ウプサラ大学の学生組合と政治

月、年に一度のウプサラ大学•学生組合(Student Union)の選挙が行なわれた。

学生組合は、ウプサラ大学の学生によって構成され、大学の教育環境や学生の福利厚生の向上に努めている。学生組合の選挙は、主に政党の学生部の立候補者によって争われ、各党の得票率によって議席が割り当てられる(比例代表制の仕組み)。

選挙の結果は下記のとおりである

 表:ウプサラ大学の学生組合の議席数

ウプサラ大学の学生組合

環境党は去年から2議席伸ばして7議席を獲得して、第二勢力となった。ひそかに環境党から立候補していた私は14票を獲得したが、あと2票足りず、補欠議員になった。その他の政党については、ウプサラ大学党(地域政党)が最多の11席、フェミニスト党が5議席、左党(共産党)が5議席、穏健党(保守党)は4議席、社会民主党は4議席、海賊党は3議席、中央党は2議席だった。

去年までは穏健党・ウプサラ大学党・中央党・海賊党が連立与党を組んでいたが、今年は環境党/社会民主党/海賊党/フェミニズム党が連立を組むこととなった。(ちなみに去年の学生組合の選挙では、海賊党は左派勢力と連立を組むと約束しておきながら、結局、右派に鞍替えした)。

学生組合の議会に参加したら、ちょうど組合の執行部のメンバーを決める所だった。

学生組合の代表には、海賊党の女性とウプサラ大学党の男性の二人が立候補をした。ウプサラ大学党に次ぐ最大勢力でありながら、環境党からは誰も立候補しなかった。海賊党を取り込むための妥協であるらしいが、環境党に適切な人材がいなかったというのが本当のところかもしれない。

その二人は、なぜ自分が代表にふさわしいかについて5分のスピーチをしたあと、会場からは30分に渡って様々な具体的な質問が浴びせられた。「組合代表として一番やりたいことは何か?」「組合員を増やすために何をするか?「政党中心の組織運営についてどう思うか?」「ウプサラの住宅不足にはどう対応するのか?」「薬学系の学生が議会には少ないが、どう思うか?」。

二人の立候補者は、答弁原稿を用意していたかのように、身振り手振りを交えて、流暢に回答する。二人ともまるで政治家のような振る舞い方であった。スウェーデンの大学組合が政治家養成の場として機能していたというが、それもうなづける。

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一方で、大学組合が果たしている役割に疑問の声が出てきている。

ウプサラ大学では学生組合への加入は義務とされていたが、2010年からは自由選択制となった。今年の学生組合の会員数は急激に減少し、全体の75%まで下がった。また、学生組合の選挙の投票率は10%に過ぎず去年は6%)、学生組合の代表者に正当性があるかといえば疑問符がつく。

なぜ学生組合への関心が低くなっているのか?

一つの理由は「学生組合に参加するメリットが見えないこと」。もう一つは「政党が自分たちの意見を上手く反映していないこと」がある。

今回の選挙では、右派の政党から「学生組合における政党政治の廃止」の提案が出された。現行の制度においては、政党ごとに選出された学生らが、それぞれの担当分野で細かい方針を作り、それを議会に諮る。だが、選ばれた学生の専攻科目が文系に隔たっており、理系の学生の中では自分達の利益になっていないという声が強い(実際、農学/生物学の学部は学生組合から脱退し、自分たちだけの組合を創設している)。

たしかに各専学科ごとに組合を作れば、メンバーの興味や関心に沿ったサービスが提供しやすくなる。同じ専攻を学んでいる学生ならば顔も見えやすいし、相談もしやすいだろう。その一方で、ウプサラ大学としての全体利益を見据えた運営が難しくなるという短所もある。ウプサラの学生組合は、学生の福利厚生に努めるだけでなく、ウプサラ大学の予算分配やスウェーデン全体の高等教育政策にも関わることができるため、全体的な観点から見ると、政党を中心とした組合運営が好ましい。

これまで政党はスウェーデンの社会で大きな役割を果たしてきた。市議会の政策委員会では選挙で選ばれていなくとも政党によって承認されれば委員会で活動することができる。日本の栽培員制度の下では「ランダムに選ばれた市民」が刑事裁判に参加するが、スウェーデンでは「政党によって選ばれたメンバー」が参加することになっている。ただ、政党に所属する会員数が減り続けており、政党の「正当性」も揺らいできている。ウプサラ大学の組合政治に対する不信の背景には、スウェーデン社会における政党政治の地盤沈下があると思われる。

今後、ウプサラの組合政治のあり方も変わらざるをえないだろう。

ぐし Gushi について

Currently working for a Japanese consulting firm providing professional business service. After finishing my graduate course at Uppsala University in Sweden (2013), I worked for the European Parliament in Brussels as a trainee and then continued working at a lobbying firm in Brussels(2015). After that I joined the Japan's Ministry of Foreign Affairs, working in a unit dedicating for the negotiations on EU-Japan's Economic Partnership Agreement (EPA/FTA) (-2018). 現在は民間コンサルティング会社で勤務。スウェーデンのウプサラ大学大学院政治行政学修士取得、欧州議会漁業委員会で研修生として勤務(-2013年3月)、ブリュッセルでEU政策や市場動向などを調査の仕事に従事した後(-2015年3月)、外務省で日EUのEPA交渉チームで勤務(-2018年3月)。連絡先:gushiken17@hotmail.com
カテゴリー: スウェーデン, スウェーデン(政治・社会), 政治参加・投票率・若者政策 タグ: パーマリンク

ウプサラ大学の学生組合と政治 への2件のフィードバック

  1. ya より:

    スウェーデンの学生組合の実態を記した貴重なドキュメントをありがとうございます。
    やはり学生生活の側面に置いても、スウェーデンでは民主主義の仕組みが生きているのですね。
    学生組合にも比例代表制が導入されているとは、驚きです。
    スウェーデン社会に政党政治・比例代表制が深く
    組み込まれていることを垣間見せる一面だと思いました。
    ただ、日本の学生自治会のように衰退傾向にあるのは(特に投票率)残念です。
    もし良かったら、普段の学生組合の様子や、
    あとNationなどもご紹介いただけると幸いです。

  2. おぐし より:

    yaさん
    コメントありがとうございます。政党政治が社会に根を持っているのはスウェーデンの大きな利点であり特徴でしょうね(ドイツなどは同じか、もっとそうかもしれませんが)。学生組合でどういうことができるのか、どこまで大学運営に関与できるのかはこれからぜひウォッチしたいところです。やはり大学の意思決定に影響を与えられるという前提があってこそ優秀な若者たちが集まってくるはずで、それがなければ関心がなくなるのは当たり前で、スウェーデンの学生組合も形骸化してくるでしょう。日本の学生自治も同じで、「無関心だから参加しない」のではなくて「力を行使する機会がないから参加しない」のだと私は思います。
    Nationについて書くとなると、パーティーのことばかりになりそうですねw 機会あれば書きますね!

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