小憎たらしいが、どこか憎めない、庶民派の大物議員だ。「ローマ帝国が欧州を支配したように、またドイツ第三帝国がしようとしたように、EUが欧州を支配しようとしている」というアウトな発言をしたが、勢いは全く止まらない。こうしたデマゴーグたちが論理ではなく感情に訴えるメッセージを繰り出すことで、冷静でエビデンスに基づいた議論が失われていく。まさに米国のトランプ現象と同じようなことが起こっている。

 EU離脱派が勝利すれば、ジョンソン政権が誕生する。米国でトランプ大統領が誕生すれば、英国と米国の「特別な関係」の再構築が始まりそうな気がするが、そんなこと考えたくもない。

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英国民は国民投票で経済問題と主権問題のどちらを重視するのか??

 英国のEU離脱を巡る国民投票(6月23日)が約3週間後に近づいてきた。

 6月2日、Skynews(ニュース専門チャンネル)において、残留派の英首相のキャメロン、6月3日に離脱派の司法大臣のマイケル•ゴーブがそれぞれ一時間の枠で質問と回答を行った。約25分間、主要なテーマに沿って男性の司会者からの「尋問」に対して回答し、その後、スタジオの一般聴衆から25分間の質問を受けるというものだ。これまでの討論としては最も長く包括的なものであり、何よりも、司会の質問が極めてタフで、見応えがある(日本でもこういうガチンコの勝負が見たいものである)。

 二人の尋問の結果について私の印象をいえば、キャメロン首相が上手く切り抜けたという感じするがが、一般大衆の目線になれば、ゴーブ司法相の方にシンパシーを感じたかもしれない。

 キャメロン首相への質問&回答(英語)

 キャメロン首相は、EU離脱は英国経済に悪影響を与えるという一点をゴリ押ししており、EUの単一市場(single market)へのアクセスがなくなれば、自動車や航空業界の製造業から金融などのサービス業まで大きな経済損失を受けるという点を強く強調、さらに離脱派はEU離脱した後のシナリオを全く考えていないとして批判を展開した。まさに経済問題に特化したアピールといえよう。

 司会者から「保守党のマニフェストにはEUからの移民の純流入数を1万人までに抑えるとしていたが、実際は10万人を超えて流入していて公約違反ではないか? いつ目標は達成されるのか?」と問われると、キャメロン首相は「EU市民に対する勤労給付を調整したので今後EU移民の数は減るはずだが、いつ達成するかはいえない」と回答。また、「EUの単一市場(single market)へのアクセスを確保するためには、全ての加盟国が単一市場のルールを遵守する必要がある」と述べた。キャメロン首相の回答は非常に正直なものであるが、EU移民の削減を求める英国民からすれば、移民は防げないと思うだろう。

 ゴーブ司法大臣への質問&回答(英語)

 

 一方で、ゴーブ司法大臣は、英国のことはEUではなく英国が決めるべきだという主権の問題を強調、特に移民政策については「私は移民に反対しているわけではない、EUからの移民は無制限に受け入れなければならない点がおかしい、むしろ、英国がオーストラリアのように条件に見合う移民を受け入れるような仕組みをとるべきだ」と主張した。まさに主権とコントロールに特化した説明だった。

 司会者から、経済に悪影響がないといえるのかと問われると、質問には直接的に答えず、EU離脱後のシナリオについても語らなかった。むしろ、これらの質問に対しても「主権とコントロールを取り戻すことが大事なのだ、EUのエリート官僚の規制から抜け出せば、英国民の潜在力を発揮できるようになる、私は英国民の力を信じている!」というような、ナショナリズムに訴えるような主張を展開した。しかも、最後には「EUからの離脱は英国を再び真に偉大にするのだ(if we leave the EU – ensure the next generation makes this country once more truly great)」というドナルド•トランプをパクったかのような発言が飛び出した。

 

まとめ

 

