英国はそれでもノルウェー型(EEA型)を選ぶ

 EU離脱後の通商関係のシナリオについて、離脱支持派の最も強い要望が「EU移民の制限」にあることから、「カナダ型(カナダプラス型)」を指向する可能性が高いと予測した(過去記事)。だが、EU離脱がもたらす巨大な不確実性を前にして、「カナダ型」を回避し、より安全な「ノルウェー型(EEA型)」を選ぶ可能性が高まっている。物品への関税復活や金融サービスの制限を含むカナダ型よりも、EU単一市場へのアクセスが広範に維持されるノルウェー型を選択すれば、大学・研究機関やビジネスへの悪影響が最小限に抑えられるためだ。

 英国は本当にノルウェー型に落ち着くのだろうか? 

離脱派の選択肢

 EU離脱派の代表格であるボリス・ジョンソン保守党議員は6月24日のデイリーテレグラフ紙への寄稿(リンク)において、「単一市場のアクセス」の確保とともに「人の移動の自由の制限」(オーストラリアの移民管理制度の導入)を行う方針を明らかにした。これは「人の移動の自由」を伴わないカナダ型に「単一市場のアクセス」を確保するという意味で「カナダプラス型」であるが、そもそもEU単一市場とは「モノ,サービス,カネ,ヒトの移動の自由」を指すことから、この提案が実現する可能性はゼロである。このことは、キャメロン首相が今年2月までの再交渉で勝ち取れなかったことからも明らかであり、他国のドミノ追随を恐れるEU側が受け入れることはない。唯一英国に融和的な態度を取るドイツのメルケル首相ですら「義務を伴わずに特権だけを享受することはできない」(Politicoの記事)と譲歩しない姿勢を示している。(追記:6月27日のEUサミットの声明でもその点は明記されている)

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 上記の図は、EU通商協定における単一市場アクセスと人の移動の自由の度合いの関係をまとめたものである。EU離脱派の要求は、上記の図でいう①カナダプラス型か、②EEAマイナス型,③カナダややプラス型しかないが,①や②は、EU単一市場の性質から実現可能性はほぼない。②の可能性はゼロとは言えないが、ノルウェーやスイスが「なぜ英国にだけより良い条件を与えるのか」と反発するだろう。実現性が高いのは、ノルウェー型に「EUの意思決定過程への部分的な参画」を組み込んだ「ノルウェープラス型」である。もしEU側がノルウェープラス型を受け入れなければ、ノルウェー型に落ち着くだろう。③のカナダややプラス型やカナダ型はEU側として受入れ余地はあるが、むしろ、英国側として採用できない可能性がある。その構造的な理由としては、ア:スコットランド議会の拒否権の行使、イ:英議会の残留派の巻き返しなどが考えられる。

スコットランドは独立しない代わりにノルウェー型を選好する

 まず離脱協定の発効にはスコットランド議会の承認が必要との指摘があるが(英議会の資料),その場合、スコットランド議会は「カナダ型」に同意しない。スタージョン首相は、スコットランドでは全ての地域で残留派が多数であり,英国離脱の場合には独立に向けて再住民投票を行うとしている。ただ、英国政府はスコットランドの住民投票の実施に同意する見込みはない。また,スペインのカタルーニャ州やベルギーのフランダース地方など独立の火種を抱えていることから、EU側がスコットランドのEU加盟を認める見通しもないため,スコットランドは八方塞がりとなる。

 スコットランドに残された選択肢は,英国のEU離脱そのものを防ぐことであり,そのためならば迷うことなく離脱協定を否決するだろう。スコットランドは本気であり独立の動きも進めるだろう。英政府がスコットランドを説得する唯一の方法は、「単一市場アクセス」を確保できるノルウェー型を取ることだ。スコットランドは、カナダ型の選択肢には同意しないので、これが最終的な妥協点となる。

英議会の残留派もノルウェー型を選好する

 英議会の7割以上はEU残留派(650人のうち460人)であり、離脱したとしても単一市場アクセスの確保が重要だと考えている(BBCリンク)。離脱が国民の賛成多数を得たことは尊重する必要があるが,離脱•新協定に関する英国の方針はこれから確定する。私は保守党離脱派が国民の意思表示を盾にして党内基盤の強化を図るとみていたが,離脱派はバラバラで一体化する見込みが薄い。一方で、国民の間に困惑と戸惑いが広がる中で,悪影響を最小限に抑えようとする動きが活発化している。保守党の中でも離脱派への逆襲が始まり,労働党が乗っかれば,ノルウェー型に落ち着く可能性がある(カナダ型の選択は不可能になる)。

グラフ:英議会の議席構成と離脱派と残留派の議席バランス

英国議会の議席構成とBrexit

それでもEU残留はあり得る?

 なお、英労働党が新しい党首を選出し,解散総選挙に向けて体制を立て直すことができれば、EU残留の可能性もないわけではない。スコットランド国民党、自由民主党はEU支持であり、保守党にも残留派の方が多数いる。英国が落ち着くだろう「ノルウェー型」では、EUの意思決定に十分に関わることはできないので、その選択は「主権を取り戻す」どころか「主権を失う」ことになってしまう。もし解散総選挙となれば,離脱しない方が得策という雰囲気が生まれる可能性がある。新しい労働党がそうした政治の空白を埋めることができれば、EU残留は十分あり得るだろう。

ぐし について

スウェーデンのウプサラ大学大学院政治行政学修士取得、欧州議会漁業委員会で研修生として勤務後(-2013年3月)、ブリュッセルでEU政策や市場動向などを調査の仕事に従事。2014年11月から慶應大学のEUSI研究員。千葉市まちづくり未来研究員(自転車政策)。NPO Rights副代表理事として若者政策(主に若者参画)の提言や分析を行う。連絡先:gushiken17@hotmail.com
カテゴリー: EU, 英国離脱 パーマリンク

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