原発に関して、「東京都民投票」を実施しようという動きがある。原発の未来を国民の直接投票で決めようという運動の地域版である。東京都は、東京電力の株を所有する株主だから、都民は株主ということである。株主が会社に対して声を上げようという試みである。この署名は渋谷のハチ公前など都内の至る所で署名が出来る。2月9日までに30万の署名を集める計画。
私は、都民投票(そして国民投票)に賛成である。大きく二つの理由がある。
ひとつは、国民の政治参加の必要性である。官僚をコントロールするのが政治家だとすれば、政治家をコントロールするのは国民である。しかし、国民は政治をきちんと監視してこなかった。エネルギー政策は、これまで日本の総選挙の争点になることなく、原子力発電だけが盲目的に進められてきた。国民が政策決定のプロセスから排除され、政治家/官僚/電力会社/学者/メディアが閉じられた空間のなかで決めてきたのである。
スウェーデンの政治を見てきたものとして、このことはひどくショックだった。コントラストが大きかったからだ。スウェーデンは1980年に国民投票(参考)で、原発をどうするのかという難しい問題に向き合い、原発を減らしていく決定を下していた(今、スウェーデンでは脱原発はややトーンダウンしているが)。政治的に高度な問題だからこそ、お上に任せるのではなく、 国民が判断を下さないといけない。国民投票は、国民の政治参加を促す良いきっかけになるはずだ。
二つ目の理由は、原発の問題は国論を二分する、政治的に高度な問題である。それゆえ、総選挙で判断を仰げば、政党政治自体が機能不全になる可能性がある(もう既に機能不全であるが)。総選挙では、原発だけでなく、外交、TPPや財政•社会保障などの他の問題に関しても投票するので、国民の民意がどこにあるのか分かりにくい。原発だけが争点化されれば、他の問題がおろそかになるし、逆に、増税や外交が焦点になれば、原発への関心がかすんでしまう。
つまり、国民投票(今回は都民投票)を上手く組み込んでいくことは、国民の政治参加を促すだけでなく、政党政治を円滑に行うために不可欠な作業である。国民投票に委ねると、「大本営発表」に負けてしまうという懸念が聞かれるが、そのプロセスを通じて学んでいくことが大事である。3,11の震災の後、国民は政府やメディアをより批判的に見るようになったと思う。国民投票になれば、メディアはバランスの取れた報道を行なわざるをえないし、国民も情報収集をし考えるようになるだろう。そうやって民主主義は強くなるのである。
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先日、「東京都民投票」を実施するべく奔走している大学生の「どっきょ」という若者と会った。スウェーデン人のレーナさんから紹介してもらった。1月9日に吉祥寺で都民投票の運動を盛り上げるためのイベントを一緒にやるという。制服向上委員会というグループも参加して、「ダッダッダッ脱原発」の歌を歌うらしい。笑。
どっきょはこれまで原発についてあまり考えたこともなかったが、3,11とフクシマですべてが変わったという。反原発の運動で、政治の意思決定に影響を与えられないかと考えていたときに、都民投票(国民投票)に出会った。彼は言う。「何かしたいという若者は多いけど、問題が大き過ぎて何も変わらないと思っている。でも、都民投票は、22万人の署名を集めれば実現できる。これは何かを具体的に変えられる大きなチャンス」。
都民投票の事務所
左でもなく右でもない、そういう古くさいカテゴリーから遠いところにいた、普通の若者たちが動いている。日本も変わり始めているのかもしれない、と感じる。また、嬉しさと同時に申し訳なさと、残念な気持ちもある。日本社会が変わる潮目に、日本にいないことに。むしろ、新しい政治の季節のまっただ中にいる、今の日本の学生達が羨ましく思う。
今回の都民投票の運動では、街頭の署名を集める人達の数が不足している。PR活動も足りていない。まだまだマンパワーが必要だ。もし都内で時間を作れる人がいたらぜひ手伝ってください。また、署名をしていない人はぜひ署名をしましょう。
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