日本の大学進学率は低いは本当か?

 日本の大学進学率は低いというイメージが広まっているようだが,各国の細かい事情や統計の取り方の違いを理解せずに「日本の大学進学率が低い」という点だけが一人歩きしているように思う。こうした事実認識はミスリーディングであり、将来の日本の高等教育のあり方を考える上でもよろしくないので、自分なりに問題点を調べた上で、より実態に近いものを示してみたい。

日本の大学進学率は低いのか?

 文科省は2013年くらいから日本の大学進学率は低いと盛んに言い始めた。当時の下村文部科学大臣が、下記の「大学進学率の国際比較(OECD Education at a glance 2012)」というプレゼン資料に基づいて国会で説明していて,個人的に違和感を持ったことをよく覚えている。

 図1:2010年の大学進学率の国際比較(文科省のプレゼン資料と詳しい資料

大学進学率の国際比較.png

 上記のプレゼン資料には「日本の大学進学率はOECD各国と比べると高いとはいえない」と書かれており,日本の大学進学率は52%で、OECD平均の60%よりも低く、アメリカ、英国、スウェーデンよりも10~20%以上も低くなっている。これを普通の人が見たら,「日本は世界から取り残されている,もっと大学に行く人を増やさないといけない」と思うだろう。

 ただ、オーストラリアの進学率が100%とほぼありえない数値になっているし,私が良く知るスウェーデンが日本よりも大学進学率が高い(76%!)のも直観的におかしい。何がおかしいのかを詳しく調べてみると、このデータにはいくつかの問題があることに気づいた。すなわち、このOECDのデータは、①生涯進学率の推定値を示したものである点、②海外からの留学生も含んでいる点,③全ての国が大学・短大(Aタイプ)、専門・職業学校(Bタイプ)を区別しているわけではない点、④フルタイムやパートタイムの学生を必ずしも区別していない点、である。

①大学進学率とは何か?

 日本では,大学進学率は18歳進学率(18歳人口に占める大学進学者の割合)と理解されているが、上記のグラフが扱っているのは生涯進学率で、一生のうちに大学進学する割合を推定した数値である。日本では入学者の9割以上は18〜19歳であるが、海外では高校卒業後にすぐに入学せずに社会人をしてから大学に入学する人が多いので,その生涯進学率は18歳進学率よりも高い数値が出る(注1)。

 しかし,これはあくまで推定値であり、実際の進学率はその年齢層が高齢者になるまで分からない。また,ある年に景気変動や政策変更(学費の値上げや奨学金の変更)があった場合、一時的に社会人を含めて進学者が急増し、生涯の進学率も大きく変動することがある。実際に2010年と最新の進学率のデータをみたときには,後述の②~④などの要因が重なることで数値が大幅に変わっており,その安定性には疑問がある。

②海外留学生の影響

 生涯進学率は,住民票を持つ年齢人口に入学者を割って算出しているため,海外の留学者を入学者数を含めれば数が水増しされてしまう。特にオーストラリアやニュージーランドのように多くの海外留学生を受け入れている国では数値が大幅に異なる。実際、留学生を除いた場合、オーストラリアは約30%、ニュージーランドは約20%ほど進学率が低下する(③の図2を参照)。

 一方、日本の場合、学校基本調査(2015年)によれば,大学の入学者に占める留学生の割合は約1.6%(約1万人)しかないので進学率はほとんど影響しない。もちろん,海外の大学に入学する人もいるのでその分は進学率に含めて計算した方がよいが,現時点ではそのようなデータはOECDでは載せていないようである(いずれにしても,日本の場合は海外の大学(学部)に入学する人は無視できるものといってよいだろう)。

③高等教育(第三期教育)の区分

 OECDでは,高等教育(第三の教育)を,大学・短大(Aタイプ),専門・職業学校(Bタイプ)に分けた上,前者のAタイプは最低3年間の理論的な内容を含むものとし、後者のBタイプは2年〜3年により実際的な内容を教える機関としている。日本の場合、大学・短大と専門学校は学ぶ内容として別物であり、大学に進学した者が専門学校に行くことは稀である(その逆もまた然り)。一方で、OECD各国では、 BタイプとAタイプを統合的に扱っている教育機関も多く、国によっては区分が曖昧である(米国ではBとAを分けていない)、また、Bタイプを修了してAタイプに通うという場合も多く、進学率を図る上でAタイプとBタイプを足すことができない国も多い。日本では、むしろAとBを合わせた数値を使う方が理にかなっているのだが、2010年のデータではタイプAのみが示されおり、進学率が低いように見える。

 最新のOECD報告書(2015)は、AとBを合わせた進学率(留学生除外)を公表している。日本の留学生を除外した数値がないが、上記でも説明したように大学における留学生は1%しかいないので、留学生を除外した場合でも、日本の進学率は上位にある。

 図2:2013年の大学進学率の国際比較(リンクOECD2015(first time entry to tertiary)

④パートタイムの学生の要素

 OECDの定義によれば、フルタイムの学生は、週に占める75%以上を勉学のコースに費やす者と規定されている一方で、パートタイムはそれ以下の時間を勉学に費やす者とされている。日本ではフルタイムの学生が多数であり、パートタイムの学生は少ない(学校基本調査によれば,大学や短大の通信制は全体の5%強に過ぎない)。一方で、海外ではパートタイムの学生の割合は高い傾向にある。パートタイム学生が増えることは入学へのハードルが低くなるため,進学率は上がりやすくなるといえる。

図3:2012年の在籍者に占めるフルタイムとパートタイムの割合(リンク

Picture1

 上記のグラフ(図2)は、在学生に占める割合を示したものだ。2012年時点で、パートタイム学生の割合は,オーストラリアでは29%、ニュージーランドでは39%、英国では23%、スウェーデンでは51%である。ただし,この数値は大学院等を含む在学生を対象とした数値であり、パートタイムの学生がどれほど初回入学者に含まれているのかはよく分からない。また,スウェーデンのように履修内容によりパートタイムを計上する国もあるため、データを比較するのかは簡単ではない。いずれにしても,パートタイムの学生が多くなれば,(社会人を中心として)入学のハードルが低くなるため,一部の国の進学率は高くなりやすくなるといえる。

 まとめ

 海外の留学生を除き,専門学校等のBタイプを含めた場合,日本の進学率はOECD各国でも上位となり、日本の進学率が低いという主張は必ずしも正しくない。そもそも、国民の教育到達度を図るのであれば、進学率よりも修了率に注目するべきだろう。これを見ても、日本の修了率はOECD諸国と比べても上位にあり、世界的にも劣後していない(2013年のデータ)。

