ブリュッセルでの滞在中、スウェーデンのイサベラ=ロビーン欧州議員の秘書に頼んで、4月23日-24日に漁業委員会を聴講させてもらった。欧州議会はブリュッセルとストラスブルグの二カ所にあり、月に一週間〜二週間ずつ、二つの都市を行き来する。今回もストラスブルグでのセッションを終えた政治家が大挙をなしてブリュッセルに戻って来た(壮大なる税金の無駄使い!)。
さて、漁業委員会の議題は共通漁業政策の改革に関するもので多岐に渡った。その中でも焦点になっていたのは「船上でのフカヒレ漁(shark finning)の全面禁止」と「漁業権譲渡スキーム(Transferable Fishing Concession) 」。
フカヒレ漁は、船上でサメのヒレだけを切り取り、胴体を海に捨てる行為を指す。EUでは2003年から禁止されたが、いくつか例外規定があった(例えば、切り取られたヒレの重さが、サメの合計重量の5%以下であれば、ヒレと個体を別々の港でおろすことができる)。今回の法案では、サメの個体にヒレが付いたまま陸揚げされることを「例外なく」要求している。例外規定があると、その規定を上手くチョロマカそうとする漁業者が出てくるし、漁業者がルールを遵守しているかどうかチェックする必要が出てくる。だが、すべてをチェックすることは不可能であるし、チェックを強化しようとすれば余分なコストが掛かる。よって欧州委員会は、「フカヒレ漁の全面禁止」が最も効率的な方法と判断した。
だが、スペインやポルトガルの議員はこれに反対している。漁船の倉庫は限られているので、お金になるヒレだけをできるだけたくさん持って帰りたいのである。
これに関する議論は白熱して面白かった。ポルトガルの議員は「私が見たデータでは、サメの個体数は必ずしも減っていない。またヨシキリザメ(blue shark)などの特定のサメは繁殖力が高く成長が早いので取っても問題はない」という。これに対して、欧州委員会の担当者や他の議員らが「個体数が危機的に減っていることは、どの公式的なデータを見ても明らかだ。さらに調査が必要なことには同意するが、それにはコストがかかるし、すべての情報が手に入ることはありえない。予防原則に沿って行動することが大事だ」といって反論。
同法案は欧州議会では6月に漁業委員会で採決し、その後、9月に本会議で採決される予定。北欧諸国やイギリスはこれを支持するだろうし、南欧の国は反対するだろう。ドイツやフランスの議員がどのように投票するかがキーポイントとなりそうだ。
もう一つの焦点は「漁業権譲渡スキーム(Transferable Fishing Concession,TFC)」。これは乱獲を防ぐための施策として最も注目され、また論争の的になっている。TFCの眼目は、市場メカニズムを利用することで、きちんと管理能力がある漁船を生き残らせ、そうでない漁船を淘汰することにある。市場メカニズムを使うという点では、CO2排出権取引の漁業版ともいえる。まず、各加盟国が、既に決められているクオータを、過去の実績や伝統に配慮し、国内の漁船に割り振る(ex 沿海部の小規模漁船)。その際、全体の5%の漁業枠をオークションの枠として残す。これにより、オークションでの競争を通じて、管理能力のある漁船はさらに漁業枠を増やすことができる。
スペインやポルトガルの議員は「数ある選択肢の中で最も効果的で効率的な仕組み」としてTFCを擁護するが、フランスやスウェーデン、ドイツなどの議員は反対している。主な理由は以下のとおり。1)乱獲の問題の根っこは、きちんとしたクオータを設定することである。漁船の数を減らしたからといって、乱獲が減るとは限らない(漁船の数が減ったとしても漁船の稼働能力が高いため乱獲は続く)。2)EUのなかでもきちんと資源管理できている国とそうでない国がある。すべての加盟国が一律でTCFを導入する必要はない。3)自由競争で漁業権の購入を認めれば、スペインやポルトガルの大型漁船に小規模の地元の漁船が駆逐される。4)漁業権が投機の対象になる。
この日、会場は座れない人が出るほどの盛況振りだった。また、環境団体からの参加者も多かった。彼らは入り口で待ち構え、意見書を配布していた。手渡されたものは、別々の団体が統一戦線を組んで作成した共同文書で、その日の議題ごとに詳しい背景説明や政策提言が掲載されていた。そこには「Bird Life, Oceana, Greenpeace, Ocean2012, WWF」のロゴと担当者のサインが掲載されていた。こういう市民団体の圧力がどれほど政治家を動かすのかは分からないが、世界的に知られるNGOが統一キャンペーンを張ることの意義は少なくないだろう。
ちなみに、TCFの法案が欧州議会で採決されるのは上手くいけば9月の予定だ。