 キャメロン首相は上手く立ち回ったが、ゴーブ司法相は意外にも経済分野での失点が少なく、主権や移民問題で感情に訴えるアピールをしたことで、一般大衆からは印象が良かったのではないかと思う。キャメロン首相は「EU離脱は経済に悪影響」という点を強調しているが、ゴーブ司法相は「経済に悪影響になるかもしれないが、主権や移民の方が大事だ」という反論を展開しているため、結局のところ、英国民が、経済影響をより重視するのか、主権や移民の問題を重視するのかという理念の違いに帰結してしまう。キャメロン首相の戦略は、「人間は経済合理性に基づいて行動する」という理論に基づいたものであるが、人間は経済合理性よりも感情を優先させる事もしばしばあるので、どちらに転ぶかどうかはわからない。日本人が戦争に負けると分かっていて突っ込んでいくのと同様、英国人も経済的に死ぬと分かっていて飛び込まないとどうしていえるだろうか?

 なお、国民投票の二日前(6月21日)には残留派のオズボーン財務相と現ロンドン知事のカーンと元ロンドン知事のジョンソン氏が公開ディベートを行うことになっているので、そこが勝負の分かれ目かもしれない(当初は財務大臣のオズボーンとされていたが、カーンに変更されたようだ。新旧のロンドン知事対決である)

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ネットフリックス等に保護政策で立ち向かうEU

 欧州委員会は、ネットフリックスなどの動画配信サービスの運営会社に対して、一定数のEU作品(European works)の配信を義務づける改正案(音響•映像メディアサービス指令の改正案)を発表した。EUではすでに放送局の放送時間の最低限半分をEU内で作られた作品に割り当てることが定められている(フランス政府は、放送時間の60%がEU内の作品で、そのうち40%はフランスの作品でなければならないとしている)。

 今回の改正案は、既存の放送事業者だけでなく、ネットフリックス、アマゾンプライム、Ituneなどの動画配信の運営会社についても配信数の全体の20%に当たる作品をEU作品とするものである。動画配信会社は当然のごとく反発している。「視聴者が見たいものを提供できなくなる、視聴者が少ない作品を配信しなければならなくなれば市場を歪めることになる」と。

 ドラマや映画などの映像作品は、その国の言語や時代、生活様式などの文化を体現するものであるとして、EUは、文化の多様性を守るために市場競争に晒すべきではないとの立場をとってきた。映像分野ではハリウッドを始めとする米国作品が圧倒的に強い競争力を持っているので、米国の文化帝国主義から自国の文化を守るためにも外国作品を制限する措置をとってきたのだ。そして、最近のテレビからオンラインへの視聴のスタイルが移行してきている中で、外国作品が流入する抜け穴が生まれてきたので、それを食い止めるために新たな割当を設定しようとしている。

 自国の映像配信を義務付けることは、自由貿易の理念から真っ向から対立するものだ。それを文化の多様性の尊重といって一見すると普遍性がありそうな概念で正当化しようとするところがEUの狡猾で戦略的なところである。こういうことができるのもEUとして大きな経済市場があるからである。ネットフリックスはEUの巨大市場を無視することはできないので、EU作品の配信を行うし、自前でEU作品を作るだろう。もちろん、各国の作品をそれぞれ取り入れることは視聴者を獲得する上で欠かせないものであり、実際にEU全体のネットフリックスの映画作品をみると、約21%がEU作品だった。別に法律で義務を課さなくても、市場を開拓しようと思えばその国の作品を扱うことになるだろう。

 EU内でも全ての加盟国がこうした保護政策を取りたいわけではない。すでにオンラインの映像配信に割当を課している国は、保護政策の急先鋒のフランスを始めとする15ヶ国で、英国やスウェーデン、デンマーク、オランダ、ドイツなどの13ヶ国はそうした措置は取っていない。

 アメリカは良いコンテンツがあってそれを米国の会社が運営するプラットフォームが世界各国で提供することで輸出拡大している。EUはそれに狡猾な保護主義によって対応している。日本は良いコンテンツがあっても提供するプラットフォームがないし著作権のせいで輸出は伸びず、しかもEUからは保護主義によって閉め出しを受けるという残念な状況になりそうだが、大丈夫だろうか。

