ネットフリックス等に保護政策で立ち向かうEU

 欧州委員会は、ネットフリックスなどの動画配信サービスの運営会社に対して、一定数のEU作品(European works)の配信を義務づける改正案(音響•映像メディアサービス指令の改正案)を発表した。EUではすでに放送局の放送時間の最低限半分をEU内で作られた作品に割り当てることが定められている(フランス政府は、放送時間の60%がEU内の作品で、そのうち40%はフランスの作品でなければならないとしている)。

 今回の改正案は、既存の放送事業者だけでなく、ネットフリックス、アマゾンプライム、Ituneなどの動画配信の運営会社についても配信数の全体の20%に当たる作品をEU作品とするものである。動画配信会社は当然のごとく反発している。「視聴者が見たいものを提供できなくなる、視聴者が少ない作品を配信しなければならなくなれば市場を歪めることになる」と。

 ドラマや映画などの映像作品は、その国の言語や時代、生活様式などの文化を体現するものであるとして、EUは、文化の多様性を守るために市場競争に晒すべきではないとの立場をとってきた。映像分野ではハリウッドを始めとする米国作品が圧倒的に強い競争力を持っているので、米国の文化帝国主義から自国の文化を守るためにも外国作品を制限する措置をとってきたのだ。そして、最近のテレビからオンラインへの視聴のスタイルが移行してきている中で、外国作品が流入する抜け穴が生まれてきたので、それを食い止めるために新たな割当を設定しようとしている。

 自国の映像配信を義務付けることは、自由貿易の理念から真っ向から対立するものだ。それを文化の多様性の尊重といって一見すると普遍性がありそうな概念で正当化しようとするところがEUの狡猾で戦略的なところである。こういうことができるのもEUとして大きな経済市場があるからである。ネットフリックスはEUの巨大市場を無視することはできないので、EU作品の配信を行うし、自前でEU作品を作るだろう。もちろん、各国の作品をそれぞれ取り入れることは視聴者を獲得する上で欠かせないものであり、実際にEU全体のネットフリックスの映画作品をみると、約21%がEU作品だった。別に法律で義務を課さなくても、市場を開拓しようと思えばその国の作品を扱うことになるだろう。

 EU内でも全ての加盟国がこうした保護政策を取りたいわけではない。すでにオンラインの映像配信に割当を課している国は、保護政策の急先鋒のフランスを始めとする15ヶ国で、英国やスウェーデン、デンマーク、オランダ、ドイツなどの13ヶ国はそうした措置は取っていない。

 アメリカは良いコンテンツがあってそれを米国の会社が運営するプラットフォームが世界各国で提供することで輸出拡大している。EUはそれに狡猾な保護主義によって対応している。日本は良いコンテンツがあっても提供するプラットフォームがないし著作権のせいで輸出は伸びず、しかもEUからは保護主義によって閉め出しを受けるという残念な状況になりそうだが、大丈夫だろうか。

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 なお、EUにおけるテレビとオンデマンドの視聴時間のデータをみてみると、若者のテレビ離れはかなり顕著に進んでいる。下記のグラフ(2014)は、EU加盟国ごとの全世代と若者のテレビの1日当たりの平均視聴時間(録画等のタイムシフトを含めたもの)を比べたものだ。スウェーデンでは全世代含めて視聴時間が最も低いが、ルーマニアはその倍近くの視聴時間となっている。

 グラフ①:全世代と若者(10代後半〜20代前半)のテレビの平均視聴時間(加盟国別) 全世代と若者の平均視聴時間

 また、2011年と2014年のテレビの視聴時間の変化をみてみると、全世代の視聴時間はほとんど変わっていないが、若者の場合には4%減少している。ただし、加盟国別にみると、デンマーク(31%減)、スウェーデン(17%減)、英国(16%減)、ドイツ(13%減)となっており、西側諸国にテレビ離れが進んでいる印象を受ける。

 グラフ②:EUにおける全世代と若者のテレビ視聴時間の推移 世代別の視聴時間の推移

 一方で、オンデマンドの映像配信サービスの視聴時間(パソコン)をみてみると、2013年から2015年まででさほど増えておらず、全世代と若者層でも顕著な違いはみられなかったようだ。ただ、本報告書は、スマホやiPadなどの携帯デバイスでの視聴は含んでいないので、映像配信サービスをパソコンでみていないだけの可能性があると指摘している。

ぐし Gushi について

Currently working for a Japanese consulting firm providing professional business service. After finishing my graduate course at Uppsala University in Sweden (2013), I worked for the European Parliament in Brussels as a trainee and then continued working at a lobbying firm in Brussels(2015). After that I joined the Japan's Ministry of Foreign Affairs, working in a unit dedicating for the negotiations on EU-Japan's Economic Partnership Agreement (EPA/FTA) (-2018). 現在は民間コンサルティング会社で勤務。スウェーデンのウプサラ大学大学院政治行政学修士取得、欧州議会漁業委員会で研修生として勤務(-2013年3月)、ブリュッセルでEU政策や市場動向などを調査の仕事に従事した後(-2015年3月)、外務省で日EUのEPA交渉チームで勤務(-2018年3月)。連絡先:gushiken17@hotmail.com
カテゴリー: EU, EU TRADE タグ: パーマリンク

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