ヒッチハイク―鳥取から東京へ②

 (ヒッチハイク①はこちら
 くなってきたため、とりあえず腹ごしらえにカレーを食らう。A4の紙に大きく『東京』という文字を書く。さっきと同様、トイレでこの紙を掲げ、心優しい人が来るのを待つ。…だが全く誰も見向きもしない。作戦第二弾として、SAの出口に待ち構えて『待ち人』を待つ。すると早速、安達ナンバーを発見!!。だが、チャンスと思って近づいた瞬間、ものすごいエンジン音を鳴らし、走り出してしまった。他には、湘南ナンバーで若い男二人組を見つけた。覗いてみると、ボンネットを開けて、何か調整をしているようだ。「すいません、東京方面に行きますよね?」 話しかけた。 すると長髪の男性は、「いや、僕たちそういうのいいです。結構です」と、にべも無かった。…ボクは何かの勧誘ではないとですよ。
 こうして一時間ほどが経過した。
 失敗した一因は、おそらく兵庫から東京まで距離がありすぎること。ドライバーもさすがに遠すぎると敬遠し、避けてしまうのだろう。ここからは一転、名古屋当たりに狙いを絞って車を探した。すると一台の軽バンがちょうど僕の前を通過した。ナンバーは『長野』、しかも運転手は一人。「これはイケる!」。 車をこっそり追いかけて、運転手が出てきたところに「すいませんが…」と声を掛けると、これがビンゴ!! 「おお、いいよ、京都くらいまで連れて行ってあげるよ」と快くOKをもらった。
 この時、ちょうど8時過ぎだった。
 彼は長野県在住で、土建関係の仕事に携わっているあっちゃん。スキンヘッドにニットの帽子。一見すると怖いけど、笑顔が素敵な30歳(たぶん)。ちょうど元旦から四国を車で回っていて、今日、広島から戻ってきたところだという。「いや~原爆は怖ぇーよ。アレはダメだ。平和は絶対に保たないと」。あっちゃんは、平和記念館や原爆ドームのインパクトを語ったり、瀬戸大橋の偉大さについて話したりと、実は、かなり真面目な人のようだと分かってきた。
 適当に音楽の話とかしていて1時間ほど経った頃だろうか、彼が突然、語りかけるようにしゃべり始めた。「いや~、音楽やりながらマリファナをやるのが一番気持ちが良いのよ」。…えっ、今なんて言った?「カンジャがないとダメだよ。やっぱりさ、仕事にしても常に同じことをやっていたら感性が鈍くなるわけ。そんなときに一服やると、新しい気持ちでまた頑張ろうと思えるのよ」
 彼に言わせれば、昔の日本では大麻は合法で、むしろ文化の一つだった。しかしGHQが占領後、大麻から取れる『油』が日本のパワー(?)となるのは、アメリカにとって不都合になるため、それを禁止したのだと。彼の力説の是非はわからないが、たとえば、大麻はそれほど有害ではないし、中毒性もないことは話に聞くところだ。彼は続けて語る。「カンジャの中でも、オランダ製はやはり上質で美味しい。オレも長野では、仲間と一緒に大麻を栽培しているんだけど、それは北海道のだからいたって普通の味。でも、コウモリの糞を入れると、いい味になるんだこれが…」。
 吸っている友達は周りにも少しいるが、さすがにここまで心酔している人は見たことがない。かなり面白い人に出会ってしまったようだ。先の広島では、車の中で酒を飲んで薬を吸って寝ていたというくらい危ない面もあるが、彼の素晴らしいところは、覚せい剤だけは絶対にやってはいけないと熱弁する点だ。吸引ならば、基本的に自分の意識は保っているし、効き目も3時間から6時間しか続かない。だが注射は三日ぐらい効力が続くため、中毒性が高く危ないというのだ。
 途中、草津サービスエリアでお土産を買ったりしてまた出発。このとき22時半。京都のSAのどこかで寝ようと思っていたあっちゃんだが、「いや、とっちゃん(筆者)のために、名古屋あたりまで行ってやるよ」と優しい。やはりヒッチハイクは、乗せてくれる人が皆親切で温かい。彼はお気に入りの音楽(ガン・フロンティアとサンタナ)を流しながら、リズムに乗って走った。0時に養老パーキングで休憩し、次の守山パーキングに着いたのは1時過ぎだった。実は、この前の小牧JCTで彼は長野方面に行かねばならなかったが、真っ直ぐ来てしまったのだ。ここでお別れだった。お礼を言って別れるときに、彼は好きなバンド、ガン・フロンティアのMDをくれた。本当に素敵な兄ちゃんだった。
    
