日本のジャーナリズムは欧米を見習えという人がいるが、欧米のメディアの衰退は日本よりも急速に進みつつある。ガーディアンの名物記者であるニック•デイビスは「Flat Earth News」(2008)という本のなかで、ジャーナリズムは「真実」を伝えず、誤報を垂れ流す、腐敗した(corrupt)産業になりつつあると言い放っている。
ニックは、英新聞のニュース•オブ•ザ•ワールドが私立探偵を雇い、日常的に電話盗聴を行なっていたことを暴き、難攻不落のルパード•マードックの「メディア帝国」にメスを入れた。だが、マードックのようなオーナーの影響力(プロパガンダ)にばかり注目すると、木を見て森が見えなくなるともいう。ジャーナリズムが真実を伝えられなくなっている背景には、利益主義が横たわっている。ジャーナリズムの直面している最も大きな敵は、「国家」でも「広告主」でも「社主」でもなくて、「商業主義の圧力(Commercialization)」である。
彼はカーディフ大学のメディア研究者とともに、英高級紙に対象を絞って調査を行なった。ランダムに週を選び、新聞の「すべて」の国内向けニュース記事を分析した。その結果、こうした記事も主な情報源は、APやロイターなどの通信社、そしてPR会社だと判明した。
ー全体の60%は、情報源が明確に通信社やPR会社のもの。
ー全体の20%は、通信社やPR会社の情報を元に、他のソースを加えているもの。
ー全体の8%は、情報源がどこから来ているのか判断がつかないもの。
ー全体の12%は、きちんと裏付けできていると確認できるもの。
つまり、全体の12%も記事しか記者自身での裏付けがなかった。研究者は次のようにまとめている。「これらの結果が示すことは、新聞社がニュースソースに関して裏付けや事実確認を行なうことは例外的といえる」
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商業主義的圧力の下、ジャーナリストの数は減少しているのに、やるべき仕事の量は増えている。新聞紙のための記事作成だけでなく、インターネットにも速報を出さないといけない。ツイッターやフェイスブックなどのソーシャルメディアにも記事を出していかないといけない。当然、多くのジャーナリストは情報の裏付けに割く時間はないし、現地に行く時間もない。
以下、大手メディアの衰退の歴史を本の中から抜き出す。
ー1992年の時点では、200社以上の企業が地方紙を抱えていたが、2005年までには、全体の地方紙の74%がたった10社だけで保有されるに至っている p65
ー1986年から10年間で、407の地方紙は姿を消した。これは全体の1687紙の24%に上る。また、1986年から2000年までに8000人いた記者の半数以上が仕事を失っている p65
ーBBCは、1994年の時点で、過去8年間で8000人以上の記者が解雇された。1997年から五年の間に25%の人員が減らされ、2005年3月にはニュース局の12%、ファクト&ラーニング局の21%の削減が進められている。2007年10月には、さらに500人をニュース局から、ファクト&ラーニング局から600人を解雇すると発表している p67
ー1980年代からジャーナリズム「産業」の衰退が始まると同時に、PR会社の隆盛が始まる。多くのジャーナリストは「報道機関」から「PR会社」へと橋を渡った。2005年の時点で、イギリスのジャーナリスト(45000人)よりもPRを生業とする人(47800人)の方が多くなった p85
ー英保守党が最初にPR会社を起用したのは1978年。1983年の総選挙では(英)二大政党はともに10,5 million(£)を使っているが、1997年には54.3 million(£)に増えている p85
ーまた、多くのメディアが情報源とする通信社も人員削減を進めている。2002年、ロイターは編集局の人員を3000人削減。2004年には「Fast Forward Plan」としてさらに2000人の削減を発表。ロイターの記者は一人で一日当たり5つの記事を書書かなければならない p102
ーロイターの編集者はこう説明している。「通信社の使命は、誰が何を言ったかについての正確な記述を提供すること(また、それに反対する人の記述を正確に提供すること)である。それらのうち、どちらが「真実」に近いかについて選ぶことは我々の仕事ではない p 102
ちなみに「Democracy Now」で「電話盗聴事件とマードック帝国の今後」について特集されており、Nick Daviesも出演。画面の下に行けば、英語スクリプトでも読めるようになっている。