EU離脱を巡る英国の国民投票が二ヶ月半後 (6月23日)に近づいている。英国の未来、そしてEUの未来を決める大きなターニングポイントである。すでに賛成派と反対派で激しいバトルを繰り広げており、これからより激しいものになるだろう。
各種の世論調査をみると、英残留派の方が5%〜15%ほどリードしているようだが、そもそも世論調査の結果は信頼できるものなのだろうか?
実は、昨年の英国の総選挙では、ほぼ全ての世論調査会社が大失態を犯した。保守党(現政権党)と労働党の得票率は拮抗し、ハングパーラメント(宙吊り国会)になると予測していたが、フタを開けてみれば、保守党は労働党を6%以上も引き離し、過半数の議席を獲得したのだ。
なぜ世論調査は間違ってしまったのか? その原因は何か? 6月の国民投票についても間違った予測をするのではないか? こうした疑問を持つ人たちもいるだろう。
先日、これらの疑問に一定の回答を与える報告書が発表されていたので、紹介したい。特に二つ目の報告書(Populus)は、調査手法や質問の仕方の違いに着目して分析しており、とても示唆的である。
本報告書によれば、事前の予測と実際の結果にズレが生じた主な原因は、サンプル集団の隔たりが大きかったこと(Unrepresentative samples)にある。
去年の総選挙では、労働党の支持者が多くサンプルに含まれていたが、保守党の支持者が上手く抽出されなかった可能性があるという。なぜサンプル集団に隔たりが出たのかについては、18歳-24歳、25歳-34歳などの年齢区分の幅が広く正確に抽出されていない、70歳以上が特に抽出されていないなどの技術的な問題もあると考えられるが、それ以外の要因も多く、解明されていない。
例えば、報告書は、その他の要因についても次のようにまとめている。
①事前投票(全体の約20%)、②在外投票、③選挙人登録(未登録の存在)、④質問の仕方(隠れ保守党支持の存在)、⑤最終局面での変節、⑥故意の虚偽報告、⑦投票率(投票所に行くと答えておきながら、実際は行かない人の存在)、⑧調査手段(電話・オンライン調査の違い)。
こちらの報告書は、上記の⑧の要因部分の、電話調査とオンライン調査によって異なる結果が生じていること、それが生じる背景や要因について考察したものである。本報告書によれば、EU離脱に関する過去の世論調査(約80件)を見ると、電話調査では残留が離脱よりも15%〜20%ほど多いのに対して、オンライン調査では残留と離脱がほぼ拮抗しているという(下記の図は過去の世論調査結果を時系列的に示したものである)
なぜ電話調査だとオンライン調査よりも残留派が多くなるのか? なぜオンラインだと離脱派が多くなるのか? 筆者によれば、その違いは大きく次の二つの要因から来ているという。
一つ目の要因は、オンライン調査の方が「わからない」という選択肢を選ぶ人が多いことである。電話調査では、二択(Remain or Leave)しか無く、「わからない」という選択肢は提示しない(回答者がそう答えればそれをカウントする)。一方で、オンライン調査では、三択(Remain or Leave or I dont know)が提示されている。つまり、二つしか選択肢がない場合、残留を選択するはずの人が、「わからない」という選択肢が出てくることによって、そちらを選ぶようになるのである。実際、電話調査においても「わからない」という選択肢をわざと明示的に提示した場合には、「わからない」を選択する人が増加し、残留と離脱の差が縮まったとの結果がある(もちろん、サンプル集団が違うため、必ずしも正確な比較はできないが)。
二つ目の要因は、オンライン調査の方がサンプル集団に隔たりが大きいことである。まず報告書によれば、オンライン調査で抽出されたものと電話のものを横に並べてみると、両リストともに年齢や学歴、家族など個人の属性に沿って抽出されたものであり、さほど違いはなかった。だが、ジェンダーや人種、アイデンティティーなどに対する社会的態度(Social Attitute)を分析すると、オンライン調査のサンプル集団の方が保守的な考えを持つ人が多いこと、つまり、サンプル集団を抽出する段階で調査手法が大きく影響を与えていることがわかった。
ではなぜオンライン調査では保守的な考えを持つ人が多かったのか?
報告書は、サンプル集団の抽出にかける時間が十分ではない可能性を示唆している。すなわち、オンライン調査は、一定期間中にウェブ上の質問に回答を求めるものであるが、これに早い段階で回答する人は保守的な考えを持っている傾向が高く、より遅く回答する人ほどよりリベラルな考えを持っている、というものだ。こうした隔たりをなくし、よりバランスの良い回答を得るためには、サンプルの抽出回数をなるべく多く取る必要があると指摘する。もちろん、これはオンラインだけでなく、電話での調査でも当てはまることであろう。
過去1年間のEU離脱に関する世論調査では、電話調査とオンライン調査が行われているが、上記の二つの要因(「わからない」という選択肢とサンプル集団の隔たり)を踏まえれば、電話調査の方が妥当性が高い。オンラインの世論調査を含めると、離脱派と残留派が拮抗しているように見えるが、電話では残留派が15%〜20%ほどリードするとしているものが多い。
そうは言いつつも、やはり何が起こるかはわからない。離脱支持派は高齢者に多く、残留派は若者に多いため、全体の投票率が低くなった場合には、若者は投票に行かない傾向があることから、離脱派が勝つ可能性が出てくる。また、6月からは本格的なTVディベートも行われるはずであり、それによって情勢がガラッと変わることも考えられるだろう。