スウェーデンの若者担当大臣のアイーダ・ハジアリック(29歳)が飲酒運転の発覚により辞任するというニュースが入ってきた。ワインを二杯ほど飲んだ後、デンマークのコペンハーゲンからスウェーデンのマルメへ移動していたところをスウェーデンの警察に捕まったようだ。
スウェーデンでも人気と評価、期待値の高い政治家が高かっただけに、彼女の辞任を惜しむ声が多いようだ。なんとバカなことをしたという失望の声もあるが、彼女が自らの過ちを認めて、自分の判断で迅速に辞任を決断したことを評価する人も多い。メディアや世論の論調を見ていると、そもそもアルコールの量が大したことないので辞任はオーバーリアクションだったというものすらある。むしろ、彼女の潔い辞任は、将来の政治家としてのキャリアの可能性を残したという見方もされている。
Aida Hazialic (若者大臣(高校・知識向上担当大臣))

若き社民党のスター選手
アイーダはボスニアヘルツェゴビナで生まれ、5歳のときにユーゴ紛争から逃れて両親とともに難民としてスウェーデンにやってきた。両親は清掃の仕事などで家計を支えて、アイーダは賢明に勉学に励んだ。社民党の外務大臣のアンナ・リンドに憧れて、16歳のときに社会民主党の青年部組織に入党し、頭角を現した。19歳で市議会議員となり、23歳で市議会の幹部となった。2年前の27歳のときに国政選挙に出て惜敗したが、ロベーン首相から直接招集され、最年少で閣僚(若者大臣)に就任することとなった。若者の教育や雇用の問題に取り組み、職業学校の改革を推し進めていたところだった。保守からも左派からも評価が高く、社民党の未来を担う有望な逸材のはずだった。
(参照:アイーダへのDNのロングインタビューの記事は面白い。題名は「私はスウエーデンが与えてくれた全てのことに感謝している(アイーダ)」)
欧州諸国と比べて厳しいスウェーデンの飲酒運転の基準
アイーダは、ワインを二杯飲んでから4時間経っていたので、アルコールは抜けていると思っていた。だが、実際に血中検査をしたら、0.2mg(血液1mℓ中のアルコール濃度)が検出されたのだ。
スウェーデンでは血中のアルコール濃度が0.2mgを超えると飲酒運転(酒気帯び運転)とみなされ、罰則の対象となるが、スウェーデンの飲酒運転の基準は他の欧州諸国と比べても厳しいものだ。デンマーク、フランス、フィンランド、オランダ、オーストリアでは通常0.5mg、英国では0.8mg(スコットランドは0.5mg)、スウェーデンと同じ水準の規制を課しているのはノルウェー、ポーランドなどであり、それよりも厳しいゼロ基準を採用しているのはハンガリー、ルーマニア、スロベニア、スロバキアなどである。なお、日本の酒気帯び運転の基準は約0.3mgなので、スウェーデンよりも緩い(ただし警察の裁量において飲酒と判断する場合には飲酒運転となる)。
ちなみに、アイーダはデンマークのコペンハーゲンからマルメを走行していたが、もしコペンハーゲンで検査を受けていたら、彼女は当然に辞任する必要はなかっただろう。もちろん、スウェーデンの国内法に違反したことには間違いないことであり、飲んだから乗るなの原則からしたらそもそもアウトである。法律を作成し、遵守させる側の人間がそれを守らないのは道理にかなわない。特に若者向けの「Don’t drink & drive」などのキャンペーンを推進する側であったのだから、言い訳はできない。その意味では、彼女がすぐに辞任をしたことは良いことであった。
スウェーデンの交通死亡者数に占める飲酒関連の割合
スウェーデンでは2014年の交通事故の死亡者数は270人であるが、そのうち54人(全体20%)は飲酒関連によるもの(o,2mg以上)である。過去の統計研究によれば、一人当たりの飲酒の消費量が1ℓ増加すれば、飲酒運転の違反件数は11%増加し、交通事故死亡者数が8%増加するとされている(リンク)。
飲酒関連の交通死亡者数と全体に占める割合の推移(2007-2014)