スウェーデンの教育問題の原因③

 の投稿で、移民の増加で教育が悪化しているという意見は言い過ぎだと書いた。むしろ私は、スウェーデンの教育の失敗の原因は、①地方分権化と②民営化を進め過ぎたことにある、と考えている。ここでは、教育の分権化と民営化の実態、それらが及ぼす影響をまとめてみる。

  ※教育制度の細かい変化については2009年の報告書(英語要約あり)を参照

 ①教育の地方分権化とは、教育の予算、カリキュラムの策定、教員人事の権限を、中央政府からより小さい単位の自治体に委譲する動きである。

 1989年、それまで国が担っていた教員の雇用に関わる権限が自治体に委譲された。また、各学校に専門性のある研究者(lektor)の雇用を義務づけていたが、これも自治体の裁量に委ねられた。1994年から具体的な教育カリキュラムも自治体ごと(学校ごと)に自由にアレンジできるようになった。加えて、1996年には、それまで差がついていなかった教員の給料を、学校責任者(huvudman)が個別に決められるようになった。

 ②1992年から他の先進国に先駆けて、フリースクール(民間/組合学校)と学校選択制を導入。フリースクールは、公的な負担の下、民間によって運営される学校のこと。フリースクールの導入の目的は、生徒や親が学校(市立/私立)を自由に平等に選べるようにすることで、学校ごとに特色を出して競争させ、教育の質を向上させることだった。

 フリースクールの運営主体は、他の福祉分野の運営主体と同様に、利益を上げることが許されている。もしお金儲けができなければ、民間の新規参入が妨げられると考えられたからだ(イギリスではスウェーデンを真似してフリースクールを導入しているが、利益追求に関しては厳しい規制が課されている)。その結果、スウェーデンでは民間企業(企業、外資企業、組合)が学校経営に参入してきた。この20年間で、フリースクールの割合は義務教育で18%、高等教育で50%まで増加。フリースクールに通う生徒の割合もそれぞれ12%、25%に増えている。

            Percentage of independent school

                 ※自治体とフリースクールに通う生徒の割合

 これらの教育制度改革の及ぼしている影響は主に次のとおり。

 (1) 学校間や自治体間での差の拡大

 義務教育では、どの学校でも最低限の質を保証する必要がある。だが、学校間での学力/教育の質の格差が広がり、どの学校に通うかによって生徒の未来が決まってしまう。スウェーデンでは、学校間の平均的な成績の差異(分散値)が2倍に拡大、1998年に9%だったのが、2011年には18%まで増加している。(スウェ語の記事)。

 フリースクールの制度は「移動の自由」「情報公開(情報の対称性)」などの条件を前提にしているが、すべての人が好きなところに引っ越せるわけではないし、すべての学校の情報を手に入れられるわけではない。教育水準が高くて裕福なスウェーデン人は、スウェーデン人ばかりのいる学校に移動をする。その結果、移民とスウェーデン人の分離化が進んでしまう。

 (2) 資格を持たない先生の増大(特にフリースクール)

 2007年〜2008年の間、自治体の学校における教員資格のない先生の割合は、義務教育の中学校で18%、高校で28%となっている。フリースクールでは、それぞれ36%と49%となっている。フリースクールで教員資格を持たない先生の数が多い背景には様々な制度的な違いがあるが、一番の理由はそっちの方が単にコストが安くなるという事情がある。

 教員資格を持たない先生を増やしたことは、教員資格の持つ「重み」を引き下げ、先生という職業自体の「専門性(プロフェッショナリズム)」や社会的な地位を傷つけることとなった。もちろん、多様な人材を学校に引き入れるという点では良い面もあるが、それを進めすぎると、教員免許の意味がなくなる。スウェーデンでは、昨年から教員免許の取得が義務化されたが、教員の社会的な地位や職業性を回復するためには相当な時間が掛かるだろう。

 (3) 成績のインフレ−ション

 1997年から2007年の間、MVGという最も高い成績を得ている中学三年生の数が28倍に増大(しかも、フリースクールの方がより多くのMVGを与えている)。このように成績がインフレする背景には、自分の生徒に良い成績を与えることで、教員自身や学校の評価を良くしたいという歪んだ動機がある。実際、2011年の数学の全国共通テストの結果と内申点を比較すると、自治体(市立)の学校の高校生の18.5%がより高いスコアを取っているが、フリースクールに通う生徒では22%がより高いスコアとなっている。つまり、フリースクールの方が生徒の成績審査を「大目に見る」という傾向が見られる。

 このまま成績のインフレが進むと、スウェーデンの教育制度を根本から変える可能性がある。スウェーデンでは進学するとき、中学と高校の内申点をベースに選考が行なわれているが、この内申点が生徒の学力を計る指標として信頼性を失うおそれがあるのだ。例えば、一定の内申点を基準に大学(高校)の入学者を選んだはずなのに、入学者の基礎的な学力にバラツキがあれば、大学(高校)は内申点を信頼しなくなるだろう。そういう状況が続くようであれば、各大学(高校)で、独自の入学試験を課すところも増えるかもしれない。もしも入学試験に独自のペーパーテストが導入されれば、若者の浪人生も増えるし、社会人経験者が大学に入学するというルートが狭まり、大学や学部ごとの序列化が進む可能性がある。

 ただし、スウェーデンの人口は比較的に少ないため、必ずしもペーパーテストで学生の実力を計る必要はない。日本の大学受験のようになるわけではないし、学歴社会になるという恐れは少ないだろう。

ぐし について

スウェーデンのウプサラ大学大学院政治行政学修士取得、欧州議会漁業委員会で研修生として勤務後(-2013年3月)、ブリュッセルでEU政策や市場動向などを調査の仕事に従事。2014年11月から慶應大学のEUSI研究員。千葉市まちづくり未来研究員(自転車政策)。NPO Rights副代表理事として若者政策(主に若者参画)の提言や分析を行う。連絡先:gushiken17@hotmail.com
カテゴリー: スウェーデン, スウェーデン(政治・社会) タグ: パーマリンク

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