 では、日本はもう進学率を上げなくとも良いのだろうか? 高等教育の進学率・修了率は結果として上がった方が良いが、それは政策的に無理やり上げるべきものでもないし、大学(タイプA)に行くものという社会的な雰囲気もどうかと思っている。大学が多すぎて質の確保ができていない状態にある中で、18歳の進学率を上げることが意味のあることなのだろうか。自分がやりたいことが決まっていて勉強する気持ちがあるのであれば意味があるだろうが、何となく進学する意味が本当にあるだろうか。むしろ、人手不足が続く労働市場に早めに参入する方が費用対効果の面からも良いのではないだろうか。まずは仕事をやりながら、やりたいことを見つけた時に大学や専門学校に行く方が合理的な選択ではないだろうか。

 日本の高等教育の問題は、こうした柔軟な進学の道が事実上閉ざされていることである。18歳〜19歳で大学に進学しなかった場合、そこから大学に行くことは時間的な面でも心理的な面でも厳しいものがある。特に、日本の大学では勉強をしない若者が多数派というイメージがあるので、社会人を経験して真剣に勉強を学びたいと思っている人は入りづらいだろう。実際に、下記のグラフで分かるように、日本は25歳以上の入学者の割合は国際比較で最低である。

図3:2012年の大学短大(Aタイプ)の初回入学者に占める25才以上の割合(リンク大学入学者に占める25歳以上の割合

 (※日本のデータは学校基本調査(2015)から計算)

 OECD報告書から読み取るべきポイントは、 18歳進学率を上げることではなく、人生の色んな段階での進学または学び直しができる環境を整えることである。むしろ、18歳での進学率は低くてなっても何の問題もない。18歳〜19歳で同じ年代に生まれた同じような人間と一緒にいても楽しいかもしれないが価値観は広がらない。社会人経験者、海外からの留学生など幅広い層の人間がいた方がいた方が多様性が増して学びが増えるだろう(これは大学院も同じだ)。

(注1)日本の大学進学率が50%以上あるというのは厳密には間違いである。文科省は2015年の大学・短大進学率は57%と計算しているが、日本の大学・短大進学率(18歳進学率)は18歳人口の進学割合を示したものではなく、全ての年齢を含む大学進学者数(約68万人)を18歳人口(約120万)で割った数値である。厳密に18歳のうち大学に進学する割合は約42%程度である(短大を含めれば約45%)。

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EU離脱後に英国が迫られる選択③:日本への影響?

 これまでの記事では、英国とEUとの貿易関係を踏まえて、EU離脱後に英国に残された選択肢(ノルウェー、トルコ、カナダのモデル)の内容とともに、その選択肢の英国への適用可能性についてまとめた。

 これらの関係を図式的に表すと、下記のようになる(表1と表2)。

 表1:EUとの自由貿易圏及び二国間の貿易協定EUの自由貿易体制

EU離脱後に英国が迫られる選択

 2016年6月23日の国民投票でEU離脱を選択すれば、英国は2年以内にEUとの新しい貿易協定を結ぶ必要がある。そこで代替案として示唆されるのがノルウェー、トルコ、カナダのような協定であるが、結論から言えば、どれも現在英国が有するEU単一市場へのアクセスを代替するものではない。

 最も広範かつ包括的にアクセスを可能とするノルウェーモデル(EEA)ですら、農水産品の関税が課されるとともに全ての物品の関税手続きが必要となる。何よりも、EU加盟国と義務の内容はほとんど遜色ないにも関わらず、EUの政策決定に何の関与もできなくなる。これは屈辱以外の何ものでなく、あの大英帝国が受け入れるとは思えない。

 また、関税同盟のトルコモデルについても、物品関税のアクセスは許容できる内容だとしても、英国の強みであるサービス分野のアクセスが全く保障されていない点は全く不十分であり、さらに、関税同盟によって英国のFTAの交渉余地が事実上制限されることになるので、そのような条件を飲むはずがない。一方で、カナダモデル(FTA)については、英国に対する義務が少ないという点で魅力的なものであるが、物品やサービスの個別分野、特にサービスアクセスの度合いについては全く満足できるものではない。

表2:EUの単一市場へのアクセスの度合いと義務

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 英国のEU離脱派は、ノルウェー、トルコ、カナダのようなモデルは全て不十分であるとした上、一旦EUと再交渉を開始すれば、英国モデルのような新しい貿易関係が築くことが可能であり、最低でもノルウェープラスやカナダプラスのようなより良い内容を確保できるといった主張を展開している。だが、英国のみに更なる特権を与えれば、他の加盟国やノルウェーやスイスなどから、再交渉の要求がドミノ倒しのように噴出しかねないことから、EUが簡単に譲歩することはありえない。

 そもそも再交渉で新しい貿易関係をすぐに結ぶことができるというのも離脱派の幻想である。EUとカナダはFTAを結ぶまでに7年間を費やした。英国よりも経済規模が小さいカナダですら7年もかかっているのに、英国が EUと2年以内に、しかも英国に有利な条件でFTAを締結できると本気で考えているのであれば、相当な楽観主義者である。

 一方で、EU離脱派は、たとえEUと新たな貿易関係を結べなかったとしても、EUとほぼ経済的に同規模の米国とFTAを結べば良いと主張してきた。実際に、貿易金額に占める英国とEUとの貿易割合は低下し、米国や中国などのEU以外の国との貿易が増加傾向にあるため、離脱派のこの主張には一定の合理性があった。

 だが、オバマ大統領は、「米国は、EUよりも先に英国とFTAを結ぶつもりはない」と述べ、この最後の頼みの綱をスパッと切落としてしまった。米国は、EUとのFTAを優先させると公言していることから、もしEU離脱を選択した場合、英国は、EUと米国の市場にもWTOのベーシックなレベルでしかアクセスできなくなる。英国に拠点を置く企業は、市場アクセスを求めて、EUや米国への移転も検討し始めるだろう。

日本企業への影響?

