カナダの有権者は早期解散を決めた首相にバツを与えたか?

 首相は、議会任期が2年弱も残っているのに、突然、下院の解散を宣言しました。
 国会がねじれているわけでもないにも関わらず、首相が交代したわけでもないのに、なぜ今、下院の解散、総選挙なのでしょうか?
 怒った国民は、解散を決めた首相に対してお灸を据えたいと思いました。でも、野党はなんだか準備不足で頼りない。どこに投票しようか? 有権者はあれこれと考えた結果、結局、与党に投票しました。与党が圧勝し、再び政権党になりました。

 さて、これはどこの国の話だろう? 当然、日本?

 実はカナダで起きた話である。

 2000年10月、カナダではジャン•クレティエン率いる自由党(中道左派)が政権を担っていた。カナダの下院議会の任期は5年だったが(現在は4年)、クレティエン首相は、3年4ヶ月という異例の短さで解散総選挙を宣言した。世論調査で自党の支持が高かったのと、野党第一党のカナダ同盟(保守連合)は新しいリーダーのデイを選出したばかりで選挙準備が出来ていなかったという理由からだ。また、クレティエン首相には党内ライバルから引退せよとの声が出ていたため、党内基盤強化の意図があったともいわれる。

 メディアや野党はこれを痛烈に批判した。カナダの大手紙National Postは「なぜこんなに早く総選挙なのか? クレティエン首相は、優れた生存本能の持ち主で、早期解散によって準備不足の野党を出し抜き、党内のライバルを蹴落とそうとしている」と社説でこきおろし、その他のメディアも同様に早期解散について批判を展開した。

 しかし、フタを開けてみれば、対抗馬の保守陣営がまとまらない中、与党自由党は前回選挙を上回る議席(57%)を獲得し、圧勝という結果に終わった。

 この話のネタは「カナダの有権者は早期解散を決めた首相にバツを与えたか?」という論文[1]のケーススタディを要約したものだが、同論文の結論は「早期解散への怒りによって(本来は与党に投票するはずだが)与党に反対を投じた人はたったの1%に過ぎず、ほとんどの人は怒りを覚えつつも他党の比較によって与党を選んだ」「お灸を据えるという効果は限定的だった」というものだった。

恣意的な早期解散をしても咎められい不思議な日本

 今回(2014年11月21日)の安倍首相による早期総選挙は、野党の準備不足のうちに政権を4年間延長させるための解散であり、民主主義の安定性の観点からは批判されるべき行為である。ただ、カナダの事例でも見たように、野党側に選択肢がなければ、与党にお灸を据えることは現実的には難しい。だからこそ、こんな国民を無視した早期選挙は二度と起こさせてはいけない、という点は心に明記しておくべきだし、それだけに留まらず、こうした無秩序な解散が許されている現行の法体系の変更、そのための具体的な提案を行うべきだろう。

 世界的に見ても、首相が自由に早期解散できる先進国はそれほど多くない。カナダ、ニュージーランド、オーストラリア、デンマーク、日本くらいでむしろ少数派である。下記の表は、議会の任期の固定度を表したものである(セミ固定に分類された国では、不信任決議等が出されるなど一定の条件を満たした上で早期選挙が可能となる)。

 表:議会任期の固定度(主に議員内閣制の国)

議会任期の固定化度

    ※出典:英国憲法委員会の報告書[2] 、Henri Milnerの報告書[3]を中心に改変

 また、任期固定のない国でも、ニュージーランド、オーストラリアでは固定化に向けた審議が進められており、カナダでも州では固定化を採用するところが増えている[4]。また、英国も少し前までこのグループに属していたが、2011年に「議会任期固定法」[5]を制定することで、首相による「伝家の宝刀」を実質制限することとなった。

 カナダ人の政治学者で市民教育の専門家でもあるヘンリー•ミルナーは、議会任期を固定化することにより、首相の恣意性の制限、全体の選挙関連予算の削減だけでなく、準備期間の確保による政策議論、若者を含めた市民討議の充実による投票率向上に繋がると主張している。もちろん、解散権の制限によるマイナス点もあるが(ex ねじれ状態の宙づり化、選挙キャンペーンの長期化)、全体的には良い影響の方が大きいだろう。

 政治とは武器を使わない戦争であり、政治家は勝つためなら手段を選ばない生き物である。だからこそ今回の事例を教訓として、恣意的な早期解散を制限できるようなルールを作っていかなければならない、と思うのである。

[1] André Blais et al ,”Do (Some) Canadian Voters Punish a Prime Minister for Calling a Snap Election”, POLITICAL STUDIES: 2004 VOL 52, 307–323

[2] UK Parliament House of Lord Constitution Committee Report (2010):http://www.publications.parliament.uk/pa/ld201011/ldselect/ldconst/69/69.pdf

[3] Henry Milner, “Fixing Canada’s Unfixed Election Dates (2005):http://irpp.org/research-studies/policy-matters-vol6-no6/

[4] カナダ議会のホームページの資料(2014時点):http://www.parl.gc.ca/parlinfo/compilations/provinceterritory/ProvincialFixedElections.aspx

[5]国会図書館の報告書(2011):http://dl.ndl.go.jp/view/download/digidepo_4023707_po_025402.pdf?contentNo=1

ぐし について

スウェーデンのウプサラ大学大学院政治行政学修士取得、欧州議会漁業委員会で研修生として勤務後(-2013年3月)、ブリュッセルでEU政策や市場動向などを調査の仕事に従事。2014年11月から慶應大学のEUSI研究員。千葉市まちづくり未来研究員(自転車政策)。NPO Rights副代表理事として若者政策(主に若者参画)の提言や分析を行う。連絡先:gushiken17@hotmail.com
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