EU/欧州議会 ②

EUがどのような政策決定プロセスの下で機能しているのか? ここをきちんと理解している人は日本にはあまりいないだろうし、EU内に住んでいる人でもよくわからないだろう。私も法制度については細かいところまで分かっているわけではないが、ここでは出来る限り簡単に説明したい。

大雑把に言うと、EUには政策決定プロセスに欠かせない三つの機関がある。それは「欧州委員会(European Commission)」、「閣僚理事会(Council of Ministers)」、そして「欧州議会(European Parliament)」である。欧州委員会は、いわゆる「内閣や政府(cabinet or government)」に当たる機関である。すべての政策の立案•作成機能を独占的に有し、基本的には欧州委員会しか法律案を提出することができない。まさにEUの司令塔的な存在といえる。

欧州委員会のトップは欧州委員長と呼ばれ、各加盟国と欧州議会の承認を経て選出される(現在は、バロッソ委員長)。また、欧州委員会の閣僚(コミッショナー)は、各加盟国から一人ずつ推薦され、外交、経済、環境、産業などのそれぞれの専門分野ごとに割り当てられる。欧州委員会の閣僚と官僚は、各国の利益のために働いてならず、あくまでも「ヨーロッパ全体の利益」に奉仕することが義務づけられている(実際は必ずしもそうではないらしいが)。

欧州委員会が草案を提出した後、閣僚理事会と欧州議会が精査を行なう。閣僚理事会は、加盟国の大臣によって構成され、各国の大臣は「国益」を背負って交渉に臨む。特定多数決方式での賛成(あるいは全会一致)が得られなければ法案が通らないので、時々、審議が止まる。そうなった場合、27カ国の代表(首相や大統領)の集まる「欧州理事会(European Council)」に委ねられる。欧州理事会はサミットと呼ばれる、実質、閣僚理事会の上位組織である。欧州理事会を束ねるのはファンロンポイ大統領であるが、実質的な力は何もない。例えば、現在の欧州危機では、ドイツ(とフランス)主導によるサミット会談が頻発に開かれており、欧州委員会や欧州議会などの機関をバイパスするように経済財政政策が決められている。

歴史的にみれば、EUの政策決定は、欧州委員会と閣僚理事会(あるいは欧州理事会のサミット会談)によって支配されてきた。しかし、20年くらいで、欧州議会が影響力を持ち始めてきた。当初、欧州委員会(と閣僚理事会)のトップダウンでEUの政策が決められ、欧州全体の市民の声が反映されていないという批判が高まってきたからだ(「民主主義の負債」)。民主主義は「人民による人民のための統治」(Rule by the people for the people)」と定義されるが、EUの場合は「エリートによる人民のための統治(Rule by the elite for the people」とよく揶揄され、今では「エリートによるエリートのための統治(Rule by the elite for the elite)とまで言われるまでに市民のEUに対する信頼は低下している。

つまり、欧州議会の権限が増大してきたのは、EUの市民によって選ばれた欧州議員を、欧州委員会のトップの承認や法案の決定過程に参加させることで、民主的な正当性(democratic legitimacy)を高めようという狙いがあったのである。

当初は、法案作成のプロセスには「参考意見を述べる(Consultation)」というだけの役割しか与えられていなかった欧州議会であるが、現在では予算の決定、条約締結を担うようになっている。また、法案作成に参加できる分野(ex 環境政策)も増え、欧州議会が閣僚理事会とともに「共同手続き(co-decision procedure)」の権限を持つようになっている。つまり、共同手続きが適用される分野では、閣僚理事会で合意に至った決定についても、欧州議会の反対によって拒否することが出来るのだ。しかも、2009年のリスボン条約の発効により、欧州議会の「共同手続き」の適用範囲が「共通農業政策」や「共通漁業政策」にも広げられた。

現在のEUの法案成立の過程(Ordinary legislative procedure)を細かくまとめると、まず、欧州委員会が法案を提出した後、(加盟国の国会が補完性の原則(subsidiary principle)に則り、精査を行なった後)、閣僚理事会と欧州議会の各委員会がそれぞれ精査を行なう(第一次ステージ)。もし両院で修正がなく、多数の賛成が得られれば、そのまま法案は可決。もし閣僚理事会が欧州議会の修正点を受け入れない場合、あるいは閣僚理事会が欧州委員会の法案に修正点を入れた場合、次の審査に持ち越しとなる(第二次ステージ)。

ここで欧州議会が何もしなければ法案は可決となるが、もしさらに修正点を加えた上、過半数の賛成を得られれば、再度、閣僚理事会へと持ち込まれる。ここで欧州委員会の意見を参考にし、閣僚理事会で投票が行なわれる。もし欧州委員会の修正点が受け入れられなければ、調停委員会(Conciliation committee)が設けられる(第三ステージ)。調停委員会では、欧州議会と閣僚理事会のメンバーと、欧州委員会のスタッフで、妥協を探る。ここでも最後には閣僚理事会と欧州議会の承認が必要となる。もし妥協に失敗すれば、法案は廃案となる。

法案の細かい手続きはこちらを参照のこと。またこのチャートを見れば、EUの政策決定プロセスがいかに複雑かが分かるだろう。

ぐし Gushi について

Currently working for a Japanese consulting firm providing professional business service. After finishing my graduate course at Uppsala University in Sweden (2013), I worked for the European Parliament in Brussels as a trainee and then continued working at a lobbying firm in Brussels(2015). After that I joined the Japan's Ministry of Foreign Affairs, working in a unit dedicating for the negotiations on EU-Japan's Economic Partnership Agreement (EPA/FTA) (-2018). 現在は民間コンサルティング会社で勤務。スウェーデンのウプサラ大学大学院政治行政学修士取得、欧州議会漁業委員会で研修生として勤務(-2013年3月)、ブリュッセルでEU政策や市場動向などを調査の仕事に従事した後(-2015年3月)、外務省で日EUのEPA交渉チームで勤務(-2018年3月)。連絡先:gushiken17@hotmail.com
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