EUの共通漁業政策の改革案が漁業委員会を通過!

 日、魚が枯渇し、衰退の一途を辿るEUの漁業政策に大きなメスが入った。共通漁業政策の改革案がEU議会の漁業委員会を通過したのだ。10対13で改革案が可決したとき、会場に詰め寄せていた来場者からは惜しみない拍手がわき起こった。反対議員の一部は悔しそうな顔をしていたが、他の議員や市民は抱き合い喜びをわかちあった。喜びというよりは安堵の表情といった方がいいかもしれない。

 EUの共通漁業政策は10年に一度しか変えられない。これを逃したらもうEUの魚は完全に蘇らないかもしれない。そんな危機感が環境団体を動員し、世論を後押しし、議員を動かし、漁業委員会での劣勢だった状況をひっくり返したのだ。EUやったぞ。よくやった。政治は自分たちで変えられるという、希望を与えてくれた。本当に関係者にはおめでとうと伝えたい(また、特に改革の原動力になっているスウェーデン環境党のイサベラ議員にはお疲れさまといいたい。彼女がいなければここまで来れなかっただろう)。

 さて、今回の共通漁業政策案では、主に二つの重要な提案が盛り込まれた(本当は資源回復区域/海洋保護区の設定やIQやITQの推進などたくさん提案があったのだが、妥協を重ねるうちに萎んでいった)。

 一つは「漁獲枠をMSY(最大持続生産量)を超えて設定してはならないということ。MSYとは魚が乱獲にならないで持続的に再生産できる資源量のことで、逆からいえば、これを超えると資源量が下がって乱獲になる。これまで科学者が薦める漁獲可能量に対して「政治が介入する」ことで漁獲枠が過大に与えられてきた。たしかに漁業者の生活のことを考えれば漁獲量は下げたくない。でも漁業者のことを考えてMSY以上に漁獲枠を設定すれば、最終的には魚の資源量が減ることになるので、結局のところ、漁業者の首を締めることになる。MSYに基づいた漁獲枠設定を法律として明文化することは資源管理を行なう上での最低限の、でも重要な第一歩であろう。

 もう一つの重要な提案は、「船外投機の禁止(と漁獲量の把握)」をセットで盛り込んだことである。いくら漁獲枠が最新の科学的知見に基づいて決められたとしても、それが守られなければ何の意味もない。船上で釣った魚を、漁獲枠を超えてしまうからと海に捨ててしまえば、実際の漁獲量は大きくなる。今回の案では、ある一定の条件を満たす船に対して漁獲したすべての魚を持ち帰ることを義務付けている。また、いくつかの魚種に関しては海に戻してもよいこと、全体の漁獲枠の5%以内であれば許容値として認めることも記されている(委員会の修正案ではこの許容値を10%に引き上げる提案がされたが投票の結果5%になった)。

 これらのルールを徹底させるために提案では、CCTV(監視カメラ)を設置することを促進することが盛り込まれている。激しい議論の結果、CCTVの設置の義務化は取り消されたが、CCTVを設置した船に対しては漁獲枠や漁場へのアクセスを優先的に認めることで自発的な設置の促進を目指している。また、モニタリングの強化も盛り込まれている。

 また、今回はもう一つ重要な提案を盛り込んでいる。それは、多年度の漁獲枠の設定過程に欧州議会の関与を認めることである(Multi-Annual Quota)。2009年のリスボン条約以後、欧州議会(下院)は閣僚理事会(上院)とともに漁業政策の意思決定に参加できるようになった。ただ、漁獲枠の設定に関してはいまだに閣僚理事会が決定権を独占している。毎年12月(ちょうど今の時期)に各国の農林水産大臣が集まって丸々二日間寝る間を惜しんで自国の漁獲枠を増やすためにバトルを繰り広げている。もちろん、政治が全面に出てくるため、持続的な水準を超えて漁獲枠が設定されやすい。欧州議会は、こうした不毛な戦いをやめるために、水産審議会を作り、中長期に渡る漁獲枠を科学的に設定するように働きかけている。「政治」ではなく「科学的な知見」によって漁獲枠を決めることを求めており、今回の共通漁業政策の改革案ではそのことがきちんと明記されている。

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 もちろん、今回、改革案が漁業委員会を通過したからといってEUの漁業の状況がいきなり良くなるわけがない。そもそも草案はこれから他の委員会の意見を集めたのちに本会議での採決に掛けられる。ただ、私が見るところ、本会議では問題なく通過できる。漁業委員会では「漁業者の利益を代弁する議員の割合が多いため、漁業者に痛みの伴う改革案が通りにくい。逆に、全体として欧州議員は環境志向の人が多いため(また党議拘束もないため)、本会議では漁業委員会よりも強い規制の支持が得やすくなっているのだ。

 本当のヤマ場は、閣僚理事会だろう。加盟国も国益(という名の部分利益)を守るために必死だ。農業や漁業はお金が再分配され、勝者と敗者が見えやすい分野だけに国民の目も集まりやすく政治家も身動きが取りにくい。ここで規制の抜け道を増やす例外条項や文言の入れ替え(shall → aimとかabove→aroundなど)が行なわれる可能性は多々ある。ただ、欧州の世論は、現行の漁業のあり方に不満を持っており、資源管理を強化する改革案を待ち望んでいる。むしろ、10年に一度の漁業改革をブロックしようとすれば、政権に対する批判も出てくるだろう。

 EUの漁業の復活を祈りつつ、今後の推移を見守りたい。ガンバレ欧州議会!

 (参考:共通業業政策の修正案(209ページ

ぐし について

スウェーデンのウプサラ大学大学院政治行政学修士取得、欧州議会漁業委員会で研修生として勤務後(-2013年3月)、ブリュッセルでEU政策や市場動向などを調査の仕事に従事。2014年11月から慶應大学のEUSI研究員。千葉市まちづくり未来研究員(自転車政策)。NPO Rights副代表理事として若者政策(主に若者参画)の提言や分析を行う。連絡先:gushiken17@hotmail.com
カテゴリー: EU, EU Environment タグ: パーマリンク

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