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 なお、EUにおけるテレビとオンデマンドの視聴時間のデータをみてみると、若者のテレビ離れはかなり顕著に進んでいる。下記のグラフ(2014)は、EU加盟国ごとの全世代と若者のテレビの1日当たりの平均視聴時間(録画等のタイムシフトを含めたもの)を比べたものだ。スウェーデンでは全世代含めて視聴時間が最も低いが、ルーマニアはその倍近くの視聴時間となっている。

 グラフ①:全世代と若者(10代後半〜20代前半)のテレビの平均視聴時間(加盟国別) 全世代と若者の平均視聴時間

 また、2011年と2014年のテレビの視聴時間の変化をみてみると、全世代の視聴時間はほとんど変わっていないが、若者の場合には4%減少している。ただし、加盟国別にみると、デンマーク(31%減)、スウェーデン(17%減)、英国(16%減)、ドイツ(13%減)となっており、西側諸国にテレビ離れが進んでいる印象を受ける。

 グラフ②:EUにおける全世代と若者のテレビ視聴時間の推移 世代別の視聴時間の推移

 一方で、オンデマンドの映像配信サービスの視聴時間(パソコン)をみてみると、2013年から2015年まででさほど増えておらず、全世代と若者層でも顕著な違いはみられなかったようだ。ただ、本報告書は、スマホやiPadなどの携帯デバイスでの視聴は含んでいないので、映像配信サービスをパソコンでみていないだけの可能性があると指摘している。

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日本の大学進学率は低いは本当か?

 日本の大学進学率は低いというイメージが広まっているようだが,各国の細かい事情や統計の取り方の違いを理解せずに「日本の大学進学率が低い」という点だけが一人歩きしているように思う。こうした事実認識はミスリーディングであり、将来の日本の高等教育のあり方を考える上でもよろしくないので、自分なりに問題点を調べた上で、より実態に近いものを示してみたい。

日本の大学進学率は低いのか?

 文科省は2013年くらいから日本の大学進学率は低いと盛んに言い始めた。当時の下村文部科学大臣が、下記の「大学進学率の国際比較(OECD Education at a glance 2012)」というプレゼン資料に基づいて国会で説明していて,個人的に違和感を持ったことをよく覚えている。

 図1:2010年の大学進学率の国際比較(文科省のプレゼン資料と詳しい資料

大学進学率の国際比較.png

 上記のプレゼン資料には「日本の大学進学率はOECD各国と比べると高いとはいえない」と書かれており,日本の大学進学率は52%で、OECD平均の60%よりも低く、アメリカ、英国、スウェーデンよりも10~20%以上も低くなっている。これを普通の人が見たら,「日本は世界から取り残されている,もっと大学に行く人を増やさないといけない」と思うだろう。

 ただ、オーストラリアの進学率が100%とほぼありえない数値になっているし,私が良く知るスウェーデンが日本よりも大学進学率が高い(76%!)のも直観的におかしい。何がおかしいのかを詳しく調べてみると、このデータにはいくつかの問題があることに気づいた。すなわち、このOECDのデータは、①生涯進学率の推定値を示したものである点、②海外からの留学生も含んでいる点,③全ての国が大学・短大(Aタイプ)、専門・職業学校(Bタイプ)を区別しているわけではない点、④フルタイムやパートタイムの学生を必ずしも区別していない点、である。

①大学進学率とは何か?

 日本では,大学進学率は18歳進学率(18歳人口に占める大学進学者の割合)と理解されているが、上記のグラフが扱っているのは生涯進学率で、一生のうちに大学進学する割合を推定した数値である。日本では入学者の9割以上は18〜19歳であるが、海外では高校卒業後にすぐに入学せずに社会人をしてから大学に入学する人が多いので,その生涯進学率は18歳進学率よりも高い数値が出る(注1)。

