ベルギーに来てから、世界一美味しいという幻の修道院ビール(トラピストビール)があるという噂を何度か耳にした。ベルギーのある修道院で手に入るらしいが、その地域に行かないと手に入らない、スーパーやレストランへの卸売・小売はしていないとかそういう話だった。私はビールにはそんなに拘りはないし、そもそもベルギービールはどれも美味しいから、そんな幻のビールのことなどすっかり忘れていた。
そんなある日の夕方、友人らと、ブリュッセルの中心地からバスで15分くらいにあるピザ屋に行った。こじんまりとしたお店で、食べ物はピザとサラダしか置いていなかった。ビールブランドのメニューを上から下にズラッーと眺めると、一番下のほうに10ユーロ(1400円)〜15ユーロ(約2100円)のものがあった。
「15ユーロ?」
他のビールは3ユーロ〜6ユーロなのに、これだけ15ユーロだった。いくら何でも高いと思い、ビール名を詳しく見てみると、「ウエストフレデレン(Westvleteren)」と書いてある。友人に聞いてみると、なんと、あの幻のビールの名前だった。偽物? 闇マーケット? 何となく釈然としなかったが、この機会を逃せば、もう飲む機会はやってこないと思い、とにかく皆で注文することにした。
このビール瓶は普通の黒茶色のもので、瓶のさきっちょに文字が浮き上がっている以外は何の特徴もない。ザ•シンプル。中身はやや白みがかった黄金色のビールで、他のブロンドビールとあまり変わらない。肝心の味は、苦みよりも甘みが強くて、何となく固い感触だった。おそらくブランドイメージによる脳内作用のせいだろうが、ほんと美味かった。
幻のビールが幻ではなくなった瞬間!