今週の金曜日(5月22日)にアイルランドで同性婚を正式に認めるかどうかの国民投票が行われる。この国民投票は大きく次の三つの点で注目されている。
すなわち、①アイルランドが、カトリック教会の根付いている保守的な国であるにも関わらず実は進化していること、②同性婚の可否が国民投票によって争われる欧州で初めての国であること、③若者の投票率がキャスティングボードを握っていることである。
カトリック教会といえば、バチカン市国があるイタリア、レコンキスタ(イスラム征服)のスペインというイメージが強いと思うが、アイルランドでは、カトリック教徒であることがある種の民族主義(アイルランドナショナリズム)と一体となっており、その点で影響力は他国とは比べものにならないほど強大であった。1980年まで避妊の権利が認められておらず,1980年代1993年まで同性愛者は犯罪者として扱われていた。さらに驚くべきことに、1995年まで離婚の権利すら認められていなかった。1986年に離婚の権利を巡って国民投票が行われたときは反対票が多数で否決されたが、1995年になって再び国民投票がされたときに賛成が上回ったのである。
アイルランドでは、市民的自由は政治エリートによる上からの改革ではなく、国民自身による投票によって勝ち取られてきた。カトリック団体の影響が強く、政治家(政党)がこうした宗教に関わる律改正をするのは危険だということで、国民自身に負託することになったのかもしれない。
欧州では、同性愛は、個人の権利であり、国家や宗教がとやかく言うべき問題ではないという意識が高まりつつある。また、法律で同性婚の権利を認めるだけでなく、人々の日常生活の中でそれを尊重する規範意識(当たり前と思う意識)を促進することが重要だと考えられるようになっている。
今では同性婚を認めるEUの加盟国は、下記のように増えている(資料)
- オランダ(2001)、ベルギー(2003)、スペイン(2005)、スウェーデン(2009)、ポルトガル(2010)、デンマーク(2012)、フランス(2013)、英国(2013〜14)、ルクセンブルグ(2015)、スロベニア(現在、国民投票実施待ち)、フィンランド(2017発効予定)(※パートナーシップ制度は除く)。
最新の世論調査では賛成派が優勢であるが(賛成58%、反対25%、未決17%)、投票日が近づくにつれて反対派が巻き返してきている。面白いのは、若年層(18歳~24歳)では賛成71%/反対15%なのに対して、高齢者層(65歳以上)は賛成34%/反対52%となっており、世代間で大きなギャップがある点である。全体では賛成派が多かったとしても、人口比と投票率によって反対する高齢者の声が大きく反映される可能性がある。ここでも、若者の投票率がカギを握りそうだ。
なお、5月22日には同性婚に加えて、大統領選挙における被選挙権年齢の引き下げ(35歳→21歳)を巡って国民投票が行われる。問われる。当初、選挙管理委員会が提出した選挙権年齢を引き下げる勧告(18歳→16歳)に基づき、16歳選挙権についても国民投票に掛けられるはずだったが、現連立政権が約束を覆してしまった。結局、大統領選挙への被選挙権の引き下げのみが争われることとなった(記事)。こちらは反対が優勢であるというが、実際どうなるかは結果が出てからのお楽しみである。 その他の参考:FTの記事(有料)
※追記:投票結果は、同性婚については賛成63%、被選挙年齢の引き下げは反対が73%だった。