古き良き教養文化の終わり

 ンガやアニメなどのポップカルチャーを知っておくべき「教養」と見るか見ないか、これは難しい問い掛けだと思う。私自身、これまで人並み以下しか関わって来なかった分野であり、正直にいえば、あまりよく知らない。ただ、海外でここまでマンガ・アニメが人気になってしまえば、日本人としてそれを知らないというのは恥ずかしくもあり、口惜しい。
 「普通」の若い世代の外国人たちは、日本人ならば知っているはずだという期待値をそれぞれ持っている。村上春樹や大江健三郎くらいは読んでいるはずというのと同様に、アニメやマンガについても期待値を持っている。これは、日本人がイギリス人ならば、シェイクスピアやディッケンズくらいは読んでいるはずだという期待を持っているのと似ている。
 そういう意味で、マンガやアニメはそれなりに消費されるべきである。世界中でこれほど読まれているのだから、好悪に関わらず、どんどん読んでいくべきだと思う。もちろん、消費されて消えていくだけのマンガやアニメを見ても悲しくなるだけだから、ある程度の知識と経験のある人間に聞いて、いわゆる「必読」「必見」といわれるものから当たっていけばよい(発掘の段階から手を入れていくと、それなりの時間を犠牲にしないといけなくなり、現実的ではない)。
 さて、最初の質問に戻ろう。なぜ「教養」が必要なのかといえば、大きく二つの理由がある。一つには、思考の枠組みを作り、視野を広げ、人生を豊かにしてくれるという側面。もう一つには、お互いの会話を円滑に進めてくれる、コミュニケーションのツールという側面。私が、日本のポップカルチャーを「教養」として見ていこうと主張するのは、特に後者の「コミュニケーションのツール」としての役割が、今後さらに重要になってくると見ているからだ。
 もともとコミュニケーション力があるという人は別だが、そうでない人は、海外に出てくると、まず友達を見つけるのに苦労する。アニメやマンガ、音楽などのポップカルチャーに馴染みがあれば、そこから関係を広げていくことができると思うが、どうだろう。
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 去年、スウェーデンにいるときに、マンガやアニメは「新しい教養」として登録するべきだと感じたのだけれど、これを勉強しようとすると、どうして困難にぶつかる。なんといっても、量があまりにも膨大だ。しかも、現在進行形に連載が進んでいるものが多いから、時間の風雪に耐えて残ったものがまだ少な過ぎる。古典的な「教養本」でいえば、ある程度の読まないといけない本のコンセンサスは出来ているから、それを読んでいけばいい。
 しかしながら、マンガやアニメの場合は、量が多すぎるわりに「素人」向けの情報が少ないから、そもそも選ぶに選べない。手当たり次第に当たって「発掘作業」を行ってもいいが、時間やお金など「犠牲」が伴いすぎるために、「普通」の人間には、こういう作業は出来ない。私は、もう少しマスメディアがこういうポップカルチャーの枠を増やしていくべきだと考えているが、まだまだ、扱いが小さい(最近は少しずつ増えてきたかもしれないが、その世界的な存在感の大きさを思えば、あまりにも扱いが小さいと思う)。
 最近で欠かさず見ているのは、NHKの「MAGNET」という番組だ。これは「普通」の人間にとっては日本の「サブカル」の動きを知る上では、これまでには無かった革命的な番組である。独自のアニメキャラクターたちが司会を務め、製作の現場、ファンの現場、アカデミックの現場などをそれぞれに焦点を当てている。何よりも調査が質が高く優れている。
 ただ、残念なことに、「MAGNET」の放映が、日曜日の0時からという最悪な時間で、BS1というマイナーなチャンネル。しかも、NHKオンラインでは配信していないのだ(スウェーデンに行ったら見れないじゃないか!)。こんな素晴らしい番組を、窓際に追いやって、しかも、インターネットで配信しないとは、なんという暴挙、なんという愚鈍さであろうか。この番組に英語の字幕を付ければ、海外のオタクたちから人気が出て、さらにサブカルのマーケットが広がるというのに、ああ、もったいない。

ぐし Gushi について

Currently working for a Japanese consulting firm providing professional business service. After finishing my graduate course at Uppsala University in Sweden (2013), I worked for the European Parliament in Brussels as a trainee and then continued working at a lobbying firm in Brussels(2015). After that I joined the Japan's Ministry of Foreign Affairs, working in a unit dedicating for the negotiations on EU-Japan's Economic Partnership Agreement (EPA/FTA) (-2018). 現在は民間コンサルティング会社で勤務。スウェーデンのウプサラ大学大学院政治行政学修士取得、欧州議会漁業委員会で研修生として勤務(-2013年3月)、ブリュッセルでEU政策や市場動向などを調査の仕事に従事した後(-2015年3月)、外務省で日EUのEPA交渉チームで勤務(-2018年3月)。連絡先:gushiken17@hotmail.com
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古き良き教養文化の終わり への2件のフィードバック

  1. ak より:

    確かに、アニメの「古典」を議論する雑誌やTV番組って少ないよなあ。BSアニメ夜話くらいか。
    見ておけば海外でも恥ずかしくないアニメ「古典」ってなんだろうね。例えば監督でいえば、ウォルト・ディズニー、手塚治虫、宮崎駿、庵野秀明、押井守、高橋良輔、富野由悠季、川尻善昭、大友克洋、今敏、このあたりおさえた上で東映アニメの名作を見ていけば基礎としては完璧では。

  2. おぐし より:

    AKさん
    コメント、ありがとうございます。アニメに関して、テレビで、きちんと系統立てて解説し議論している番組ってそんなに多くないですよね。BSアニメ夜話やマグネットくらいですよ。しかも、インターネットで配信していないので、スウェーデンに行くと、見れなくなれます。しゅん。
    あと二週間くらい上に挙げてもらった監督たちを軸に攻めていきたいと思います。ぜひまたスウェーデンに来てください笑!!

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