東京都知事選で田母神氏が一定数の支持を集めたこと、特に20代の24%がいわゆる極右勢力に位置づけられる田母神氏の支持に回ったことは、ある意味、舛添氏の当選よりもサプライズだった(朝日新聞出口調査)。ただ、20代の4人に1人が田母神氏を支持していると読み取るのは飛躍である。投票率が過去三番目に低い46%まで下がったため、極右に位置する田母神氏の得票割合が押し上げられたと考えられるからだ。政治的な思想を持つ熱心な人達は投票に行くが、無党派層は行かない。逆にいえば、投票率がもう少し上がっていれば(つまり中道寄りの人が参加すれば)、田母神氏の得票割合は減っていただろう(ただし、最後に述べるように、中道政党が普通の人の受け皿として機能しているという前提である)。
客観的には、今回の都知事選挙は政策争点が見えない、分かりにくい、パッとしない、投票意欲の湧かない選挙だった。しかも20年振りの歴史的な大雪である。こうした悪条件の中でも投票に行こうという人は、政治に関わる組織に属する人、自分なりの政治的な思想を持った人に限定される。その中でも田母神陣営は一部の若者に訴求するところがあったのだろう。
米国では降水量が1インチ(約25mm)増すごとに投票率が1%低下し、共和党が少しだけ有利になるという研究結果がある[1]。宗教的な基盤を持つ共和党は民主党よりも熱心な政党支持者が多いので,雨が降ってもめげずに共和党を応援しに投票に行く。だが、民主党は無党派層が多く、忠誠心は共和党よりも高くないため、天候が悪いと投票意欲を失いやすい。一方で,日本の過去の衆議院選挙分析では、雨が降ると投票率が2.5%下がるとする研究結果があるため[2],今回の大雪の場合の影響はより大きかったといえる。(もちろん、天候だけで投票率が左右されるわけではない。スウェーデンの調査事例からは投票所が近いなど投票しやすい環境整備があればさほど影響はしないという結果が出ている)。
欧州では、ポピュリストが存在感を示す選挙に欧州議会選挙がある。本当は加盟国の規制だけでなく経済政策のあり方まで左右する重要な立法機関の選挙であるにも関わらず、多くの国民は欧州議会選挙に関心を持っていない。EUレベルの政策論争ではなく、あくまで自国政府の進捗を評価するための「中間選挙」になっている。そのため、2009年の欧州議会選挙の投票率は史上最も低い43%まで低下しており、中道政党よりも急進的な政党が勝ちやすい状況にある。今年の5月に実施される欧州議会選挙では、極右政党が躍進すると予想されている。(特に左派)中道政党は、より多くの人が投票すれば、自分らの得票率が伸びるとして、投票率向上のキャンペーンを展開している。なお、これまで欧州議会選挙は6月の初めに実施されていたが、加盟国の特別休日と重なっていたことから2014年の選挙より5月後半に変更した(5月23-25日)。この日程変更により、議会選挙の投票率の上昇が期待されている。
日本の極左および極右の台頭の動きは、ただでさえ不安定な政治システムをさらに不安定にする、危険な兆候といえよう。欧州の事例からは投票率の上昇が極右勢力の台頭を抑える可能性が見いだせるが、それは確固とした中道政党の存在を前提としている。中道政党が受け皿として存在しなければ、投票率の上昇はそのまま急進的な政治勢力に飲み込まれる。特に欧州の極右政党は、経済的弱者に訴求力を持っているといわれるが、これは日本でも同様である。本来は中道左派政党が解決策を提示して貧困層を取り込むのだが、日本ではそこに訴求する勢力は共産党しかない。中間層がどんどん浸食される中で、現実的な対抗策を打ち出せる中道左派がいない。現実路線の中道左派政党が作れるかどうかが今後のカギである。
[1]http://blogs.lse.ac.uk/europpblog/2014/01/15/evidence-from-swedish-elections-indicate-that-the-weather-on-polling-day-does-not-affect-voter-turnout/
[2]小林良彰「選挙•投票行動」(東京大学出版) p29を参照