 しかし,これはあくまで推定値であり、実際の進学率はその年齢層が高齢者になるまで分からない。また,ある年に景気変動や政策変更(学費の値上げや奨学金の変更)があった場合、一時的に社会人を含めて進学者が急増し、生涯の進学率も大きく変動することがある。実際に2010年と最新の進学率のデータをみたときには,後述の②~④などの要因が重なることで数値が大幅に変わっており,その安定性には疑問がある。

②海外留学生の影響

 生涯進学率は,住民票を持つ年齢人口に入学者を割って算出しているため,海外の留学者を入学者数を含めれば数が水増しされてしまう。特にオーストラリアやニュージーランドのように多くの海外留学生を受け入れている国では数値が大幅に異なる。実際、留学生を除いた場合、オーストラリアは約30%、ニュージーランドは約20%ほど進学率が低下する(③の図2を参照)。

 一方、日本の場合、学校基本調査(2015年)によれば,大学の入学者に占める留学生の割合は約1.6%(約1万人)しかないので進学率はほとんど影響しない。もちろん,海外の大学に入学する人もいるのでその分は進学率に含めて計算した方がよいが,現時点ではそのようなデータはOECDでは載せていないようである(いずれにしても,日本の場合は海外の大学(学部)に入学する人は無視できるものといってよいだろう)。

③高等教育(第三期教育)の区分

 OECDでは,高等教育(第三の教育)を,大学・短大(Aタイプ),専門・職業学校(Bタイプ)に分けた上,前者のAタイプは最低3年間の理論的な内容を含むものとし、後者のBタイプは2年〜3年により実際的な内容を教える機関としている。日本の場合、大学・短大と専門学校は学ぶ内容として別物であり、大学に進学した者が専門学校に行くことは稀である(その逆もまた然り)。一方で、OECD各国では、 BタイプとAタイプを統合的に扱っている教育機関も多く、国によっては区分が曖昧である(米国ではBとAを分けていない)、また、Bタイプを修了してAタイプに通うという場合も多く、進学率を図る上でAタイプとBタイプを足すことができない国も多い。日本では、むしろAとBを合わせた数値を使う方が理にかなっているのだが、2010年のデータではタイプAのみが示されおり、進学率が低いように見える。

 最新のOECD報告書(2015)は、AとBを合わせた進学率(留学生除外)を公表している。日本の留学生を除外した数値がないが、上記でも説明したように大学における留学生は1%しかいないので、留学生を除外した場合でも、日本の進学率は上位にある。

 図2:2013年の大学進学率の国際比較(リンクOECD2015(first time entry to tertiary)

④パートタイムの学生の要素

 OECDの定義によれば、フルタイムの学生は、週に占める75%以上を勉学のコースに費やす者と規定されている一方で、パートタイムはそれ以下の時間を勉学に費やす者とされている。日本ではフルタイムの学生が多数であり、パートタイムの学生は少ない(学校基本調査によれば,大学や短大の通信制は全体の5%強に過ぎない)。一方で、海外ではパートタイムの学生の割合は高い傾向にある。パートタイム学生が増えることは入学へのハードルが低くなるため,進学率は上がりやすくなるといえる。

図3:2012年の在籍者に占めるフルタイムとパートタイムの割合(リンク

Picture1

 上記のグラフ(図2)は、在学生に占める割合を示したものだ。2012年時点で、パートタイム学生の割合は,オーストラリアでは29%、ニュージーランドでは39%、英国では23%、スウェーデンでは51%である。ただし,この数値は大学院等を含む在学生を対象とした数値であり、パートタイムの学生がどれほど初回入学者に含まれているのかはよく分からない。また,スウェーデンのように履修内容によりパートタイムを計上する国もあるため、データを比較するのかは簡単ではない。いずれにしても,パートタイムの学生が多くなれば,(社会人を中心として)入学のハードルが低くなるため,一部の国の進学率は高くなりやすくなるといえる。

 まとめ

 海外の留学生を除き,専門学校等のBタイプを含めた場合,日本の進学率はOECD各国でも上位となり、日本の進学率が低いという主張は必ずしも正しくない。そもそも、国民の教育到達度を図るのであれば、進学率よりも修了率に注目するべきだろう。これを見ても、日本の修了率はOECD諸国と比べても上位にあり、世界的にも劣後していない(2013年のデータ)。