最後に、英国のEU離脱が日本企業に与える影響についても触れたい。

 英国は、EUへの市場アクセスのゲートウェイとして機能しており、米国や日本から、製造メーカーや金融機関を中心に多くの現地法人の設立が行われてきた。英国市場に向けた生産・販売だけでなく、EU市場全体に生産・販売拡大するための投資戦略である。特に日本からは自動車メーカーや部品メーカーが進出しており、直接的にも間接的にも多くの雇用を生んできた。

 ここ何十年は英国の製造業は衰退傾向にあった。

 1972年に生産台数が約200万台だったのが、1980年代には100万台以下に激減した。そんな時に英国に投資を行い、製造業の復活に大きく貢献してきたのが日系メーカーだった。2015年、英国の乗用車の生産台数は157万台だが、その約半数は日系メーカーが占めるまでになっている(日産は50万台、トヨタは19万台、ホンダは12万台)。全体の乗用車のうち、輸出向けは全体の78%(122万台)であり、EU向けの輸出は全体の57%(70万台)、その他は米国向けが10%、中国向けがになる(参照)。

 自動車の部品や素材の調達についてはEU域内のサプライチェーンに依存していることから、EU離脱によってサプライチェーンが使えなくなれば、部品の輸入及び完成品の輸出に係る関税コストや原産地証明の事務コストが大幅に増加することとなる。OECDのTiVA(2011年)によれば、英国の自動車の完成品に占める海外付加価値の割合は44%であり、海外からの調達比率が高い(一方で、日本は14%、ドイツは31%と比較的に低い。)。

 もし英国がEU離脱を選択すれば、英国に拠点を置く意義がなくなり、日系メーカーが投資して築き上げてきた資産が毀損されることになる。EU加盟国ではない英国に自動車を販売するためならば、他のEU加盟国で生産したものを輸出するか、日本から直接輸出した方が効率が良いため、工場の移転や閉鎖といった話も出てくるだろう。

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EU離脱後に英国が迫られる選択②:ノルウェーになるか、カナダになるか?

 前回記事では、EUとの経済貿易関係を踏まえて、英国の産業貿易の特徴についてまとめた。今回は、英国がEUを離脱した場合に代替案として考えられる、ノルウェー、トルコ、カナダとの特別な貿易関係について取りまとめてみる。なお、この三つの代替モデルについては英国財務省が発表した経済影響分析の報告書の内容に基づいているが、個人的な補足と分析も加えている。

EU単一市場へのアクセスとそれに伴う義務

 
 英国民の大半は、EUの加盟国としての義務や規制の履行は減らしたいが、物品とサービスを自由にやり取りできるEU単一市場へのアクセスについてはできるだけ確保したいと考えている。しかし、EU単一市場にアクセスするためには、公平な競争環境を維持するための様々なルールや義務を遵守することが不可欠であり、英国民の要求は単一市場の原理に反するものである。

 EU単一市場のアクセスに伴う義務として、EU加盟国は、関税同盟(域内関税率及び税関手続きの廃止や対外関税の統一)、競争政策(公平な競争環境の確保)、EU域内の製品規格や安全環境基準(非関税障壁)、サービス分野の自由化及び規制(非関税障壁)の調和、人の移動の自由の保障の義務を負っている。実は、英国の場合、人の移動の自由の一部、EU予算への貢献などの義務において一定の特例や譲歩を勝ち得ている。しかし、それでもEU規制が過剰であるとして反発する人がたくさんいる。

 一方で、非EU加盟国のノルウェー、トルコ、カナダは、EU単一市場へのアクセスを求めてそれぞれEUと経済貿易関係を結んでいるが、それぞれ異なるアクセスの度合いと義務の契約関係を持っている。下記は、こうした関係を表で表したものである。

 図:EUの単一市場へのアクセスとそれに伴う義務事項Screenshot 2016-04-24 18.03.55

 

ノルウェーモデル

 
 ノルウェーは1992年、EU単一市場にアクセスするため、スイスを除くEFTA加盟国とEU加盟国で構成される「欧州経済領域(EEA)」に加盟した。しかし、1994年のEU加盟を巡る国民投票で反対票が52%の僅差で上回り、本丸のEU加盟を見送ることとなった。

 ノルウェーはEUに加盟していない国として最もEU加盟国に近い国と呼ばれているが、EU単一市場へのアクセスという点で、EEAとEUは具体的に何が違うのだろうか?  端的に言えば、EEAは、①EUの共通農業・漁業政策を採択する義務がない点と、②関税同盟から除外されている点に特徴がある。

 ノルウェーは、農業・漁業政策の自立性を維持しており、関税自主権も有している(実際にノルウェーはEU産の農産物に高い関税をかけており、EUはノルウェー産の農水産物に関税を課している)。また、関税同盟でないため、両者の物品の輸出入には税関の事務手続きが必要になり、ノルウェー原産(またはEU原産)であることを証明するための原産地証明書(origin proof)の提出が求められることとなる。原産地証明書は、第三国から完成品をノルウェーに輸入して、より安い関税でEU加盟国に輸出することを防ぐために、ノルウェー原産であることを証明するものである。

 一方で、ノルウェーはEU加盟国でないが、それとほぼ同等の義務の遵守が求められている。第一に、製品の規格や審査ルールに加えて、競争政策(独禁法や補助金規制)も調和させる義務がある。第二に、サービス分野の自由化及び規制ルールを調和させ、人の移動の自由を確保する必要がある。第三に、EEAの加盟国として、EU予算への貢献を求められ、他加盟国とほぼ遜色ない水準の上納金を支払っている(GDP1%弱)。

 特に大きな代償は、EU単一市場の関連法令に関する意思決定に全く関与できないことである。ノルウェーは加盟国ではないので、加盟国で構成される閣僚理事会(上院)に参加できず、欧州市民の直接選挙によって選ばれる欧州議会(下院)にも議員を送り込むことができない。EUで決められた法令やガイドラインがノルウェー政府にファックスで通知されるだけである。ノルウェー政府はその決定に不服があったとしても、意思決定に関与する余地はなく、単一市場に留まるためには甘んじて受け入れなければならない。

 上記のノルウェーの事情を踏まえれば、いくらノルウェーモデルが農業・漁業分野以外の単一市場へのアクセスを確保しているからといって、英国が意思決定に関与せずに結果だけを受け入れるかといえば極めて難しいだろう。世界の大英帝国からすれば、EUの属国になるようなものである。

(なお、スイスはEEAには属していないが、EUとは100件を超える個別分野ごとの協定を結んでおり、EU単一市場へのアクセスという点では一部のサービス分野を除いてノルウェーとほぼ同じ内容のアクセスと義務が課されている(詳細)。ただ、スイス国民が2014年2月の国民投票により、EU市民を含めて移民の数を制限することを支持したことから(賛成50.3%と反対49.67%)、EU側は人の移動の自由の義務に違反するものとして猛反発して、高等教育等の交換留学プログラム(ERASMUS+)やEU研究開発プログラム(HORIZON2020)の打ち切りを発表した。今後、スイスとEUは、今年6月の英国の国民投票が終わってから正式な協議を行うとしているが、英国に例外を認めればスイスを始めとする他国にも例外を認めることになりかねないため、すでに示している通り、EU側は極めて強固な姿勢をとるものとみられる。)

 

トルコモデル

 
 トルコは1996年からEUと関税同盟を結んでいる。

 関税同盟とは、同盟内における関税の統一、税関手続きの簡素化とともに、同盟外の国々との対外関税の統一を図るという内容である。EUとトルコは一つの関税共同体として物品の貿易は自由に行えるようになっている。例えば、非EU加盟国が自動車部品をEUとトルコに輸出する場合、いずれも関税率は10%である。