       (養老SAにて)                   (あっちゃん、ありがとう)
 守山パーキングエリアは規模が小さい。次の車が見つかるか不安だったが、なんと開始五分、『習志野』ナンバーの運転手がOKを出してくれた。兵庫に帰郷していて、今から浦安に帰るところだという。「やった!!」 これで一気に千葉まで帰ることができる。午前1時。僕は自宅までの特急便をついに手にしたのだ。
 車の中には、スノーボートやスキーが転がっていた。聞いてみると、かなりのアウトドア派ということだった。一人用のテントを積み込み、リュックを背負ってバイクで日本を回ったらしい。特に旅人が多い北海道では、行きずりの人と一緒に夕飯を作り、酒を飲むのが最高に楽しいという。今度は、タイをバイクで回るのが目標。
 途中、4回ほどサービスエリアに寄って休憩。5時くらいから意識が空ろになってきた。なんとか寝ないように顔をつねったり、手を捻じ曲げたりしてその場を凌ぐ。途切れ途切れの記憶の中、見慣れた地名が見えてくる。『小田原』『厚木』『横浜青葉』…そして『用賀』。東名高速道路を下りて、首都高に入ったようだ。そこからはあっという間。気がつけば、目の前に浦安駅があった。ゴールだった―。
 「やっと着いた。ご苦労さん」 お世話になった運転手からなぜか言葉を掛けられた。荷物を持って車を下りると、彼と両手を合わせて握手をした。「本当にありがとうございました。助かりました…」。
               
                 (北海道で、また会いましょう!!)
× × × × × × × × × × × × × × × × × × × × × × × × ×
 僕は、文字通り『フリーライダー』=『ただ乗り』だった。普通一万円以上はかかるところを、全くの無一文で通過することができた。だが、人の負担の上に乗っかり、自分だけ美味しい目を見たのだから、おそらく良いことではない。むしろ忌み嫌われて然るべき行為かもしれない。ただ、傲慢を分かって言わせてもらえば、車に一人ならば、彼は運転する限り寝ることはできない。だから、フリーライダーが運転手の良き話し相手(気晴らし、眠気覚まし)となれば、その存在意義というのは、十分にありうるのだろう(逆に話を聞かず、自分の話に終始するならば、邪魔な存在以外の何者でもない)。全く知らない二人が車という閉ざされた空間で話をすること。しかもタクシーのように金銭的な儀礼的な関係ではなく、あくまで自発的な関係として、この『フリーライドという行為』は両者にとって意義があるのではないかと思う(もちろん危険もあるだろうが)。
 車に乗せてくれた津山のじいちゃん、ばあちゃん、兵庫の夫婦二人、長野のあっちゃん、そして浦安の兄ちゃん。僕は彼らにお礼はすれども、それ以上のことはしていない。でも彼らは別に気にしていないだろう。「金がないから仕方がない」と。学生の特権だと思っているからだ。
 でも大人になったら公然とはできない。大人とは基本的にペイして還元していく側だからだ。それは様々な場面においてそうだし、このフリーライダーにしてもそうだ。だから僕が運転する側になったら、ヒッチハイクを乗せてあげよう。それが上の彼らへの、一番の感謝の表現だと思うからだ。ありがとう。

ぐし について

スウェーデンのウプサラ大学大学院政治行政学修士取得、欧州議会漁業委員会で研修生として勤務後(-2013年3月)、ブリュッセルでEU政策や市場動向などを調査の仕事に従事。2014年11月から慶應大学のEUSI研究員。千葉市まちづくり未来研究員(自転車政策)。NPO Rights副代表理事として若者政策(主に若者参画)の提言や分析を行う。連絡先:gushiken17@hotmail.com
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ヒッチハイク―鳥取から東京へ② への5件のフィードバック

  1. 植田啓生 より:

    一連の記事・・・っていうかエッセイ風の旅日記、読みました。
    自分がヒッチハイクやったら、多分見た目的にフツーに騙されそうな気がするので(汗)、ヒッチハイクはちょっと・・・ですねw
    一人旅行ですら、6月にやった家出(しかも行き先は大阪の祖父母邸w)が人生では初めての一人旅行ですし(旅行とすら言えない・・・かな?)。しかも結局のぞみに乗っちゃいましたしoTZ
    でも、いつかその行動力を見習って、旅に出たいです!

  2. おぐっし より:

    >植田氏
    エッセイではなく、ただのレポートだね。
    これを見てヒッチハイク仲間が増えれば、という気持ちで書きました笑。
    (…まあ無理か)
    あと、いつか旅に出ると言っている時点で遅いと思うww
    思い立ったら吉日、明日にでも出発しようぜ!

  3. えふたか より:

    皆、いい人たちで本当に良かったなぁ^^
    こうやって読んでみると、
    ヒッチハイクって一回はやってみたいよなぁ。

  4. ぐしけん より:

    >えふたか
    ヒッチハイクはなんたってタダだからね(笑)。
    お金がなくても日本ならどこでも行けますから☆
    今度やろうぜ!

  5. のこぶろぐ より:

    ヒッチハイクした少女は・・

    普通のホームビデオでドライブ中の車内の様子を撮っています。再生時間4分を過ぎたあたり、夜の田舎道に一人で立っている女の子を車に乗せます。少女の『あの場所が見える?私はあそこで事故を起こして死んだの』というセリフとともに衝撃的なラストが。。実話から起こした作品だそうです・・(・ω・`;)心霊映像【3面鏡】…

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