孤立する日本

 日、久々に大学の学食に行った。メニューを見ていたら、びっくりした。「クジラカツ」というメニューがあったのだ。「たんぱく質が豊富、低カロリーでヘルシー、健康食材と食文化にこだわった鯨肉を召し上がれ」とのおススメまで…。聞いたところによると、3月から新しく始まったという。日本という国はつくづく考えさせる国である。ここまで国際世論が「クジラを食うな」と怒り心頭していているなかで空気を読まずに超然としている。和を大切にしてすぐに自粛をしてしまう国民のはずなのに、なぜか外からの視線を気にしない。
  
 最近の漁業を巡る問題―クジラ、クロマグロ、イルカ―を見ていると、日本人は、「温度差」があることは何となくわかっているが、実際に「温度差」を体感できていないような気がする。先日アカデミー賞のドキュメンタリー部門を獲得した「ザ・コーブ」は、話で聞いた限りでは、たしかに腹立たしい作品である。でも、上映禁止までいってしまうはどうだろうか。そんなところを自粛するよ、といいたい。むしろ、我彼の間にある「温度差」を少しでも体感するためにも上映するべきではないか。さもないと相手が何を求めているのかもわからない。批判をしようにもできない。どんどん孤立していくだけである。
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 漁業の問題は突き詰めれば、魚の頭数である。どれだけ減っていてどれだけ採ることができるのか―これに尽きる。もちろん難しいのは、科学的な合意が得られない点である。そういう「科学的な真実」が分からない状況のなかで、日本だけが「データがない」「科学的な調査が必要」と主張して捕鯨を進めるのはやはり非合理に見えてしまう。しかも、「調査捕鯨」を目的としたクジラが国内の市場に出回ってしまうのだから、外国の方々が「なぜ」「どうして」と思うのは理解できる。クジラを商業的に売るのであれば「商業捕鯨」にしろというのは言い分としてあるだろう。
 また、クロマグロの報道を見ていて違和感を覚える。というのも、その報道の多くが日本政府、水産庁の見解をただ垂れ流したものだからだ。「食の文化を守るために頑張ります」。こういう発言を聞くと、何となく我々が不当にいじめられていて、これに対して断固戦わなくてはいけないような気持ちにさせられるが、「魚が食べられなくても仕方ない」と思っている人もたくさんいるはずだ。
 特に、これらの報道からは次の二つのことが見えてこない。一つは「彼ら」がどうしてあれほど猛烈に規制をかけようとしているのかという視点、つまり、クロマグロの数が激減しているから規制しなければならないという当たり前の意見である。二つには、これまでEUをはじめとする規制賛成派がどのように漁業の問題に取り組んできたのかという大枠の視点である。
 前の投降でも何回か紹介したが、スウェーデンのジャーナリストが書いた「沈黙の海」という本がある。去年の12月、ヨーテボリ大学の佐藤吉宗さんが日本語訳を出版したもので、スウェーデンやEUがいかに漁業政策を野放しにしてきたか、それによって多くの魚が危機に瀕していることを明らかにしている。これを読むと、EUがアフリカ諸国からも漁業権を買い漁り、近代的な巨大な船で魚を根こそぎ奪っていること、ヨーロッパやアフリカで大型の魚だけでなく小さな魚まで激減している状況がわかる。それと同時に、さらに厳しい規制を入れるべきこと見えていくる。ちなみに、イザベラさんは2009年、環境党から欧州議会選挙に出馬して政治家に選ばれた。加えて、「The end of the line」という魚の枯渇を描いたドキュメンタリーがヨーロッパでは話題となり、漁業の問題に熱い視線が注がれている。現在、ヨーロッパの世論は、EUの漁業政策を変えようと動いているのである。
 今や、国際的な潮流が大きく変わりつつあるとすれば、この変化を理解しないといけない。最悪なのは、変化を感じ取れないことである。第一次世界大戦後を思い起こせばよい。1920年代は平和主義の時代となった。世界は、それまでの「植民地主義」から「国際協調」へと舵を変えた。でも、日本はその流れを感じ取れなかった。むしろ、世界の潮流が変わっているなかで、韓国や中国への支配を強化して植民地主義を突き進めていった(もちろん、既に植民地を持っている国々が門戸を閉め始めたこと、アメリカの移民排斥運動や海軍軍縮条約で日本が過剰に貶められたことは事実だろうが)。
 アメリカのようにパワーのない国は、世界の動きに合わせて変化する必要がある。アメリカのようにパワーがあれば何をしても免ぜられる。京都議定書から抜けようと、イラクに侵攻しようと国がつぶれることはない。でも、日本のような弱小国ではそうはいかない。残念だが、これが国際政治の常識であり、直視しなければならない事実である。
 かつて国際連盟を脱退して孤立主義の道を歩んで最後には国が潰れた。漁業の問題によって日本が一気に潰れることはないが、何となく1930年代のときの孤立主義に突き進んでいく予兆を感じる。現在、我々がするべきことは、国際政治がどこに向かっているかを把握して、そのなかで上手く立ち回ることだ。その意味で、日本は、日本国民はもっともっと外に目を向ける必要がある。こういうときこそ、空気を読む力を最大限に使っていこうじゃないか、と思う。