 関税同盟では、物品貿易に係る規格や安全基準などの規制は一定程度調和されており、非関税障壁も少なくなっている。また、競争政策の調和についても一定程度進んでいる。しかし、人の移動の自由の義務はない(そもそもEU側はトルコ人の渡航ビザに制限をかけている)。

 一方、関税同盟は、農水産分野を対象としておらず、EUとトルコ間の農産関連物品の輸出入については二国間で定められた関税率が適用されている(これはノルウェーと同様である)。また、サービス分野の自由化を含んでおらず、手付かずとなっている。

 関税同盟を結ぶことの代償は、EUが第三国と自由貿易協定(FTA)を締結した場合、トルコも後追いをして当該国とのFTAを結ぶ必要がある点である。関税同盟として関税率を統一している以上、トルコにはどの国とどんな関税取り決めを定めるかについては選択肢が与えられていない。トルコが米国や日本とのFTAを独自で結びたいと考えていたとしても、EUによる貿易政策の意向が優先されるため、その内容について口出しすることができないのである。

 英国は、EUのFTA戦略の欠如と交渉のスピードの遅延を批判してきたことから、FTAの内容に口出しできずに結果だけ通知されるような仕組みを受け入れるとはとても思えない。また、英国が得意とするサービスの自由化が含まれていないため、トルコモデルも代替案にはなりえない。

 

カナダモデル

 
 カナダは2016年2月、EUはとのFTAに合意しており、署名・批准プロセスを進めている。本協定は、ノルウェー(EEA)やスイスなどとの貿易協定を除けば、EUが過去合意してきたFTAの中で最も野心的で包括的なものとされている。

 物品貿易に関しては、全体として7年以内にカナダの関税品目の98.6%、EUの関税の98.7%を撤廃するとしている。工業製品に関しては7年以内に工業製品の全ての関税を撤廃する一方で、農産品についてはカナダは農産品全体の91.7%、EUは93.8%を撤廃する予定だが、センシティブ品目については一定数量までを関税ゼロとし、それを超過する分には一定の関税を維持することとしている(詳しい品目別の関税率についてはこちらを参照)。関税品目の自由化率だけでみれば、EUトルコの自由化率よりも高い水準のものになる。

 カナダモデルは、競争政策の調和はなされず、人の移動の自由の義務がなく、EU予算への貢献もないことから、EUからの義務要求を最小限としたい英国人にとっては良いモデルかもしれない。ただ、市場統合・貿易推進という観点からすれば、技術規格や安全基準、サービス自由化とその規制の調和は十分ではない。特に金融サービスのアクセスが部分的にしか確保されていない点は英国にとっては受け入れがたいだろう。逆に、金融を始めとするサービスのアクセスがより包括的に盛り込まれるのであれば、英国として受け入れ余地があるかもしれない。

 

WTOモデル

 
 WTOモデルは、物品貿易に係るルール(GATT)及びサービス貿易に係るルール(GATS)に基づく加盟国間の貿易関係であり、物品の関税率もサービスの自由化も基本的なレベルで確保されるものである(例えば、EUと日本、米国、中国のような関係である)。

 英国がEU離脱する場合、2年以内にEUと新たな貿易関係を再交渉を通じて合意する必要があるが、英国側がノルウェー、トルコ、カナダのいずれのモデルも受け入れられないとすれば、再交渉が頓挫する可能性がある(そもそもEUは英国との交渉は終わったと主張しており再交渉が実施されるのかすら不透明である)。

 もし再交渉が頓挫すれば、EUは英国に対して WTOルールを適用することとなり、英国はEU単一市場へのアクセスを全面的に失うことになる。このような最悪の事態を招来することは考え難いが、最悪のシナリオが現実にありえないと言い切れないところが怖いところである。

 (次回に続く)

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EU離脱後に英国が迫られる選択①

 前回記事では、英国のEU離脱を巡る世論は拮抗しており若者の投票率が残留の鍵を握っていると書いた。今回はより内容に踏み込んで、EUを離脱した場合に何が起こるのかを考えてみたい。EU基本条約(リスボン条約)の50条によれば、加盟国がEU離脱を選択する場合、2年以内にEUと経済貿易関係について交渉して合意する必要があるが、過去にEUを離脱した国がないので、2年以内に再交渉が行われるのかも見通せない。

 仮に英国がEUの離脱を選択する場合、現実的に取りうる選択肢としては、ノルウェー、トルコ、カナダがEUと結んでいる経済枠組みがあるが、これらはEU離脱の代替案になりうるのだろうか? これから3回にわ渡って、①EUの自由貿易圏、英国の産業構造の特徴を踏まえた上で、②ノルウェー、トルコ、カナダの枠組みについて紹介して、③英国のEU離脱がもたらす影響についてまとめてみる。

EUの自由貿易経済圏

 EUは28か国の500万人以上で構成された経済圏であり、資本、物品、サービスが自由にやり取りできる単一市場を持つ。日本国内での物品の貿易に関税がないと同様、EU域内の貿易では関税がかからず、税関や検疫のチェックも必要ない(関税同盟)。また、サービス分野も一定程度開放されており、ある加盟国に拠点を置くサービス事業者は他の加盟国でも同様のサービスを提供することができる(EU28か国のGDPに占めるサービス事業の割合は70%弱だが、そのうち46%は「原則として」既にに開放されている)。

 一方で、EU非加盟国との貿易については、特別な政治・経済枠組みの協定を結んでいない限りは、WTOの枠組みに沿って物品関税やサービス貿易のルールが適用される(日本や米国や中国など)。ここでの特別な特別な政治・経済枠組みの協定とは、主にノルウェーとの単一市場(EEA)、トルコとの関税同盟、カナダなどとの二国間の自由貿易協定等である。

 下記の図は、それらを図式化したものである。

図:EUの自由貿易圏及び二国間の貿易協定の構図

EUの自由貿易体制

英国の産業構造及び自由貿易

 英国は、北欧諸国やオランダととともに、EUにおける最大の自由貿易推進役であり、物品やサービス分野の規制緩和を図るとともに、競争環境の整備に注力してきた。英国の貿易政策の特徴は開放性(オープンネス)であり、英国企業か否かによらず、雇用や富を生む外国企業の誘致を推進し、良いサービスを提供する企業の他国への進出を図ってきた。

 1990年代にはEU単一市場が生まれたこともあり、英国の金融を始めとするサービス事業は急成長し、サービス貿易の割合も拡大している。世界銀行の統計によれば、英国における製造業の占める割合は11%と小さいが、サービス貿易がGDPに占める割合は19%と高い(ドイツでは23%、15%、日本では19%、7%)。過去23年の英国の貿易収支を見てみると、モノの貿易については赤字が拡大する傾向にある一方で、サービス貿易の黒字は伸び続けている。

