先週の欧州議会の漁業委員会で、EU-モーリタニアの漁業協定の再更新 についての検討が行なわれた(漁業協定とは、EUが補助金を与える代わりにEUの漁船にモーリタニアの海で漁業を認める取り決め)。近年、モーリタニアの漁民から、EU(や他国)の漁船が乱獲を行なっているとして不満の声が上がっていた。モーリタニアは好漁場で知られ、特に日本人が教えたタコ漁によってモーリタニアは大きな利益を上げている(国家収入のほぼ3割が漁業によるもの)。
ちなみに日本で消費されるタコの25%はモーリタニア産(2009)
欧州委員会が提出したEU漁船の入漁条件を厳格化する草案に対して、欧州議会の漁業委員会では賛否が分かれている。新しい漁業協定は、これまでEUの漁船の入漁エリアが沿岸13マイルまでだったものを20マイルに制限する、船上スタッフの地元民の雇用割合を37%から60%に増やす、漁獲量の2%を無償で提供する、また漁獲や漁船を監視する仕組みの強化などが盛り込まれている。これまでEUの漁船による浮魚の漁獲量の56%が13~20マイルだったことから、新しい漁業協定はEUの漁業国にとって大きな痛手となる。
この日、資源専門家、EUの漁業組合の関係者、モーリタニアの漁業者を招いての公聴会が行なわれた。EUの漁業者の代表者は今回の協定内容では漁業者の利益が出ないとして反対したが、もう一人は「協定は業界にとって良くない内容だが、議会が承認しなければ協定自体がなくなるので悪化する」として賛成を表明した。
モーリタニアの漁業者は「モーリタニアのタコは総漁獲量の60%、漁獲価値の70%をもたらし、加工工場を含めて漁業セクターの90%の雇用を生み出している」「モーリタニアの漁業者は、外国船がタコを取らないことを求めている。また外国船が漁法を改めて浮魚の混獲の量を減らし、モーリタニアの漁民が取れきれずに余ったものを取るようにするべきだ」といい、EUによる規制強化を含んだ協定案に好意的な意見を示した。
なお、すべての公述人のコメントに「中国への批判」が盛り込まれていた点が注目される。中国は、外国船 の漁獲が禁止されているタコを含めてあらゆる魚を漁獲している。モーリタニア政府は現在、中国のPOLY HONDONEという水産企業と漁業協定を締結しているが、中国がルールを守らないとして批判が高まっており、地元の小さな漁業組合からも見直すように迫られている。
欧州議会の漁業委員会では、同漁業協定に、保守党の一部の漁業国の議員を除き、賛成派が多数の模様。欧州緑の党は当初、「途上国−EU」の漁業協定の締結自体に反対だった。EUが漁業協定を結ぶことで、 途上国の水産資源を枯渇させ、地元民の社会経済的な基盤を奪うと考えていたからだ。しかし、「EUがモーリタニアの海から撤退すれば、中国や韓国、ロシアなどの漁船が入ってくることで状況が悪化する。むしろ、EUが見本となる漁業協定を示すことで、他国にも厳しいスタンダードをかけることができる」として、EUの漁業協定をより良い内容にしようと方針を変えるようになった。
EU−モーリタニアの漁業協定は2月18日か19日に漁業委員会で投票に掛けられ、その後3月に議会総会での投票となる。スペインなどの漁業国は草案の中容に不満があるだろうが、もし承認しなければ漁業協定自体がなくなってしまうから、このまま可決へと動く可能性が高い。EUの(対外的な)漁業政策も少しずつ良い方向に変わりつつあるといえるだろう。