前回も書いたように、ウプサラ大学の「MEDIA POLICY AND REGULATION」という授業の一環として、ベルリンのスタディーツアーに行ってきた。ヨーロッパでは、教授同士の交換留学も盛んなこともあり、こうしたスタディーツアーがよく行われるのだという。
僕らが訪れたのは、ドイツの通信社DPA、ベルリンの公共放送、そしてベルリンの高級紙だ。
「通信社」といえば、AP、ロイター、フランスのAFP通信が有名どころとして挙げられるが、ドイツのDPAは、その四番手に位置している。ドイツ国内だけでなく、世界中の新聞社やテレビに情報を配信している。
その仕事内容は、日本の通信社のそれと変わらないみたいだ。一次情報をできるだけ早くゲットして、それを契約している企業や組織に配信する――。ただ、日本と異なる点を挙げるとすれば、通信社の役割が比較的に大きい点だろう。連邦国家として分権化の進んだドイツは、ナショナルな新聞紙のリーチはそれほど広くない。むしろ、新聞社は、その地域や地方ごとの出来事を大きく扱う傾向にあるため、ナショナルレベルでの情報収集は通信社に拠ることになる。
この違いは、日本にいる人には少しわかりにくいことかもしれない。日本では、新聞社(ナショナル紙)のリーチの範囲が広いため、新聞社と通信社が競合し合い、その見分けがつかないような感じになっている。だが、その原理を考えれば、通信社はリーチを広く持って「速報」を扱い、新聞社はより深く多面的な「分析」を加える――そもそもの性質として、このような区分が挙げられるはずである。
もちろん、この「速報」と「分析」という区分は理念的なものでしかないし、実際の報道の現場ではそんなものは誰も考えていないだろう――が、ドイツの記者の話を聞いていると、なんとなくその住み分けに対する意識というか姿勢は伝わってくるものがある。
たとえば、ドイツのDER TAGES SPIEGEL紙には、いわゆる「社員」であるライター(エディター)は140人程度しかない。あとは1000人ほどのフリーランスの契約社員がいるだけだ。だから、新聞社の記者はコンスタントな一次情報を得るよりも――それは通信社に任せれば良い――深く切り込んだ調査記事を書く。そうやって出来の良い記事を書いた人間だけが、社員として雇われていく。
ちなみに、一文字あたりの値段が1.5ユーロ。紙面の一ページ全部を書いてようやく1000ユーロ。コンスタントに書ければ良い値段だが、相当の実力がないと食っていけない。「他と異なる質の高い情報」を提供するという意味では、なるほど、合理的なシステムだと思うが、記者の身になって考えると、なんともシビアな世界ではないか。
この人たちはあんまり寝ていないのだろうな、と思っていたら、聞いてびっくり仰天。
DPAの通信社のエディターは、「平日は18時には帰る。土日はお休み」だという。しかも1年間で休みが1ヶ月あると自慢げだ。これがどこまでユニバーサルなものかはよくわからないが、どうやら日本の労働環境よりもフィジカルに楽そうなのはたしかだ。さすがはヨーロッパというべきか―。
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といっても、ドイツの新聞社の懐事情は日本と同様に良くなさそうだ。
(逆に、通信社はどこも磐石なようだが)。
ベルリンのクオリティーペーパーといえども、購読者数は10万人程度。若者たち(僕ら)は新聞をますます読まなくなっている。我々を何とか繋ぎとめるため、一ヶ月の購読料を10ユーロで提供しながら、映画の券を二枚プレゼントしているそうだ。(映画券は一枚5ユーロなので購読料はほとんど無料ということ! 彼いわく「without gift it is impossible to sell paper」だそうで)。
ちなみに公共放送の苦境はドイツのそれも変わらない。
NHKの受信料不払いについては「不祥事」の件も含めて少し事情が異なることを考慮しても、どこの国でも受信料を払わない人で溢れている。ドイツでも多くの人は「テレビなんて見ねーよ」とか「テレビは見ても公共放送なんて見てねーよ」といって、払わないそうだ。
ドイツでもスウェーデンでも、係りの人が部屋のドアを叩いて、地道に回収しているという。もちろん、「うちにはテレビはないです」といえば、彼らは中まで入ってチェックすることができないから、諦めるしかない。「公共放送はどこへ行く」は日本だけではない、世界共通の問題なのである。
ベルリン地区の人気ニュース番組@19時半。ゲストを呼んで対談のようにして進めるらしい。
ドイツのクローズアップ現代みたいなもの。視聴率は17%くらいだというから、すごい。
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一文字あたりってつまり一単語??
yukako氏
わかりにくくてすいません。
これはone wordのことです☆