スウェーデンの王室廃止?

 月24日のニューヨークタイムズにスウェーデンの王室に関する記事が載っていた。記事のタイトルは「スウェーデン王室の存在は時代遅れ」。この記事の示唆するところによると、スウェーデンにおいて王室を廃止するべきという機運が高まっているらしい。「スウェーデン共和主義同盟(Swedish Republican Association)」という「王室廃止」を掲げる組織の本部(というかアパートの一室)がストックホルムの北部にあり、メンバーの数は昨年だけで2500人から7300人になったという。
 この組織の代表をつとめるモナさんは、「王室の存在は民主主義の社会にそぐわない」ということで、かなりご立腹のようである。彼女の友人の一人が熱烈な王室のファンであることについても、「彼女は感情的になっているだけ。ロジカルに考えれば、王室の存在がおかしいことについては賛成してくれるはず」とコメントをのせている。
 記事のなかでは賛成派の意見も紹介してはいるが、記者自身は、王室廃止の側に寄り添っている。私自身、スウェーデン人とよく王室や皇室の話をするが、実際に、スウェーデン人が王室に対する積極的な批判をするのをあまり見たことがない。スウェーデンでは、王室廃止を掲げる人たちは昔からいるし、特にこれといって目新しいわけでもない。この記者は、王室廃止の運動を記事にすることで、王室廃止の機運を高めたかったのではないか、とすら思う。
 なんてことを思っていたら、インターネット版に訂正の記事が出ていた。記事の中では、グスタフ国王の長男のカールフィリップが「遊び人」だと紹介されていたが、それは次女のマデレーンの元恋人(ヨナス)のことだったのだ。これはちょっとひどい間違いである。
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 なぜ私がこんなに記者に批判的なのかというと、何を隠そう、僕自身が「ロイヤルファミリー」の熱烈なファンだからである。スウェーデンから王室をなくしたら、他のヨーロッパの国々と区別のつかない、ありふれた「普通」の国になってしまう。王室の存在と国のアイデンティティーは密接につながっている。スウェーデンの王室がなくなったら、スウェーデンらしさなるものは薄まってしまう。そんなツマラナイの国にならないで欲しいと思っている。もし王室廃止の運動について記事にするならば、きちんと論拠と根拠を示してほしい。
 そもそも、現実主義あるいは功利主義の観点からいえば、王室が果たしているPRの役割は大きいはずだ。特に、ロイヤルファミリーを有している国同士であれば、なおさらのこと。たとえば、今年の6月に長女のヴィクトリアがダニエルと結婚したときは、日本の皇太子様もスウェーデンにいらっしゃっていたこともあり、日本の全国紙において。スウェーデンが割合に大きく報道されていた(たぶん、スウェーデンでも皇太子について報道されていたはず)。
     
 これがスウェーデンのロイヤルファミリー。ー左からマデレーン(次女)。グスタフ(王)。シルビア(王妃)。カールフィリップ(長男)。ヴィクトリア(王女)。
 ちなみに、記事によれば、スウェーデンの王室に対する支持率は春に56%だったが、現在は74%に上がっている。スウェーデンの王室が廃止されることはまずありえないだろう。

ぐし Gushi について

Currently working for a Japanese consulting firm providing professional business service. After finishing my graduate course at Uppsala University in Sweden (2013), I worked for the European Parliament in Brussels as a trainee and then continued working at a lobbying firm in Brussels(2015). After that I joined the Japan's Ministry of Foreign Affairs, working in a unit dedicating for the negotiations on EU-Japan's Economic Partnership Agreement (EPA/FTA) (-2018). 現在は民間コンサルティング会社で勤務。スウェーデンのウプサラ大学大学院政治行政学修士取得、欧州議会漁業委員会で研修生として勤務(-2013年3月)、ブリュッセルでEU政策や市場動向などを調査の仕事に従事した後(-2015年3月)、外務省で日EUのEPA交渉チームで勤務(-2018年3月)。連絡先:gushiken17@hotmail.com
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スウェーデンの王室廃止? への2件のフィードバック

  1. おーの より:

    「スウェーデンから王室をなくしたら、他のヨーロッパの国々と区別のつかない、ありふれた「普通」の国になってしまう。王室の存在と国のアイデンティティーは密接につながっている。スウェーデンの王室がなくなったら、スウェーデンらしさなるものは薄まってしまう」
    もう少し詳しくこの考えを説明いただけると、助かります。
    ヨーロッパの国際関係を歴史的に俯瞰するならば、王室外交や内政に対する国王の影響を鑑みる必要があると思うけど、「王室がないと普通の国となってしまう」という論理には弱冠の疑問符です。
    僕は王室があってもなくても「普通の国」になる国はそうなるし、ならない国はそうならないと思います。
    なお、「日本は天皇を中心とする神の国であることを、国民にしっかり承知いただく」という発言との対比からの冗談だとしたら、彼の地でユーモアセンスを磨いた君に敬礼です。
    頑張ってねー。

  2. おぐし より:

    おーのさん
    お久しぶりです。適切なご指摘ありがとうございます。まさにおっしゃる通り、「王室がないと普通の国になってしまう」というのは、半分冗談です。日本の皇室を意識して少し感情的に書いてしまいました。(現在のスウェーデンの王室は、19世紀前半にフランスのナポレオン軍の将軍ベルナドッテを迎え入れて誕生したので、歴史的にも血筋的にも「深い」とはいえません)。
    ただ、残りの半分の中には冗談だけではない面も含まれています。
    「普通の国」というのは、字義通り、他国とあまり変わらない、ありふれている国ということです。その意味では、おーのさんのいう通り、王室がなくても、他に特色があれば、普通の国にはならないと思います。スウェーデンは小国でありながら、ユニークなシステムを持っているので、王室が無くなったとしても、実際にはそれほど「国のかたち」は変わらないかもしれません(おそらくそれほど変わらないでしょう)。ただし、現在、先進国のなかで王室を維持している国が少数派であることを考えれば、王室を廃止するより維持した方が、他国と異なるという点で、その国のユニーク性はより高まるでしょう。
    さらにいえば、王室というのは、一度無くしてしまったら、逆革命が起こらない限り、復活させることは不可能です。これに対しては、心からもったいない!と思ってしまいます。僕にとっては、世界遺産が無くなってしまうようなものです(例えば、バーミヤンが壊されるようなものです)。
    ウェーバーもいうように、歴史は、「正統性」を構成する重要な要素です。歴史性を帯びているということは、それだけで人間を魅了するはずです。スウェーデンの国王は比較的に新しく輸入であるとしても、これは歴史的な財産でしょう。これを無くしたら、スウェーデンの「正当性」というか「らしさ」というか「色」のようなものが薄まるような気がするのであります。
    まあ、これは理性や論理だけでは考えらない(と私は考えている)ので、最後は感情の問題に行き着くのかもしれません。ただ、上で挙げられていた「神の国」の発言は、日本の政治家の質の程を感じさせる、一級のギャグですね。
    日本はどうなるんだろうと心配しつつも、それよりも、自分はどうなるんだろうと気がかりなこの頃です。笑。

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