 なお、金融や保険やその他ビジネス(コンサルや広告、会計等)などのサービス事業は英国の稼ぎ頭であり、金融と保険サービスだけでサービス貿易全体の32%を占めている。英国では製造業の衰退が進んでいるが、日系の自動車や鉄道メーカーが製造業の復活に貢献するとともに、製造業に紐付いた加工や修理、その他の付加価値を高めるビジネスサービスなどの需要も増加している。

図: 英国の物品・サービスに係る輸出入収支の推移(10億ポンド)英国の輸出入額の収支(サービス・貿易)

 英国の最大の貿易相手はといえば、もちろんEUだ。2015年は全体の輸出の43.7%、輸入の53.2%を占めている(スイスやノルウェーを含めればその割合はさらに高まる)。しかし、EUの貿易相手としての重要性は経済危機を経て少しずつ低下してきており、米国や中国などEU以外の国との貿易額が増加する傾向にある(特に輸出貿易)。保守的な英国人からすれば、EUの経済的な地位が低下しているにも関わらず、EUが保護主義を維持することで、英国企業の成長市場へのアクセスを阻害していると見えるのかもしれない。
 

図:英国の対EU輸出入額の割合(物品及びサービス貿易)

英国の対EU貿易割合

図:2015年英国の主要輸出相手(物品)図:2015年英国の主要輸出相手(サービス)

(ノルウェー、トルコ、カナダの選択肢の解説は次回へ続く)

※貿易統計は英国統計局の最新貿易データを参照(https://www.ons.gov.uk/economy/nationalaccounts/balanceofpayments)

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英国のEU残留の鍵は若者の投票率

 前回記事では、英国の国民投票に関する世論調査のメカニズムについて紹介した。その内容は,電話調査では残留を選ぶ人が多いが、オンライン調査では離脱を選ぶ人が多くなり、電話調査の方がより信頼性が高いというものである。では、このままいけば英国民はEU残留をすんなり選ぶのであろうか?

 その国民投票の結果について鍵を握るのが若者の投票率である。

 すでに多くのメディアや識者が指摘するように、英国のEU離脱を巡っては若年層と高齢者層で顕著なギャップが見られる。最近のIpsos Moriの世論調査(2016年3月末の電話調査)では、18〜24歳では77%、25〜34歳では63%の若者層が残留を支持する一方で、45〜54歳では37%、55〜64歳は41%しか残留を支持していない。10代〜30代の残留支持、40代後半以上の離脱支持が鮮明となっており、まさに世代間対立の様相を呈している。

 

図1:EU離脱を巡る国民投票に関する年齢別の賛否及び投票意図

EU離脱を巡る世論調査結果

 英国では高齢になるほど保守党(右派の政権与党)の支持割合が増える傾向にあるが、保守党と労働党の支持の差はせいぜい10%未満であることを踏まえれば、ここまで世代間で対立点が出てくる論点も珍しい。昨年のアイルランドの同性婚を認めるか否かに関する国民投票では、若者層と高齢者の世代間対立が注目されたが、それと似た様な構図となっている(過去記事を参照)。

 なぜこのような差が生まれるのだろうか? 

 一つの理由は教育水準の向上である。若い世代の教育水準(高校・大学進学率)は親世代と比べて大幅に向上している。OECDによれば,高等教育資格(Tertiary education=大学・短大・高専等)を持つ人の割合は、55〜64歳では33%であるのに対して、25〜34歳では48%まで増加している(2012年時点)。若者の方が メディアや旅行・留学を通じた 異文化との接触が多く、EUというものの存在や恩恵を感じやすい、EUから切り離されることのリスクに敏感なのかもしれない。

 このように世代間の対立が注目されるが、上記の世論調査の全体結果を見ると、残留派が49%、離脱派が41%となっており僅差状態である。だが、その中で「確実に投票するつもりだ」と答えた人の割合を見ると、18〜24歳は32%、25-54歳は54%に留まる一方で、高齢層の65歳以上は78%に達する。もしも残留派と離脱派の僅差の状態が続けば、高齢者が相対的に若者層よりも高い割合で投票所に向かい、離脱を支持する割合が大きくなるだろう。

 

図2:2015年総選挙の年齢別投票率と全体投票者に占める割合事後調査及び人口統計

総選挙の年齢別投票率等

 上記の図は、2015年の英国総選挙における年齢別の投票率及び全体の投票者に占める(年齢別の投票者の)割合を示したものである。全体平均の投票率は66%、若者層の投票率は40%〜60%台であるが、高齢者層の投票率は70%を超えている。また、有権者数の年齢別の人口割合を見ると、18〜24歳は12%、25〜34歳は17%だが、実際に投票した人の割合を見ると、それぞれ8%、14%に下がる。逆に45歳以上は人口割合以上に投票に参加している。

 上記をまとめれば、全体の投票率、特に若年層の投票率が英国が残留するか否かの鍵を握ると言える。もし全体の投票率が30%〜40%に低迷するようなことがあれば、もともと投票に行く蓋然性が高いと言われる離脱派に有利になることから、離脱の可能性が高くなるが、逆に投票率が60%を超えてくれば、残留に傾くはずである。

 ※すいません、当初の数字と図が間違っていたので修正しました(4月11日時点)

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なぜ電話での世論調査の方が信頼できるのか? -英国の国民投票に関する報告書から-

 EU離脱を巡る英国の国民投票が二ヶ月半後 (6月23日)に近づいている。英国の未来、そしてEUの未来を決める大きなターニングポイントである。すでに賛成派と反対派で激しいバトルを繰り広げており、これからより激しいものになるだろう。

 各種の世論調査をみると、英残留派の方が5%〜15%ほどリードしているようだが、そもそも世論調査の結果は信頼できるものなのだろうか? 