 では、日本はもう進学率を上げなくとも良いのだろうか? 高等教育の進学率・修了率は結果として上がった方が良いが、それは政策的に無理やり上げるべきものでもないし、大学(タイプA)に行くものという社会的な雰囲気もどうかと思っている。大学が多すぎて質の確保ができていない状態にある中で、18歳の進学率を上げることが意味のあることなのだろうか。自分がやりたいことが決まっていて勉強する気持ちがあるのであれば意味があるだろうが、何となく進学する意味が本当にあるだろうか。むしろ、人手不足が続く労働市場に早めに参入する方が費用対効果の面からも良いのではないだろうか。まずは仕事をやりながら、やりたいことを見つけた時に大学や専門学校に行く方が合理的な選択ではないだろうか。

 日本の高等教育の問題は、こうした柔軟な進学の道が事実上閉ざされていることである。18歳〜19歳で大学に進学しなかった場合、そこから大学に行くことは時間的な面でも心理的な面でも厳しいものがある。特に、日本の大学では勉強をしない若者が多数派というイメージがあるので、社会人を経験して真剣に勉強を学びたいと思っている人は入りづらいだろう。実際に、下記のグラフで分かるように、日本は25歳以上の入学者の割合は国際比較で最低である。

図3:2012年の大学短大(Aタイプ)の初回入学者に占める25才以上の割合(リンク大学入学者に占める25歳以上の割合

 (※日本のデータは学校基本調査(2015)から計算)

 OECD報告書から読み取るべきポイントは、 18歳進学率を上げることではなく、人生の色んな段階での進学または学び直しができる環境を整えることである。むしろ、18歳での進学率は低くてなっても何の問題もない。18歳〜19歳で同じ年代に生まれた同じような人間と一緒にいても楽しいかもしれないが価値観は広がらない。社会人経験者、海外からの留学生など幅広い層の人間がいた方がいた方が多様性が増して学びが増えるだろう(これは大学院も同じだ)。

(注1)日本の大学進学率が50%以上あるというのは厳密には間違いである。文科省は2015年の大学・短大進学率は57%と計算しているが、日本の大学・短大進学率(18歳進学率)は18歳人口の進学割合を示したものではなく、全ての年齢を含む大学進学者数(約68万人)を18歳人口(約120万)で割った数値である。厳密に18歳のうち大学に進学する割合は約42%程度である(短大を含めれば約45%)。

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EU離脱後に英国が迫られる選択③:日本への影響?

 これまでの記事では、英国とEUとの貿易関係を踏まえて、EU離脱後に英国に残された選択肢(ノルウェー、トルコ、カナダのモデル)の内容とともに、その選択肢の英国への適用可能性についてまとめた。

 これらの関係を図式的に表すと、下記のようになる(表1と表2)。

 表1:EUとの自由貿易圏及び二国間の貿易協定EUの自由貿易体制

EU離脱後に英国が迫られる選択

 2016年6月23日の国民投票でEU離脱を選択すれば、英国は2年以内にEUとの新しい貿易協定を結ぶ必要がある。そこで代替案として示唆されるのがノルウェー、トルコ、カナダのような協定であるが、結論から言えば、どれも現在英国が有するEU単一市場へのアクセスを代替するものではない。

 最も広範かつ包括的にアクセスを可能とするノルウェーモデル(EEA)ですら、農水産品の関税が課されるとともに全ての物品の関税手続きが必要となる。何よりも、EU加盟国と義務の内容はほとんど遜色ないにも関わらず、EUの政策決定に何の関与もできなくなる。これは屈辱以外の何ものでなく、あの大英帝国が受け入れるとは思えない。

 また、関税同盟のトルコモデルについても、物品関税のアクセスは許容できる内容だとしても、英国の強みであるサービス分野のアクセスが全く保障されていない点は全く不十分であり、さらに、関税同盟によって英国のFTAの交渉余地が事実上制限されることになるので、そのような条件を飲むはずがない。一方で、カナダモデル(FTA)については、英国に対する義務が少ないという点で魅力的なものであるが、物品やサービスの個別分野、特にサービスアクセスの度合いについては全く満足できるものではない。

