「あ、そうだ」。
思い出したようにテレビのチャンネルを回してみると、ちょうどノーベル賞の晩餐会が中継されていた。赤レンガの古めかしい雰囲気の空間のなかで、人々はディナーを楽しみ、ダンスを踊っている。歴代のノーベル賞受賞者の映像を交えたり(ミルトン・フリードマンが受賞したときの混乱ぶりなど)、受賞者らしき人たちが現れて簡単なコメントを述べたりしている。日本人の受賞者の姿は残念ながら見えていないようだ。
スウェーデンといえば、まず思いつくのがこのノーベル賞。12月10日に晩餐会が行われるストックホルム市庁舎は、テレビで見た人もいるかもしれない。この市庁舎を10月に訪れたときのことをよく覚えている。「スウェーデン・ポリティックス」という授業で、カリナ女史に連れられて、スウェーデンの国会議事堂を見学し、レストランで料理を食べたあとのこと。その他の学生はみんな忙しいようで、最後の市庁舎の見学ツアーに残っていたのは、カリナ女史と僕の二人だけだった。
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ストックホルム中央駅から歩いて5分、メーラン湖とバルト海が重なり合うその場所に、市庁舎は聳え立っている。青と黄色の国旗を揺らめかせ、空へと向かって伸びる赤ずんだ建物。小奇麗な都会の真っ只中にあって、その存在はどこか毅然とし歴史を感じさせる。この市庁舎が、たったの80年しか年季が入っていないとは、そのときゆめにも思わなかった。
当時の設計士は、市庁舎を実際よりも「古く」見せようとした。レンガに赤と黒の塗装を施し、歴史を帯びさせ、他にはないような芸術溢れるものにしたかった。妥協を許さない人間として知られた彼は、完成までには右へ左へ、多くの歳月をようしたという(ってガイドの人が言ってた)。
ノーベル賞晩餐会のディナー会場となるのは、いわゆる「青の間」。二階から幅の広い階段が半円を描くように優雅に降り立ち、一階には銀色のタイルが広がる。晩餐会では、1200人近くのノーベル賞関係者がここで一斉に食事をするため、ほとんど歩く場所がなくなるという。
「青の間」の壁には、外観と同じく赤茶色のレンガが塗り込まれている。これら壁の一つひとつには異なる模様が施されており、くぼみが見てとれる。ドレスを着た貴婦人が、階段を歩いて舞台に向かうとき下を向かずに済むように、ということらしい。ただ、「青の間」の肝心の青色がどこにもない。この設計士をしても、「水の都・ストックホルム」にはどうしてもできなかったらしい。
「青の間」の先に進むと、明るい朱色に染まった荘厳な空間が現れる。王様の部屋かと思えば、そこは市の議会であった。中央の議長席には、天井から細やかなカーテンが舞い降り、左右の線対称を際立たせる。現在もここで議会が開かれているというから不思議だ。市議員は集中して議論ができるのだろうか。東京の都庁でこんなファンシーな部屋を使ったら、すぐに苦情が来るだろう。
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もともとノーベル賞晩餐会はここで行われていなかった。市庁舎が完成したのち、紆余曲折を経てここへやってきた。しかし、年々ノーベル賞の歴代関係者が膨らんでゆき、この市庁舎には人が入りきらなくなっている。いま、晩餐会の会場を別の場所に移すかどうか議論されているという。
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