 実は、昨年の英国の総選挙では、ほぼ全ての世論調査会社が大失態を犯した。保守党(現政権党)と労働党の得票率は拮抗し、ハングパーラメント(宙吊り国会)になると予測していたが、フタを開けてみれば、保守党は労働党を6%以上も引き離し、過半数の議席を獲得したのだ。

 なぜ世論調査は間違ってしまったのか? その原因は何か? 6月の国民投票についても間違った予測をするのではないか? こうした疑問を持つ人たちもいるだろう。

 先日、これらの疑問に一定の回答を与える報告書が発表されていたので、紹介したい。特に二つ目の報告書(Populus)は、調査手法や質問の仕方の違いに着目して分析しており、とても示唆的である。

英国世論調査団体(British Polling Associations)の報告書(リンク

 本報告書によれば、事前の予測と実際の結果にズレが生じた主な原因は、サンプル集団の隔たりが大きかったこと(Unrepresentative samples)にある。

 去年の総選挙では、労働党の支持者が多くサンプルに含まれていたが、保守党の支持者が上手く抽出されなかった可能性があるという。なぜサンプル集団に隔たりが出たのかについては、18歳-24歳、25歳-34歳などの年齢区分の幅が広く正確に抽出されていない、70歳以上が特に抽出されていないなどの技術的な問題もあると考えられるが、それ以外の要因も多く、解明されていない。

 例えば、報告書は、その他の要因についても次のようにまとめている。

 ①事前投票(全体の約20%)、②在外投票、③選挙人登録(未登録の存在)、④質問の仕方(隠れ保守党支持の存在)、⑤最終局面での変節、⑥故意の虚偽報告、⑦投票率(投票所に行くと答えておきながら、実際は行かない人の存在)、⑧調査手段(電話・オンライン調査の違い)。

世論調査会社(Populus)の報告書(リンク

 こちらの報告書は、上記の⑧の要因部分の、電話調査とオンライン調査によって異なる結果が生じていることそれが生じる背景や要因について考察したものである。本報告書によれば、EU離脱に関する過去の世論調査(約80件)を見ると、電話調査では残留が離脱よりも15%〜20%ほど多いのに対して、オンライン調査では残留と離脱がほぼ拮抗しているという(下記の図は過去の世論調査結果を時系列的に示したものである)

Screen Shot 2016-04-06 at 12.42.31 AM

 なぜ電話調査だとオンライン調査よりも残留派が多くなるのか? なぜオンラインだと離脱派が多くなるのか? 筆者によれば、その違いは大きく次の二つの要因から来ているという。

 一つ目の要因は、オンライン調査の方が「わからない」という選択肢を選ぶ人が多いことである。電話調査では、二択(Remain or Leave)しか無く、「わからない」という選択肢は提示しない(回答者がそう答えればそれをカウントする)。一方で、オンライン調査では、三択(Remain or Leave or I dont know)が提示されている。つまり、二つしか選択肢がない場合、残留を選択するはずの人が、「わからない」という選択肢が出てくることによって、そちらを選ぶようになるのである。実際、電話調査においても「わからない」という選択肢をわざと明示的に提示した場合には、「わからない」を選択する人が増加し、残留と離脱の差が縮まったとの結果がある(もちろん、サンプル集団が違うため、必ずしも正確な比較はできないが)。

 二つ目の要因は、オンライン調査の方がサンプル集団に隔たりが大きいことである。まず報告書によれば、オンライン調査で抽出されたものと電話のものを横に並べてみると、両リストともに年齢や学歴、家族など個人の属性に沿って抽出されたものであり、さほど違いはなかった。だが、ジェンダーや人種、アイデンティティーなどに対する社会的態度(Social Attitute)を分析すると、オンライン調査のサンプル集団の方が保守的な考えを持つ人が多いこと、つまり、サンプル集団を抽出する段階で調査手法が大きく影響を与えていることがわかった。

 ではなぜオンライン調査では保守的な考えを持つ人が多かったのか?

 報告書は、サンプル集団の抽出にかける時間が十分ではない可能性を示唆している。すなわち、オンライン調査は、一定期間中にウェブ上の質問に回答を求めるものであるが、これに早い段階で回答する人は保守的な考えを持っている傾向が高く、より遅く回答する人ほどよりリベラルな考えを持っている、というものだ。こうした隔たりをなくし、よりバランスの良い回答を得るためには、サンプルの抽出回数をなるべく多く取る必要があると指摘する。もちろん、これはオンラインだけでなく、電話での調査でも当てはまることであろう。

まとめ

 過去1年間のEU離脱に関する世論調査では、電話調査とオンライン調査が行われているが、上記の二つの要因(「わからない」という選択肢とサンプル集団の隔たり)を踏まえれば、電話調査の方が妥当性が高い。オンラインの世論調査を含めると、離脱派と残留派が拮抗しているように見えるが、電話では残留派が15%〜20%ほどリードするとしているものが多い。

 そうは言いつつも、やはり何が起こるかはわからない。離脱支持派は高齢者に多く、残留派は若者に多いため、全体の投票率が低くなった場合には、若者は投票に行かない傾向があることから、離脱派が勝つ可能性が出てくる。また、6月からは本格的なTVディベートも行われるはずであり、それによって情勢がガラッと変わることも考えられるだろう。

 

 

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勉強会の資料アップ

 先日、乙武さんが主宰する勉強会に、「若者と政治参加の制度設計」というテーマについて講師(笑)として話をしてきました。私からは、若者の政治参加の概念等、日本を含む先進国における現状と分析、そして欧州の若者参画の取り組みについて説明しました。

 (当日のプレゼンテーションの内容はこちらです)。

 
 まずは私が30分ほど話題提供を兼ねてプレゼンテーションをした上で、乙武さんと参加者を交えて質疑応答を行い、その後、参加者同士のワークショップを行いました。

 ワークショップは、各グループごとに「若者と政治に〜〜という選択肢!」を考えて発表するというもので、運営側の若者らがファシリテーターとして入り、議論を主導していました。そもそも勉強会のコンセプトが「参加者皆が初対面(リピーターはナシ)」だったのですが、全くよそよそしさは感じられず、時間をオーバーするほど議論は盛り上がった(はず)。個人的には、「選択肢があるという選択肢を!」という発表がツボでした。

 また、中学校以来の尊敬する乙武さんにお会いできて大変光栄でした。イメージ通り、勉強熱心でいながら謙虚でいて、ざっくばらんでいて、周りの人を明るく元気にする人で、特に若者の話を真剣に聞き応援する様子を見ると、この人の周りにたくさんの若者が集まってくるのが納得できます。

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遅ればせながら今年もよろしくお願いします

 気がつけば、半年以上もブログ更新をしていなかった。一度長期にわたって更新をしなくなると、ログインすらしなくなる。もちろん、新しい仕事を始めて、それに慣れるのに忙しかったというのもあるが。

 去年の春から、中央省庁で働き始めるようになった。知り合いからEUに関わる業務案件を紹介してもらったところ、業務内容が私の研究や経験に合致する分野だったので、二つ返事で承諾した。

 それまで個人や小さな組織の中でしか働いたことがなかったが、意外にも楽しく充実した日々を送っている。仕事としては出張もいけるし、新しく学ぶことも多い(というか知らないことばかりで学ぶことばかりである)。特に、同僚らは極めて優秀で学ぶことが多い。メモ取りとそれをまとめるスピードで言ったら、一般的に官僚に敵うものはいないだろう。訓練であそこまでできるものなのかと感嘆する。

