私の修士論文は、2009年のリスボン条約の発効により欧州議会の「共同手続き」の権限が「共通農業政策(CAP)」や「共通漁業政策(CFP)」にも拡大されたことを受け、欧州議会の政策決定に果たす役割に注目している。特に上記の二つの政策分野は、これまで閣僚理事会が政策決定の権限を独占し、主に加盟国の農業•漁業セクターのサイズや力関係によって政策が決められてきた。しかし、欧州議会が法案作成のプロセスに参加できるようになれば、従来の政策決定のプロセスに変化を及ぼす可能性がある。つまり、私が修士論文で書いているのは、リスボン条約によって与えられた欧州議会の新しい権限が、どのように議員の投票行動に影響を与えるのか、そして、実際にどのように政策を変えるのか、という点である。
一般的に欧州議会の議員は、各国の利益よりも欧州全体の利益を反映させるために行動し、特に環境保護の分野ではより強い規制を好むといわれる(これは欧州市民の選好を反映している)。実際、農業、漁業政策は産業的な側面だけでなく環境政策とも切っても切り離せないものになっていることを考えると、リスボン条約の発効により、これまで直接利害を持つ議員ばかりで構成されてきた農業/漁業委員会で、環境保護に重きを置く議員が増えることが予想される。特に漁業分野は、スペインやポルトガルなど国が大きな利権を有しているが、ドイツ、チェコ、ハンガリーにとってはそれほど重要なセクターではない。つまり、後者の加盟国の議員にとっては利権がそれほど大きくないだけに、欧州全体で魚資源の懸念が強くなれば、これまで「何となく」グループの方針に従ってきた議員が投票行動を変えるかもし
こうした変化を調べるにはどうすればいいのか? 欧州議員の投票行動を調べるにはロールコールを見れば良い。ロールコールは、電子記録された投票のこと。投票にはいくつか種類があり(手での投票)、すべての投票が記録されているわけではないが、ロールコールは全体の投票の30%ほどを占めている。ちなみに、リスボン条約の発効後は、すべての法案(ordinary legislative resolution)に対してロールコールが取られるようになった。
また、漁業委員会で環境志向の考え方が強くなったかどうかは、議員の投票記録だけでなく、委員会のメンバーを見ることでも調べられる(メンバーは2年半ごとに改変あり)。ただ、量的な分析だけでは十分な結果が出てこないので、インタビューなどの質的な分析をする必要がある。世論の変化や環境団体のロビーイングの戦略なども考慮することも必要だろう。