英国のEU残留の鍵は若者の投票率

 前回記事では、英国の国民投票に関する世論調査のメカニズムについて紹介した。その内容は,電話調査では残留を選ぶ人が多いが、オンライン調査では離脱を選ぶ人が多くなり、電話調査の方がより信頼性が高いというものである。では、このままいけば英国民はEU残留をすんなり選ぶのであろうか?

 その国民投票の結果について鍵を握るのが若者の投票率である。

 すでに多くのメディアや識者が指摘するように、英国のEU離脱を巡っては若年層と高齢者層で顕著なギャップが見られる。最近のIpsos Moriの世論調査(2016年3月末の電話調査)では、18〜24歳では77%、25〜34歳では63%の若者層が残留を支持する一方で、45〜54歳では37%、55〜64歳は41%しか残留を支持していない。10代〜30代の残留支持、40代後半以上の離脱支持が鮮明となっており、まさに世代間対立の様相を呈している。

 

図1:EU離脱を巡る国民投票に関する年齢別の賛否及び投票意図

EU離脱を巡る世論調査結果

 英国では高齢になるほど保守党(右派の政権与党)の支持割合が増える傾向にあるが、保守党と労働党の支持の差はせいぜい10%未満であることを踏まえれば、ここまで世代間で対立点が出てくる論点も珍しい。昨年のアイルランドの同性婚を認めるか否かに関する国民投票では、若者層と高齢者の世代間対立が注目されたが、それと似た様な構図となっている(過去記事を参照)。

 なぜこのような差が生まれるのだろうか? 

 一つの理由は教育水準の向上である。若い世代の教育水準(高校・大学進学率)は親世代と比べて大幅に向上している。OECDによれば,高等教育資格(Tertiary education=大学・短大・高専等)を持つ人の割合は、55〜64歳では33%であるのに対して、25〜34歳では48%まで増加している(2012年時点)。若者の方が メディアや旅行・留学を通じた 異文化との接触が多く、EUというものの存在や恩恵を感じやすい、EUから切り離されることのリスクに敏感なのかもしれない。

 このように世代間の対立が注目されるが、上記の世論調査の全体結果を見ると、残留派が49%、離脱派が41%となっており僅差状態である。だが、その中で「確実に投票するつもりだ」と答えた人の割合を見ると、18〜24歳は32%、25-54歳は54%に留まる一方で、高齢層の65歳以上は78%に達する。もしも残留派と離脱派の僅差の状態が続けば、高齢者が相対的に若者層よりも高い割合で投票所に向かい、離脱を支持する割合が大きくなるだろう。

 

図2:2015年総選挙の年齢別投票率と全体投票者に占める割合事後調査及び人口統計

総選挙の年齢別投票率等

 上記の図は、2015年の英国総選挙における年齢別の投票率及び全体の投票者に占める(年齢別の投票者の)割合を示したものである。全体平均の投票率は66%、若者層の投票率は40%〜60%台であるが、高齢者層の投票率は70%を超えている。また、有権者数の年齢別の人口割合を見ると、18〜24歳は12%、25〜34歳は17%だが、実際に投票した人の割合を見ると、それぞれ8%、14%に下がる。逆に45歳以上は人口割合以上に投票に参加している。

 上記をまとめれば、全体の投票率、特に若年層の投票率が英国が残留するか否かの鍵を握ると言える。もし全体の投票率が30%〜40%に低迷するようなことがあれば、もともと投票に行く蓋然性が高いと言われる離脱派に有利になることから、離脱の可能性が高くなるが、逆に投票率が60%を超えてくれば、残留に傾くはずである。

 ※すいません、当初の数字と図が間違っていたので修正しました(4月11日時点)

ぐし Gushi について

Currently working for a Japanese consulting firm providing professional business service. After finishing my graduate course at Uppsala University in Sweden (2013), I worked for the European Parliament in Brussels as a trainee and then continued working at a lobbying firm in Brussels(2015). After that I joined the Japan's Ministry of Foreign Affairs, working in a unit dedicating for the negotiations on EU-Japan's Economic Partnership Agreement (EPA/FTA) (-2018). 現在は民間コンサルティング会社で勤務。スウェーデンのウプサラ大学大学院政治行政学修士取得、欧州議会漁業委員会で研修生として勤務(-2013年3月)、ブリュッセルでEU政策や市場動向などを調査の仕事に従事した後(-2015年3月)、外務省で日EUのEPA交渉チームで勤務(-2018年3月)。連絡先:gushiken17@hotmail.com
カテゴリー: EU, EU TRADE, 英国離脱, 政治参加・投票率・若者政策 パーマリンク

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