バスツアーの最大の目玉は、富山市の山奥の土遊野農場の見学だった。そこの橋本順子さんというお母さんがものすごいパワフルで、魅力的で、チャーミングで、参加者はみんな惚れてしまった。土遊野とは稲作、養鶏、ヤギの飼育、そのほか野菜まで作っている、まさに自給自足の農場空間である。しかも、ニワトリの飼料には輸入とうもろこしを使わず、学校給食の残滓や米のわらなどを戻して使っているため、限りなく自然に近い「循環型の農場」でもある。
午前中に行ったとき、ちょうどニワトリが卵を産んでいた。カゴの前で何十分も粘ったすえ出てきたニワトリの卵は、湿っていて温かい。橋本さんは「いのちの温もり」という。この卵を実際にいただいたのだが、なんと色が白い。なぜかというと、輸入とうもろこしの飼料を使っていないからである。生卵として食べられなかったのが残念であったが、本当にふんわりとして美味しい卵だった。
首都圏に住んでいた橋本さんが富山にやってきたのは、20年以上前のこと。森林に対する除草剤の空中散布に反対して結成した「草刈り十字軍」という草の根運動がきっかけだという。そこでご主人(東京の人)さんと出会い、結婚して、一緒に富山に移ってきた。「人間は他の生き物をいただくことで生きている」。この「当たり前の生き方」を、自分たちの手と足を使いながら実践してきたのである。
ぼくが感銘を受けたのが、「教育も福祉も農業も同じ。すべて『いのちの大切さを学んでいる』」という言葉だった。かの地では、自給自足を軸としているので、何か食べたいと思ったら、自分で取ってくるのが基本だ。唐揚げを食べたいと思ったら、ニワトリを取ってきて、自らの手で殺し、そのことに感謝をしながらいただくと。
かつて、暗黒舞踏で有名な土方巽は、舞台上に「ニワトリ」を引っ張り出してきて、それをゆっくり握りつぶすというパフォーマンスを行った。そして、それを見た観客は次々と嘔吐を催したという話が残っている。これは1つの極端な例ではあるが、僕たちは、自分が食べるものの、原材料収集から加工の工程について全く知らないで生きている。「いのちをいただいて生きている」ということに無頓着に生きている。そんな暮らしにNOと叩きつけてくれたのが、橋本さんだ。
橋本さんは「東京こそ、限界集落だ」という。「なるほどそうかもしれない」。こうして東京に住んでいるのに、合点納得してしまう僕は、一体何なのだろうか。僕は将来、どこに住んでいるのだろうか。悩みは膨らむばかりである。
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なるほど。自給自足の生活をするってことは、命の尊さと向き合うことでもあるんだね。
確かに、こういうことは東京みたいな都会にいたら学べないかも。
ただ、欧米の都市だと、中華街や肉市場で焼きたてのブタの丸焼きがそのまんま吊るしてあるのを見かけたりするから、意外と学ぶ機会があるんだよね(笑)。
>僕は将来、どこに住んでいるのだろうか。
いっそのこと、スウェーデン人の彼女を作って、結婚して、移住しちゃえば(笑)?
きっと老後も安泰だよ。
だにえる氏
コメントさんくす。
日本はほんとに潔癖なんだよね。
肉だけじゃなく、虫ついてる野菜かってくれないとか。
カナダはどうかわからんけど、ヨーロッパでは「地域で取れたものはその地域で食す」というローカリゼーションが基本だから、食に対する意識も高いのではと思う。地域でとれたものを買うのが基本っていう方向に意識を変えられるよう、なんらかの仕組みをセットする必要があるでしょうね。
>いっそのこと、スウェーデン人の彼女を作って、結婚して、移住しちゃえば(笑)?
スウェーデン人は背が高くて怖いよw。
最初そうしようと思ってたけど、やっぱ、日本人がいいと思う。笑。