 また、個人的には、朝の時間を無駄にせず、毎日職場で人に会うようになったことも大きな収穫である。それまで個人で働いていた時は、朝は9時か10時にダラダラと起きて、夕方から仕事をし始めたり、一週間全然人と会わずに家に過ごしたりしていた。仕事さえすればどこにいても何しても制約がないというのは理想的なライフスタイルだったが、仕事の性質上は孤独な作業で、逆にストレスが溜まることもあった。こうしてみると、組織で働くことは性に合っているかもしれないと思うようになった。もちろん、仕事の内容と職場の同僚にもよるだろうが。

 さて、今年のことだが、今の仕事で課された内容はしっかりとこなすことはマストだが、この業務はずっと続けるものではないので、中長期的なキャリアプランを立てないといけない。これまでは自分の興味や問題意識のある分野に手を出して「戦線」を広げるというスタイルをとっていたが、そろそろ自分の強みを確立していく時期に来ているという気がする。主にEU研究を軸とすることは揺るがないが、その上でどこに自分の付加価値を見出して高めていくかを考えなければならない。

 是日々精進。今年もよろしくお願いします。

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EUにおける平均離家年齢は26歳

先月末、EUがYouth Monitorという若者に関わる様々な統計について発表した(トピックは、若者人口、失業率、雇用割合から、政治への関心度、文化や芸術との関わり、ボランティアへの参加度など)。Youth Monitorのページをみてみると、特段目新しい内容はないように思ったが、平均離家年齢(Mean age of young people leaving the parental household)という指標が気になった。

平均離家年齢とは、若者が両親の家を出て暮らし始めた平均年齢のことであり、EU内の労働力調査に基づいて算出されたものである(詳しい手法は不明だが、15歳から70歳までを対象とした調査に離家年齢の質問項目を入れて算出したものだろう)。

同調査によれば、平均離家年齢が低いのはスウェーデン(19.6歳)やデンマーク(21.2歳)などの北欧諸国で、その次はフランス、オランダ、ドイツ、英国などが続く。逆に、平均年齢が高いのは南欧諸国、東欧諸国で、最も平均年齢が高いのはクロアチアの30.9歳であった。なお、EU全体の平均離家年齢は26歳であり、この数値は過去ほとんど変わっていない(26.3歳から26.1歳になっているのでやや微減だが)。

 図:EUの国別の平均離家年齢(2013)

EUにおける平均離家年齢 日本ではパラサイトシングのように、実家に「寄生」する若者が問題として扱われてきたが、こうした大きな視点で見てみると、日本だけが抱える特殊な問題というわけでもなさそうである(スウェーデンにいたときはさすが欧州は自立年齢が早い!とか思っていたが、あくまでも北欧諸国が特別な事例であり、欧州のメインストリームではないことに今更ながら気づかされる)

ちなみに,日本の平均離家年齢について探してみたところ、5年に一度の国勢調査(2009)で約21~22歳との結果があった。これだけみると、日本も北欧諸国と遜色がないが、直感的に低すぎるような気がする(たぶん離家の定義が定まっておらず実態よりも低い結果になったのだと思う)。なお、日本の30歳~34歳の親との同居割合をみると、男性は47.9%、女性は36.9%であった。他国のデータがないのでなんともいえないのだが,男性については約2人に1人が親との同居ということであり、これはこれで相当に高い気がする(ただし,同調査は、調査の手法上、実態よりも同居割合が高くなる可能性を認めている)。

        表:日本における親との同居割合(年齢別)
     親との同居率

 EU全体として,若者の離家年齢だけでなく親との同居割合を算出してくれればより正確な比較ができるのだが。

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アイルランドにおける同性婚を巡る国民投票の行方

 今週の金曜日(5月22日)にアイルランドで同性婚を正式に認めるかどうかの国民投票が行われる。この国民投票は大きく次の三つの点で注目されている。

 すなわち、①アイルランドが、カトリック教会の根付いている保守的な国であるにも関わらず実は進化していること、②同性婚の可否が国民投票によって争われる欧州で初めての国であること、③若者の投票率がキャスティングボードを握っていることである。

①カトリック教会が強い保守の国

 

 カトリック教会といえば、バチカン市国があるイタリア、レコンキスタ(イスラム征服)のスペインというイメージが強いと思うが、アイルランドでは、カトリック教徒であることがある種の民族主義(アイルランドナショナリズム)と一体となっており、その点で影響力は他国とは比べものにならないほど強大であった。1980年まで避妊の権利が認められておらず,1980年代1993年まで同性愛者は犯罪者として扱われていた。さらに驚くべきことに、1995年まで離婚の権利すら認められていなかった。1986年に離婚の権利を巡って国民投票が行われたときは反対票が多数で否決されたが、1995年になって再び国民投票がされたときに賛成が上回ったのである。

 アイルランドでは、市民的自由は政治エリートによる上からの改革ではなく、国民自身による投票によって勝ち取られてきた。カトリック団体の影響が強く、政治家(政党)がこうした宗教に関わる律改正をするのは危険だということで、国民自身に負託することになったのかもしれない。

②同性婚の可否が国民投票によって争われる欧州最初の国

 

 欧州では、同性愛は、個人の権利であり、国家や宗教がとやかく言うべき問題ではないという意識が高まりつつある。また、法律で同性婚の権利を認めるだけでなく、人々の日常生活の中でそれを尊重する規範意識(当たり前と思う意識)を促進することが重要だと考えられるようになっている。

 今では同性婚を認めるEUの加盟国は、下記のように増えている(資料

  •  オランダ(2001)、ベルギー(2003)、スペイン(2005)、スウェーデン(2009)、ポルトガル(2010)、デンマーク(2012)、フランス(2013)、英国(2013〜14)、ルクセンブルグ(2015)、スロベニア(現在、国民投票実施待ち)、フィンランド(2017発効予定)(※パートナーシップ制度は除く)。

 

③アイルランドの国民投票の行方-若者票が鍵-

 

 最新の世論調査では賛成派が優勢であるが(賛成58%、反対25%、未決17%)、投票日が近づくにつれて反対派が巻き返してきている。面白いのは、若年層(18歳~24歳)では賛成71%/反対15%なのに対して、高齢者層(65歳以上)は賛成34%/反対52%となっており、世代間で大きなギャップがある点である。全体では賛成派が多かったとしても、人口比と投票率によって反対する高齢者の声が大きく反映される可能性がある。ここでも、若者の投票率がカギを握りそうだ。

