西サハラ問題:EU-モロッコ漁業協定の行方

 2013年12月10日(火)、欧州議会総会(日本でいう本会議)で、EUとモロッコの漁業協定の可否に関する採決が行なわれる。2011年12月に同漁業協定は欧州議会の反対多数により否決となったが、今回新たに修正が加えられたものが提出され戻ってきた。ただし、前回同様、モロッコが違法で占領し続けている西サハラのエリアにも漁業協定の範囲が含まれるため、欧州議会では賛否を巡り激しい論争が繰り広げられている。欧州議会の国際法、基本的人権、民主主義の擁護者としての立場が試される採決になりそうだ。

 西サハラ問題の背景

 モロッコとモーリタニアの間には西サハラという、モロッコが38年以上も不法占領しているエリアがある(アルジェリア内にある亡命政府のサハラ•アラブ民主共和国が領有権を主張している)。1975年、スペインが領有権を放棄した後、モロッコとモーリタニアが南北分割を行なったが、西サハラでスペイン独立運動を展開していたポリサリオ解放戦線はこれに反発。アルジェリアの支援を受け、モーリタニア軍を南部から追い出した。モーリタニアが領有権を放棄した後、モロッコ軍が侵入し、西サハラを占領し続けている。

 サハラ•アラブ民主共和国はアフリカや南米アメリカを中心に50カ国以上から「国家」として承認され、アフリカ統一機構(OAU)にも国家として加盟している(モロッコはOAUを脱退し、アフリカ大陸で唯一サハラ•アラブ民主共和国を認めていない)。1992年に国連の仲介で停戦、西サハラが独立するか、モロッコに吸収されるかは住民投票で決めることになったが、未だ実施されていない。モロッコは、西サハラ内に全長2000kmにも及ぶ「砂の壁」を建設し、今でも西サハラ住民への弾圧を続けている(こちらの西サハラ問題研究所で詳細がみれる)

 西サハラ

 EU-モロッコの漁業協定の問題

 EUとモロッコの漁業協定では、モロッコがEUの漁船に対して排他的経済水域(EEZ)内での操業を認める代わりに、EUが漁業援助金/利用料金(4年間で1億2千万ユーロ)を与えると規定されている。こうした漁業協定の問題には、EUの大型漁船が持続的な漁獲量を超えて漁獲していること、経済援助の使い道が不透明であること、EU側の見返りも少ないことなどが上げられている。詳しい内容はこちらを参照)

 ただ、モロッコとの協定の最たる問題は、モロッコが違法占領している西サハラのEEZが含まれているという点である。同協定の反対派は、EUの漁船に西サハラの海での操業を認めることは、EUがモロッコの西サハラの占領に正当性を与えることになる、と主張した上、あの米国ですら、モロッコとの漁業協定を結ぶときに西サハラのEEZを操業区域から除外していると指摘している。

 国際連盟の法制局から提出された意見書は「西サハラ内の資源の利用は、西サハラ住民のためになる場合にのみ行なわれるべきである」としている(こちら)。2009年に欧州議会の法制局も同様に、「西サハラ住民の利益が確保されない場合は、西サハラの海を操業区域から除外するべきだ」と発表している(こちら)。

 これに対し、現時点での賛成派の欧州議員(主に南欧諸国)は、豊富な漁場である西サハラを含まない漁業協定では経済的メリットはないと反論する。その上で、もしもEUがモロッコとの協定を結ばなければ、「基本的人権には目もくれない中国やロシアの漁船がEUが出て行った穴を埋めることになる。汚らしい(ダーティーな)漁船がはびこり、状況が悪化するだけだ」という。さらに、EUとの漁業協定は、西サハラにも魚の加工施設の設置などで雇用を生むとメリットを強調する。

 (こうした賛否の議論は2013年10月3日の漁業委員会の審議ビデオで確認できる。特にオススメは1時間3分過ぎからのイサベラ•ロビーン議員の批判的な意見だ。ニ時間にも及ぶ熱い議論はこちらで見れる)。

 欧州議会の総会での採決に先立ち、先日、欧州議会の漁業委員会で採決が行なわれた。その結果、21人中の13人が賛成、8人が反対、2人が棄権で、僅差での可決となった。このままいくと、欧州議会の総会でもそのまま通過するようにみえる。しかし、漁業委員会は、漁業利権を持つ加盟国議員の割合が多いため、議会総会の意見を必ずしも反映していない。欧州社民党、欧州自由党、欧州緑の党は反対している。また、欧州保守党にもスウェーデン、ドイツ、イギリスなどに反対議員が多いため、漁業委員会の決定がひっくり返される可能性は十分にありうる。

 実際、2011年12月のモロッコとの漁業協定では、漁業委員会で賛成の勧告(賛成12/反対8)が出たにも関わらず、議会総会は、反対多数で否決した(296人の賛成、326人の反対)。スペイン、フランス、ギリシャ、イタリア、ポルトガル、ルーマニアの議員は賛成が多かったが、ドイツ、イギリス、スウェーデン、フィンランド、デンマーク、オランダなどの議員は反対に回った。まさに北と南の戦いである。
 
       2011年12月の欧州議会の総会での採決結果(欧州政党別)
 モロッコとの漁業協定(2011年12月)

       2011年12月の欧州議会の総会での採決結果(加盟国別) 

加盟国別モロッコ漁業協定(2011年12月)

 
 EU-モロッコの漁業協定に対する賛否の立場にはそれぞれ説得力がある。でも、欧州市民から選ばれた欧州議会の存在価値は、自由と人権の価値を守るために妥協をしない点にある。西サハラで弾圧されている人々にスポットライトを当てるためにも、欧州議会が協定を否決することは意義のあることだと思う。欧州議会が否決に傾くかどうか、月曜日のディベート、火曜日の採決から目が離せない。

ぐし について

スウェーデンのウプサラ大学大学院政治行政学修士取得、欧州議会漁業委員会で研修生として勤務後(-2013年3月)、ブリュッセルでEU政策や市場動向などを調査の仕事に従事。2014年11月から慶應大学のEUSI研究員。千葉市まちづくり未来研究員(自転車政策)。NPO Rights副代表理事として若者政策(主に若者参画)の提言や分析を行う。連絡先:gushiken17@hotmail.com
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西サハラ問題:EU-モロッコ漁業協定の行方 への1件のフィードバック

  1. ぐし より:

    なお、ほとんど知られていないが、日本も、モロッコと漁業協定を結んでいる。モロッコ政府にお金を払い、西サハラの住民に対価を支払うことなく、彼らの魚資源の収奪に貢献しているのだ。これは、ある意味で、中国政府にお金を払い、チベットにある資源を奪っているようなものだろう。www.jfa.maff.go.jp/j/press/kokusai/130213.html

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