EU離脱後に英国が迫られる選択①

 前回記事では、英国のEU離脱を巡る世論は拮抗しており若者の投票率が残留の鍵を握っていると書いた。今回はより内容に踏み込んで、EUを離脱した場合に何が起こるのかを考えてみたい。EU基本条約(リスボン条約)の50条によれば、加盟国がEU離脱を選択する場合、2年以内にEUと経済貿易関係について交渉して合意する必要があるが、過去にEUを離脱した国がないので、2年以内に再交渉が行われるのかも見通せない。

 仮に英国がEUの離脱を選択する場合、現実的に取りうる選択肢としては、ノルウェー、トルコ、カナダがEUと結んでいる経済枠組みがあるが、これらはEU離脱の代替案になりうるのだろうか? これから3回にわ渡って、①EUの自由貿易圏、英国の産業構造の特徴を踏まえた上で、②ノルウェー、トルコ、カナダの枠組みについて紹介して、③英国のEU離脱がもたらす影響についてまとめてみる。

EUの自由貿易経済圏

 EUは28か国の500万人以上で構成された経済圏であり、資本、物品、サービスが自由にやり取りできる単一市場を持つ。日本国内での物品の貿易に関税がないと同様、EU域内の貿易では関税がかからず、税関や検疫のチェックも必要ない(関税同盟)。また、サービス分野も一定程度開放されており、ある加盟国に拠点を置くサービス事業者は他の加盟国でも同様のサービスを提供することができる(EU28か国のGDPに占めるサービス事業の割合は70%弱だが、そのうち46%は「原則として」既にに開放されている)。

 一方で、EU非加盟国との貿易については、特別な政治・経済枠組みの協定を結んでいない限りは、WTOの枠組みに沿って物品関税やサービス貿易のルールが適用される(日本や米国や中国など)。ここでの特別な特別な政治・経済枠組みの協定とは、主にノルウェーとの単一市場(EEA)、トルコとの関税同盟、カナダなどとの二国間の自由貿易協定等である。

 下記の図は、それらを図式化したものである。

図:EUの自由貿易圏及び二国間の貿易協定の構図

EUの自由貿易体制

英国の産業構造及び自由貿易

 英国は、北欧諸国やオランダととともに、EUにおける最大の自由貿易推進役であり、物品やサービス分野の規制緩和を図るとともに、競争環境の整備に注力してきた。英国の貿易政策の特徴は開放性(オープンネス)であり、英国企業か否かによらず、雇用や富を生む外国企業の誘致を推進し、良いサービスを提供する企業の他国への進出を図ってきた。

 1990年代にはEU単一市場が生まれたこともあり、英国の金融を始めとするサービス事業は急成長し、サービス貿易の割合も拡大している。世界銀行の統計によれば、英国における製造業の占める割合は11%と小さいが、サービス貿易がGDPに占める割合は19%と高い(ドイツでは23%、15%、日本では19%、7%)。過去23年の英国の貿易収支を見てみると、モノの貿易については赤字が拡大する傾向にある一方で、サービス貿易の黒字は伸び続けている。

 なお、金融や保険やその他ビジネス(コンサルや広告、会計等)などのサービス事業は英国の稼ぎ頭であり、金融と保険サービスだけでサービス貿易全体の32%を占めている。英国では製造業の衰退が進んでいるが、日系の自動車や鉄道メーカーが製造業の復活に貢献するとともに、製造業に紐付いた加工や修理、その他の付加価値を高めるビジネスサービスなどの需要も増加している。

図: 英国の物品・サービスに係る輸出入収支の推移(10億ポンド)英国の輸出入額の収支(サービス・貿易)

 英国の最大の貿易相手はといえば、もちろんEUだ。2015年は全体の輸出の43.7%、輸入の53.2%を占めている(スイスやノルウェーを含めればその割合はさらに高まる)。しかし、EUの貿易相手としての重要性は経済危機を経て少しずつ低下してきており、米国や中国などEU以外の国との貿易額が増加する傾向にある(特に輸出貿易)。保守的な英国人からすれば、EUの経済的な地位が低下しているにも関わらず、EUが保護主義を維持することで、英国企業の成長市場へのアクセスを阻害していると見えるのかもしれない。
 

図:英国の対EU輸出入額の割合(物品及びサービス貿易)

英国の対EU貿易割合

図:2015年英国の主要輸出相手(物品)図:2015年英国の主要輸出相手(サービス)

(ノルウェー、トルコ、カナダの選択肢の解説は次回へ続く)

※貿易統計は英国統計局の最新貿易データを参照(https://www.ons.gov.uk/economy/nationalaccounts/balanceofpayments)

ぐし について

スウェーデンのウプサラ大学大学院政治行政学修士取得、欧州議会漁業委員会で研修生として勤務後(-2013年3月)、ブリュッセルでEU政策や市場動向などを調査の仕事に従事。2014年11月から慶應大学のEUSI研究員。千葉市まちづくり未来研究員(自転車政策)。NPO Rights副代表理事として若者政策(主に若者参画)の提言や分析を行う。連絡先:gushiken17@hotmail.com
カテゴリー: EU, EU TRADE, 英国離脱 タグ: パーマリンク

EU離脱後に英国が迫られる選択① への1件のフィードバック

  1. ピンバック: EU離脱後に英国が迫られる選択②:ノルウェーになるか、カナダになるか? – 小串 聡彦 | 0239

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