スウェーデンのジャーナリストを対象に「どの政党が一番好きか」という政党支持の調査が行なわれた(約五年ごとに行なわれている)。その結果はというと、環境党が42%の支持を受けて断トツの一位、次に左党(15%)、社会民主党と穏健党(保守党)(14%)が続いた。環境党は、前回の調査(2005年)の23%から19%も支持を伸ばし、大躍進となった。
環境党が伸びた一番の理由として「社民党党首のスキャンダル」が上げられていた。この調査が行なわれたときは、ちょうど社民党の前党首であるホーカン=ユーホルト(Håkan Juholt)のスキャンダル(公費をアパート代に流用など)の真っ最中だった。このネガティブな出来事のせいで、いつもなら社民党に入る支持が、環境党へと流れたのだという。ただし、さすがにそれだけではないだろう。環境党の党首の魅力、党内民主主義の取り組み、取材のし易さ、政策の中道化(EU肯定、グリーンニューディール)なども背景にあると思われる。
(ちなみに調査の方法は、ジャーナリスト組合に所属する人(17,300人)のうち、ランダムに抽出された2500人が対象。こちらを参照のこと(スウェーデン語))
この調査から分かることは、1)ジャーナリスト(組合)は、一般世論を反映しておらず、2)ジャーナリストの性別や年齢によって、支持政党に差があり、3)ジャーナリストの所属先によって支持政党に差がある、ということ。
調査結果(%)
過去の調査結果との比較(%)
1)については、ジャーナリストは一般世論と比べて、左党と環境党への支持が高くなっている。特に環境党は、30%の乖離がある。また、穏健党は一般市民から34%の支持を受けているが、ジャーナリストからは14%に留まっており、その差は20%に上る。
2)男女差については、女性はみどりを支持し、男性は保守党を好む傾向にある。女性のジャーナリストの環境党の支持率は47%だが、穏健党は12%となっている。男性の環境党への支持は37%に留まり、穏健党への支持は17%となっている。逆に、年齢差を見てみると、30-49代では、環境党への支持が48%に上るのに対し、20代では37%に留まっている(ただ、後者の若い世代は左党を支持している(18%))。
また、3)公共放送や公共ラジオに所属するジャーナリストは、より環境党に対して好感を示しているが(約53%)、新聞メディアでは40%に留まっている。
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マスメディアは単に現実を映す「鏡」ではなく、現実を作り上げる装置でもある。
一般世論の動向を動かすだけでなく、社会規範を形成する上でも大きな役割を果たしている。もしもジャーナリストの支配的な思想が市民の思想形成に影響を持つのであれば、一般市民の環境党や左党に対する支持がもっと多いはずだが、実際はそうなっていない。このことは、メディアが影響力を持っていないことを示しているのか、それともジャーナリストが自分の「色」を出さずに中立的に報道していることを意味しているのだろうか? 興味深いテーマである。
ただ、スウェーデンのメディアに対する不満はあるようだ。私が友人に対して、この結果を見せたところ、「スウェーデンの大手メディアが進歩主義的な左翼勢力に牛耳られていることがはっきりした」と怒りをぶちまけ、「ジャーナリズムの役割は事実を中立的かつ多角的に報道することなのに、スウェーデンのジャーナリストは、自分の理想に向けて市民を啓蒙することが自分の仕事だと思っている」と痛烈に批判の声を上げた。