これまで地方分権化と民営化が教育に与える弊害について書いてきた。主に教育の民営化が引き起こしつつある具体的な事例として「こんなに高校が多くていいの?」という新聞記事(SvD 8月21日)を紹介しよう。(これは日本の増え過ぎた大学にも当てはまる話だ)。
スウェーデンの子供の数は1992年を境に2000年まで減り続けた。その結果、今の中学生〜高校生の人口が極端に少なくなり、今後、高校生の数は2017年までは増える見込みはない。しかしながら、高校生の数が減っているのに、高校の数は増え続けている。過去五年間で、新しい高校は200以上生まれており、そのほとんどが企業(外資や投資会社)によって運営されているフリースクールである(全体のフリースクールの25%が6つの企業によって運営されている)。
※ 緑の棒グラフが中三の子供の数/赤い丸が高校の数
当たり前だが、子供が減っているのに、高校が増え続ければ、学校間の競争が激化する。高校は生き残るために、あの手この手を使って生徒を確保しようと努力する。本来は、各学校が教育の質の向上に努めることで競争するべきだが、現実はそうではない。教育の質の向上という意味での競争原理は働いていないのだ。
今、スウェーデンで起こっているのは、パソコンの無料支給、海外旅行のアレンジ、おこづかいの支給(←極端な例)などの「アメのばらまき」である。学校は、生徒を「お客様」(あるいは「金づる」)として見るようになり、生徒に必要なものではなく、生徒が欲しいものを与えるようになる。消費文化が教育文化を壊すという典型例である。
また、競争激化のせいで、学校は、PRやマーケティングの予算を増やしている。2011年には、42 million SEK が広告宣伝費に使われた(※インターネットでの広告費、PR会社へのコンサルタント料などは含まれない)。2009年の時点では、広告宣伝費は20 million SEK だったので、2年間で倍増している。実際、90%以上の高校の校長先生は、マーケティングに労力とお金を費やしていると回答、35%の高校は民間企業にマーケティングやコンサルティングの調査のを依頼しているという。ちなみに、2011年にPRに費やした予算で、新しく83人の先生を雇用できたという試算が出ている。