 グラフ:アイルランドの同性婚に対する賛否(若年層と高齢層)同性婚の年代別の賛否

 なお、5月22日には同性婚に加えて、大統領選挙における被選挙権年齢の引き下げ(35歳→21歳)を巡って国民投票が行われる。問われる。当初、選挙管理委員会が提出した選挙権年齢を引き下げる勧告(18歳→16歳)に基づき、16歳選挙権についても国民投票に掛けられるはずだったが、現連立政権が約束を覆してしまった。結局、大統領選挙への被選挙権の引き下げのみが争われることとなった(記事)。こちらは反対が優勢であるというが、実際どうなるかは結果が出てからのお楽しみである。 その他の参考:FTの記事(有料)

※追記:投票結果は、同性婚については賛成63%、被選挙年齢の引き下げは反対が73%だった。

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20代よりも大幅に高い16歳の投票率ードイツ・ブランデンブルグ州の事例ー

 2014年9月、NPOライツでドイツ視察ツアーを実施した際に、ブランデンブルグ州議会選挙における16歳選挙権の事例を取材した。ブランデンブルグ州は、ドイツの州議会選挙で最初に16歳選挙権を認めた州である(都市州のブレーメンを除く)。同州は、選挙権年齢をただ引き下げるのではなく、高校において政治科目を必修化したり、若者に向けた参画促進のプログラムやキャンペーンを計画・実施したことでも注目されていた。

 それではブランデンブルグ州議会選挙における16歳~17歳の投票率はどうなったのか? 現地では、若者の投票率が他の世代と比べて高くなるのかという点に注目が集まっていたが、はたして結果は予想通りになったのか?

 最近、ドイツ内務省が年齢別の投票率の結果を発表したところによれば、ブランデンブルグ州議会選挙における10代の投票率は20代よりも高かった。下図のように、16歳~17歳の投票率は41.3%だったのに対して、1820歳が34%21歳~24歳は26%であった。前年代平均の投票率(48.5%)よりも低かったが、他の20代~30代よりも大幅に高かった。16歳選挙権を推進していた陣営は、胸をなで下ろしていることだろう。

 図表:ブランデンブルグ州・州議会選挙の年代別投票率(20149月)

ブランデンブルグ州議会選挙の投票率(2014年9月)  出典:連邦選挙管理委員会(http://www.bundeswahlleiter.de/de/)

 今回の結果は、欧州で最も早く国政選挙において16歳選挙権を実現したオーストリアの事例研究の結果を裏付けるものである。すなわち、16歳〜17歳の高校生は、学校における教育やその他の参画プログラムによる効果に加え、親との同居による効果を背景として、投票率が高くなる傾向にある一方で、20代の若者についてはモビリティー効果(学業や職などの移動性が高いこと)もあり、投票率は低くなる、というものである(詳しい説明については昔の記事(20代前半よりも高い10代の投票率)を参照して頂きたい)

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 ブランデンブルグ州議会の若者による参画キャンペーンの様子はこちらの動画から見ることができる。この事例のように、高校生への選挙権年齢の引き下げに合わせて、参画プログラムやキャンペーンを体系的に推進していくというのは極めて重要であり、日本の地方自治体にとっても参考になりうるだろう。単なる啓発広報ではなく、地域の問題や政党の政策を学べ、若者が自ら主導する参画プログラムとして行うことポイントである。

(※なお、ブランデンブルグの事例を含めたドイツの取り組みについてより詳しく知りたい方は、最新の報告書「ドイツの若者参画の今」を読んでいただきたい)。

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報告書完成「ドイツの子ども・若者参画のいま」

ご報告が遅くなりましたが、昨年、NPO Rightsとして実施したドイツ視察ツアーの報告書が完成しました! 同NPOでは、これまでスウェーデン、英国と海外調査を実施し報告書をまとめてきましたが、今回の「ドイツの子ども•若者参画のいま」はその集大成的なものになりました。また、本報告書の作成に当たってクラウドファングを通じて多くの方々にご支援をいただきまして、誠にありがとうございました。

本報告書は、早くから若者参画を推進してきた欧州における先進的な取り組みを、ドイツを事例を中心にまとめたものです。「若者政策」(Youth Policy)、その中でも「若者参画(Youth Participation)」という分野はまだ日本ではあまり知られていませんし、教育学や社会学での研究蓄積も限定されています。日本において「若者参画」というとなぜか選挙や投票のことばかりクローズアップされますが、なぜそれ以外の幅広い参画のあり方が語られないのだろうかと疑問を持っていました。本報告書は、そうした問題意識から、より幅広い若者参画の取り組みを網羅するようにまとめています。

ドイツの子ども•若者参画のいま

 本の目次は次の通りです。

  • はじめに
    第 I 章 調査の概要
    1. 調査目的
    2. 調査期間•参加者•調査協力者•訪問先
    第 II 章 ドイツの概要
    1.ドイツの連邦制
    2.政治制度
    3.学校教育制度
    第 III 章 欧州の若者政策
    1. 若者政策の背景と流れ
    2. EUの若者白書
    3. 新たな枠組みとしての若者戦略
    4. EUの成長戦略
    5. EUの具体的施策
    第 III 章 ドイツの若者政策
    1. 連邦政府の現行の法的枠組み
    2. 新しい独立した若者政策の枠組み
    第 IV 章 ドイツにおける選挙権年齢の引き下げ動向
    1. 国政選挙における選挙権引き下げ
    2. 地方選挙における選挙権引き下げ
    3. ドイツにおける選挙権引き下げの効果
    4. ブランデンブルグ州議会選挙•若者による参画フェア
    第 V 章 ドイツの若者団体・若者支援団体
    1. 連邦若者協議会
    2.  ベルリン州若者協議会
    3.  国際ユースワークのためのセンター
    4.  社会民主党青年部
    5. ベルリンパンコウ区の子ども•若者参画
    第 VI 章 ドイツの政治教育・生徒会
    1. ドイツの政治教育の概要
    2. 学校内での政治教育の内容
    3. 政治的中立性(超党派性)の考え方
    4.  連邦政治教育センター
    5. 生徒会支援協会
    6. フリードリヒ・エーベルト財団
    第 VII 章 調査まとめと日本への示唆
    1. 調査結果のまとめ
    2. 日本への示唆

EUやドイツに関心を持つ人、若者分野に関わっている人、投票率や政治教育に問題意識を持つ人などに読んでいただけたらと思っています 報告書の価格は1500円。Kindleなどの電子書籍で購入可能にする予定ですが、まだ検討中ですので、お手数ですが、購入希望者の方は、私(メールアドレス)かNPO Rightsの連絡先までご連絡ください。

 なお,各視察先で撮影した映像についてはウェブサイトで順次公開していきますので、ぜひチェックしてみてください(現地で映像撮影を担当してくれた映像ジャーナリストの熊倉次郎さん、公益財団法人のハイライフ研究所にご協力・ご協力を頂いています)

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