大西洋・地中海のクロマグロの国際取引を禁止する提案が否決された。今回ばかりは日本が追い詰められると予想していたが、途上国の賛成で否決してしまった。これには少し驚いた。
日本政府は「ワシントン締結国条約会議(CITES, Convention on International Trade in Endangered Species of Wild Fauna and Flora)」による「取引禁止」ではなく、マグロ国際保存国際委員会(ICCAT, International COnservation of Atlantic Tunas)による「漁獲量規制」で対処するべきだという態度を取っていた。ちなみに日本の新聞メディア(朝日、読売、毎日)も同様に、ワシントン条約は極端に過ぎる、「漁獲量規制」を強化するべきとの立場を取っていた。
一方、欧米の主要メディアの多くは「取引禁止」の論調であった(Finantial Times, NewYork Times, The Economist)。イギリスの週刊誌のエコノミストは18日の記事のなかでICCATによる規制はこれまで悉く失敗してきてきたと指摘。ICCATについて「すべてのマグロを取り尽くす国際的な陰謀(the International Conspiracy to Catch All Tunas)」だという皮肉まで紹介していた。
気になるのは、否決という結果に対する日本と海外の新聞の次のような論調の違いである。日本の新聞は「EUの誤算、途上国の反発」「先進国と途上国のパワーバランスの変化」(朝日)という見出しで、全面取引の禁止はEUに対して有利になり、途上国に対して不利になるとの否決の要因を詳しく伝えている。全体的には今回の否決を好意的に受け入れており、業管理による規制の強化で対応するべきだという論調である。漁業管理が失敗してきたことにはあまり触れられていない。
これに対してエコノミスト誌は、「日本人は明るく笑顔だが、マグロの将来は暗い」(Eaten Away, 18th)という結果を痛むような記事を載せている。ニューヨークタイムズも同様に落胆の記事を掲載している(UN.Rejects Export ban…18th)。ただし、日本の新聞のように「モナコやEUの禁輸案では自国消費分は対象外で、単一市場のEU内では取引できる。マグロ漁をやめてもEUの漁師は補償金がもらえる。一方、EU域外の漁業国にとって禁輸は死活問題になりかねない」(日経)という懸念を書いている新聞ははまるでなかった。途上国に対する視線の欠如と言ってよいだろう。
個人的には取引の禁止を支持するが、途上国のことを考えるとたしかに考慮しないといけないと思う。特にアフリカの国にはEUの船が多く入り込んで乱獲をしてきた経緯もある。「沈黙の海」(新評論)によれば、EUはアフリカ諸国と漁業協定を結んできた。これまで25の国々と漁業協定があり、そのうちの16が途上国だった。そしてその協定の内容があまりにもEUに有利であった。たとえば、「2006年、アフリカのカーヴォルデという国と4600万円を支払うことで、5000トンのマグロを獲ることを決めた。しかしながら、マグロの商業的な価値は平均14万円、あまりにもEUに有利な取引であった」。
EUの国々は、自分たちの漁業管理がザラ過ぎたために漁業管理の強化に訴えてもまた同じように失敗すると思っているのかもしれない。たぶんそれは正しい認識だろう。ただそうやって乱獲をしてマグロを減らしてきたのが先進国であり、その先進国がこのように取引禁止を途上国に押し付けるのだから、彼らが怒るのも理解できる。これからは途上国が採決の場で強い発言力を持つようになり、温暖化同様に規制をするのはさらに困難になるかもしれない。
ただクロマグロに関していえば、日本が全体の消費量の80%を占めているのだから、日本が取引きをやめれば、それだけで供給量も減ることになる。つまり、日本が需要を減らせば意外と単純に解決してしまう問題なのである。もし日本人が魚を食べ続けたければ自粛をするべきだ。
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