EUにはVote Watchというウェブサイトがある。このサイトは欧州議会の総会における議員の投票行動のデータ(議会5年間で約6000の投票データ)を見やすいように公表している。このサイトにいけば、どういう法案にどの政党グループ、そしてどの欧州議員が賛成/反対したかがすぐに分かるようになっている。今ではEUの研究者やジャーナリスト、ロビーイストたちにとって欠かせない情報源となっている。
Vote Watch の欧州議員のページ
このページでは、個別の法案に対する賛否の投票行動だけでなく、議会総会の出席率、議会総会での質問や演説の数、法案修正数や決議作成数、欧州政党グループへの忠誠心(政党グループと同じ投票行動を取った割合)などもすべて可視化(+ランキング分け)されており、議員がきちんと仕事をしているかどうか一目瞭然だ(ここのページをウィジェットとして自分のホームページに貼付けることもできる)。
9月17日、来年の欧州議会議員選挙の投票率向上(欧州議会選挙の投票率は40%強)を目的として、このサイトに「Vote Match」という新機能が追加された。ここでは、過去に投票された法案の中から特に重要かつ分かりやすい11法案が選出•列挙されており、これに対して市民自身が賛否を示せるようになっている。すべての投票を行なうと、自分の投票行動に近い政党や議員が分かるという仕組みだ。
Vote Matchで扱われている11の投票事例
例えば、ここに記載されている法案は、「原子力発電から撤退するべきか」「ユーロ債を発行するべきか」「欧州統合版の防衛政策を作るべきか」「CO2排出に対する国際連帯税を導入するべきか」「遺伝子組み換え作物(GMO)の規制を厳しくするべきか」「企業の役員に40%の女性の割り当て(クオータ)制度を導入するべきか」「育児休暇でのフル給与支給の期間を14週から20週に延長するべきか」など。
自分の投票行動に近い政党グループ
自分の投票行動に近い欧州議員
例えば、私の場合、11の法案採決のうち、社会民主党グループと緑の党グループと9つで同じ投票行動をとっている。最も相性が悪かったのは、保守改革党グループ(英保守党の所属しているグループ)だった。また、個別議員ごとに見ると、私と全く同じ投票行動をとった議員は、Idrek TARANDOという議員(エストニア•緑の党)だけだったことが分かる(750人中1人だけ)。
こうしたVote Matchは、従来の欧州議会選挙のあり方を変えうる画期的な試みである。政治家の過去の膨大な投票行動を分析すれば(政治家が思想転向しない限りは)、その政治家が将来にどういう法案に対してどういった投票行動をするのかがより正確に予測できる。思想•信条がより正確に丸裸にされるというわけだ。
これまで有権者が投票するときは、マニフェスト(選挙公約)に基づいて政党や議員を選ぶのが一般的だった。日本でも欧州でもマニフェストは往々にして誇大広告となり、信頼性に欠ける。Vote WatchやVote Matchにを活用すれば、より突っ込んだ政党や議員の研究が可能になる。また、欧州議会選挙前に高校や大学での授業で活用すれば、若者の投票率の向上(欧州議会選挙での若者の投票率は約29%で低迷)も期待できるだろう。
もちろん、こうしたVote Watchのデータでは、欧州議員経験のある人しか参照できないが、それでも全体の候補者の半数以上はカバーできるし、政党とのマッチングからある程度の自分に近い政治家を選ぶことは可能だろう。また、今のVote Matchで列挙されている11の投票事例以外にも、他にも経済や環境、貿易、若者政策などの分野ごとのデータを取り出せば、さらに正確な判断材料が得られるだろう。
来年の欧州議会議員の選挙のあり方を変えるのか?変えないか?若者の投票率の向上に寄与するのか?そもそもきちんと参照されるのか?きちんと判断材料になるのか? 疑問は尽きない。