ぐし について

スウェーデンのウプサラ大学大学院政治行政学修士取得、欧州議会漁業委員会で研修生として勤務後(-2013年3月)、ブリュッセルでEU政策や市場動向などを調査の仕事に従事。2014年11月から慶應大学のEUSI研究員。千葉市まちづくり未来研究員(自転車政策)。NPO Rights副代表理事として若者政策(主に若者参画)の提言や分析を行う。連絡先:gushiken17@hotmail.com
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孤立する日本 への3件のフィードバック

  1. あやか より:

    メニュー写真が衝撃的すぎて思わずコメントしちゃいました苦笑。
    今ちょうどモナコ提案否決関連のニュースをテレビで見ていて、「食文化という単語が連発されているなあークジラの時もそうだったけど」なぁんて思っていたところです。
    議論って、主張(賛否)+理由+例示のセットが同じレベルで対立し(反論しあって)てできるものだと思うのですが今の構図って「頭数激減がさけばれるクロマグロ漁を規制すべきか」というテーマに対して
    規制賛成+実際に頭数激減は顕著+具体的な数値のデータ
             vs
    規制反対+食文化保護+守る、大切などの感情論
    じゃないですか。そもそも理由(論点)レベルが全然違ってきてしまっている。反対派は賛成派と有効な議論をするにはまず
    規制反対+頭数激減は規制を要する程のものではないor頭数激減防止には規制以外に手段が考えられる+具体的な数値(代替手段)
    とかを全面的に出して、サブの主張として食文化を出さないといけないと思うのですが。。。今の報道は(マグロでもクジラでも)国がきちんとかみあう主張をもし会議でしていたとしても(してないかもしれないですが笑)、それが伝わってこないで食文化保護が全面的にでてるから違和感を感じるのかなぁなんて思います。
    長くてごめんなさい(><)

  2. ちゃんす より:

    うちの親父の居酒屋では「くじらカツ」は人気メニューの一つです。市場に出回ってるものを売り物にして何が悪いんだYO!と我関せずでしょう。ま、親父的には、くじらも秋刀魚も豚も同じなわけです。流通の末端なんてのはどこもそんなもんだろうなぁと思う。
    (いまさら)世論に訴えても効果は限定的でしょうね。やっぱ上の方で良識のある判断+規制が必要なんだろねぇ。

  3. おぐし より:

    あやか氏
    どもども。コメントありがとう。結局、禁輸提案は否決されたね。まあ、日本政府が反対したのは理解できます。何もしないでいきなり禁輸になったとしたら、関係者や世論の怒りをかって選挙に不利になるでしょうから。ほんとに、食文化ってなんだよ、って話ですよね。食文化を守る気があるなら、もっともっともっと深く色んな角度から見て考えるべきなのに。
    ちゃんす
    なるほど、クジラは人気メニューか。やっぱり消費者は思うんだろうね。「あ、クジラがある、食べよう」って。客がそうやって求めるから店は出すわけで、それは全く合理的な選択だと思うよ。禁止されない限りは他の店が出すわけで、出さない店は損しちゃうわけだからね。
    >(いまさら)世論に訴えても効果は限定的でしょうね。やっぱ上の方で良識のある判断+規制が必要なんだろねぇ。
    上の方々が決めないといけないんだけど、その上の人を選ぶのが我々だから、上にやれといっても無理だと思う。やはり国民が現実を直視しないとダメ(=メディアがきちんと現実を伝えないとダメ!!)。メディアは今回は否決されたけど、これは単なる延命措置に過ぎないことを伝えないとダメ。いや、みんなが声を大にしていわないとダメ。
    マグロを禁輸すると他の魚にも波及するといって警戒しているけど、そもそも他の多くの魚も減っている。だからどんどん規制の波はやってくる。この流れはしばらく変わらない。この事実から目を逸らしてはいけない。他の産業と同様に既存の枠組みがガラリと変わっていき、漁業関係も縮小していく。この変化に対応できないものは淘汰されていく。残念だけど、こういう現実を直視していかないといけないと思う。

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