トップ立候補者による選挙キャンペーンは欧州議会選挙の投票率を上げたのか?

 欧州議会選挙から6日が経過し、ほぼすべての選挙結果が出揃ってきた。選挙結果の主な見どころ(投票率、欧州委員長の人選、議会運営への影響)についてはほとんど前回記事でまとめたとおりだが、今回の記事では投票率の結果について分析してみたい。

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 欧州議会選挙は、国政選挙に比べて投票率が低く、加盟国の数が増えるにつれてその傾向は加速している。1979年に61.99%だった投票率は、2009年には過去最低の43%に低下した。今回の2014年の選挙では、43.9%となり、過去最低記録の更新にはストップがかかった。しかし、あくまで前回選挙の43%から43.09%と0.09%(!)上がっただけで、微妙な結果だった。

表:欧州議会選挙の投票率の変化(1979年―2014年)

欧州議会選挙の投票率(経年)

2014年の欧州議会選挙のポイントは、歴史上初めて、主要欧州政党のトップ立候補者(5人)同士が欧州委員会委員長(いわば総理大臣)の座を巡ってTV討論会を行い、議会で多数を確保するべく選挙キャンペーンを展開したことである(いわゆるSpitskandidatenシステム)。これにより、自分の一票がどう結果に反映されるか、EUの政策方針に影響を与えるかが見えやすくなり、投票率も上がるはずだった。でも、全体の投票率の向上にはつながらなかった。

では欧州政党のトップ候補者による選挙キャンペーンに意味はなかったのだろうか? 投票率が上がらなかったという結果から「欧州政党のトップ候補者による選挙キャンペーンに意味がなかった」と結論するのは早計である。なぜなら、欧州全体ではほとんど変わらなかったものの、加盟国別にみると、投票率の向上している国とそうでない国でかなり顕著な差がみられるからだ。

2009年―2014年の投票結果(投票率と増減)を加盟国別に見てみると、次の表のとおり。

表:欧州議会選挙の投票率の変化(2009年と2014年の増減)

欧州議会選挙の加盟国別の投票率(2009‐2014)

出典: 欧州議会のホームページ 

ここから読み取れることは下記の通り。

  • 欧州議会選挙の投票率がEU平均(43%)を下回る国は、主に東欧の国々+アルファ(スロバキア、チェコ、スロベニア、ポーランド、クロアチア、ハンガリー、ラトビア、ルーマニア、ポルトガル、ブルガリア、英国、エストニア、オランダ、フィンランド)
  • ベルギーとルクセンブルグは投票義務が課せられているため例外的に投票率は高い(90%)
  • リトアニアの投票率は大統領選挙と重なったため例外的に高くなっている(44.9%)
  • 投票率の上昇がみられたのは11カ国:リトアニア(+23)、ギリシャ(+5.6)、ドイツ(+4.6)、ルーマニア(+4.5)、クロアチア(+4.2)、スウェーデン(+3.3)、フランス(+2.9)、フィンランド(+2.3)、英国(+1.3)、スペイン(+1.o)、オランダ(+0.3)である。
  • 投票率の下落がみられたのは17ヵ国:オーストリア(-0.3)、ベルギー(-0.4)、ルクセンブルグ(-0.8)、ポーランド(-1.8)、ポルトガル(-2.3)、デンマーク(-3.1)、ブルガリア(-3.5)、マルタ(-4.0)、イタリア(-5.1)、スロバキア(-6.6)、アイルランド(-7.5)、ハンガリー(-7.4)、スロベニア(-7.4)、エストニア(-7.5)、チェコ(-8.7)、キプロス(-15.4)、ラトビア(-23.7)

ここから大きな傾向として見えるのは、主にEUの西側諸国、特にトップ候補者による公開討論会を多く実施した加盟国(ドイツ、フランス)では投票率の上昇がみられ、逆にもともと低かった東欧諸国ではさらに顕著に低下した、ということである。こうなった要因には、おそらく欧州議会の欧州政党のトップ立候補者が西側諸国出身者が独占してしまったことがある。ドイツでは、マーティン・シュルツ(社民党)やスカ・ケラー(緑の党)がTV討論会を実施し、全国で選挙キャンペーンを積極的に展開した。また、フランスでもクロード・ユンケル(人民党)、マーティン・シュルツがフランス語で同様のキャンペーンをした。ギリシャで、アレクシス・シプラスが左党代表としてギリシャ語で訴えた。しかし、こうしたトップ立候補者によるキャンペーンは東欧諸国ではほぼ皆無であった。

つまり、トップ候補者による選挙キャンペーンは非常に意味のあるものだったが、その人選が西側諸国出身者に偏っていたため、東欧諸国には届かず、投票率の底上げには繋がらなかったといえる。次回(2019年)の欧州議会選挙で投票率を上げるためには、東欧諸国からの立候補者(カリスマ性があって何ヵ国語も話す人材)を選出することが求められるだろう。

(追記1:EU全体で民主主義を実現することの難しさは、トップ立候補者のTV討論会を見ていてよくわかった。立候補者は、英語、フランス語、ギリシャ語を使っていた。フランス語、ギリシャ語では通訳が入ったが、正直、通訳を介したディベートほど面白くないものはない。おそらくEU内の英語を母語としない視聴者の多く(つまり英国人とアイルランド人以外)は英語ではなく、自分の言語で視聴したことになる。そうすると、ディベートの面白さはさらに半減してしまうのである)

(追記2:西側諸国の投票率の向上の背景には新しい選挙キャンペーンの方法があると書いたが、これは一つの要因に過ぎない。投票率の向上がみられたほとんどの西側諸国で、極右政党及び急進右派政党が議席を獲得している。むしろ、こうした急進的政党の動員効果の方が大きかったという説明もできないことはない。ただ、それらを証明することは難しい)。

ぐし について

スウェーデンのウプサラ大学大学院政治行政学修士取得、欧州議会漁業委員会で研修生として勤務後(-2013年3月)、ブリュッセルでEU政策や市場動向などを調査の仕事に従事。2014年11月から慶應大学のEUSI研究員。千葉市まちづくり未来研究員(自転車政策)。NPO Rights副代表理事として若者政策(主に若者参画)の提言や分析を行う。連絡先:gushiken17@hotmail.com
カテゴリー: EU, 政治参加・投票率・若者政策 パーマリンク

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