表2:EUの単一市場へのアクセスの度合いと義務

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 英国のEU離脱派は、ノルウェー、トルコ、カナダのようなモデルは全て不十分であるとした上、一旦EUと再交渉を開始すれば、英国モデルのような新しい貿易関係が築くことが可能であり、最低でもノルウェープラスやカナダプラスのようなより良い内容を確保できるといった主張を展開している。だが、英国のみに更なる特権を与えれば、他の加盟国やノルウェーやスイスなどから、再交渉の要求がドミノ倒しのように噴出しかねないことから、EUが簡単に譲歩することはありえない。

 そもそも再交渉で新しい貿易関係をすぐに結ぶことができるというのも離脱派の幻想である。EUとカナダはFTAを結ぶまでに7年間を費やした。英国よりも経済規模が小さいカナダですら7年もかかっているのに、英国が EUと2年以内に、しかも英国に有利な条件でFTAを締結できると本気で考えているのであれば、相当な楽観主義者である。

 一方で、EU離脱派は、たとえEUと新たな貿易関係を結べなかったとしても、EUとほぼ経済的に同規模の米国とFTAを結べば良いと主張してきた。実際に、貿易金額に占める英国とEUとの貿易割合は低下し、米国や中国などのEU以外の国との貿易が増加傾向にあるため、離脱派のこの主張には一定の合理性があった。

 だが、オバマ大統領は、「米国は、EUよりも先に英国とFTAを結ぶつもりはない」と述べ、この最後の頼みの綱をスパッと切落としてしまった。米国は、EUとのFTAを優先させると公言していることから、もしEU離脱を選択した場合、英国は、EUと米国の市場にもWTOのベーシックなレベルでしかアクセスできなくなる。英国に拠点を置く企業は、市場アクセスを求めて、EUや米国への移転も検討し始めるだろう。

日本企業への影響?

最後に、英国のEU離脱が日本企業に与える影響についても触れたい。

 英国は、EUへの市場アクセスのゲートウェイとして機能しており、米国や日本から、製造メーカーや金融機関を中心に多くの現地法人の設立が行われてきた。英国市場に向けた生産・販売だけでなく、EU市場全体に生産・販売拡大するための投資戦略である。特に日本からは自動車メーカーや部品メーカーが進出しており、直接的にも間接的にも多くの雇用を生んできた。

 ここ何十年は英国の製造業は衰退傾向にあった。

 1972年に生産台数が約200万台だったのが、1980年代には100万台以下に激減した。そんな時に英国に投資を行い、製造業の復活に大きく貢献してきたのが日系メーカーだった。2015年、英国の乗用車の生産台数は157万台だが、その約半数は日系メーカーが占めるまでになっている(日産は50万台、トヨタは19万台、ホンダは12万台)。全体の乗用車のうち、輸出向けは全体の78%(122万台)であり、EU向けの輸出は全体の57%(70万台)、その他は米国向けが10%、中国向けがになる(参照)。

 自動車の部品や素材の調達についてはEU域内のサプライチェーンに依存していることから、EU離脱によってサプライチェーンが使えなくなれば、部品の輸入及び完成品の輸出に係る関税コストや原産地証明の事務コストが大幅に増加することとなる。OECDのTiVA(2011年)によれば、英国の自動車の完成品に占める海外付加価値の割合は44%であり、海外からの調達比率が高い(一方で、日本は14%、ドイツは31%と比較的に低い。)。

 もし英国がEU離脱を選択すれば、英国に拠点を置く意義がなくなり、日系メーカーが投資して築き上げてきた資産が毀損されることになる。EU加盟国ではない英国に自動車を販売するためならば、他のEU加盟国で生産したものを輸出するか、日本から直接輸出した方が効率が良いため、工場の移転や閉鎖といった話も出てくるだろう。

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