今日、EUの閣僚理事会と欧州議会が共通漁業政策の改革案について大筋で合意した。
欧州議会の修正案は、MSY基準の遵守や魚の船外投棄の禁止などを含めたラディカルな内容だったため、南欧を中心とした漁業国(スペイン、フランス。ポルトガル、ギリシャ、ルーマニア)はこれに強く反対していた。2月に欧州議会が修正案を可決したあとの漁業委員会のミーティングでは、三者交渉が進まないことから、来年まで持ち越されるという悲観的な見方もあった。欧州議会の漁業委員会は「欠陥のある改革案ならないほうがマシだ(bad deal is worse than no deal)」という立場を繰り返していたが、どうやら欧州議会も漁獲枠設定におけるMSY基準の適用範囲などで妥協をしたみたいだ。「少し穴のある改革案でも何もないよりはまし」という政治的な判断をしたのだろう。欧州議会は、実を取りながら柔軟な対応をした、と思う。
もちろん、共通漁業政策がどのように遵守されるのか実効性を巡る懸念はあるーEUはルールはつくっても加盟国で遵守されないというケースが多いー。ただ、この改革案は、EUの漁業政策が生き延びるための大きな一歩になることは間違いない。
ー新しいEUの共通漁業政策のハイライトー
1. 科学的に持続的とされるMSYに基づく漁獲枠の設定と遵守(政治ではなく科学で決める)
- 2015年までに「可能な」魚種を対象に再生産できる水準(MSY)で漁獲量を設定する。
- 2020年までに「すべての魚を対象に」MSYで漁獲枠を設定する。
2. 海上投棄の禁止(Discard Ban)
- 2015年から漁獲された浮魚の、2019年からすべての魚を対象にの海上投棄を禁止
- 例外として漁獲量の5%の投棄を認める(これについてはまだ詳細は確定していない)
3.個別式委譲(取引)可能漁獲枠(Individual Transferable Quota-ITQ)の導入に反対
- EUレベルでの漁獲枠割当の個別委譲は認めない。
- 漁獲枠の割当は、EU全体ではなく、加盟国ごとにそれぞれの事情に照らして設定する。
4.資源回復エリアあるいは海洋保護区(Stock Recovery Area/Maritime Protected Area)の設定
- 加盟国はそれぞれの海域内で10%-20%の資源回復エリアを設定するように努力する
5.中長期的な漁獲枠の設定の導入と欧州議会の関与
- これまで漁獲枠は一年単位で設定されていたが、今後、いくつかの魚種について多年度での漁獲枠を導入。
- 欧州議会は「リスボン条約(2009)の締結後、漁獲枠の設定に関与できる権限がある」と主張してきたが、閣僚理事会はこれに反対してきた。欧州議会の権限が認められるのかは今の時点では不明。