留学して一番良かったと思うこと

 「学して一番良かったと思うことは何ですか?」
 来年日本に帰ったとき、僕はここでの生活をどのように総括するだろうか―数え切れないほどの新鮮な発見や驚き、成長があることはたしかだろうが、そこから一つを選べだなんて、なんとも途方も無い作業のように思える。ただ、シンプルに考えてみると、留学していなければ目も向けもせず、その素晴らしさに気が付かなかっただろうことが、ひとつだけある。
 ずばり、料理をするようになった、ということだ。
 これまでの人生を振り返ってみると、料理という料理をした経験がほとんどなかった。僕が作れたもののなかで「料理」というジャンルにカテゴライズできるものといえば、おそらくチャーハンくらいではないだろうか(…しょうゆかけて味塩コショウをかけるだけだけど)。
 そもそも、自分という人間はほとんど食事に価値を置いて来なかった。食事に費やす時間はできるだけ削ろうと努力さえしていた。当時(三ヶ月前だけど)の僕の食事に対する哲学は、「私は食べるために生きているのではない。生きるために食べるのだ(@ソクラテス)」というものだった。実際、日吉キャンパス時代に一人暮らしをしていたときには、「料理は作らない」と決心して部屋のガス代さえ払わなかったほどだ(当時はほとんど毎日、マクドナルドか松屋の牛丼を食べていた。今思うとぞっとする)。
 なんと愚かなことをしたものか、と思う。
 スウェーデンでの生活を始めてから、ほとんど毎日料理をしている。よく作るものとしては、パスタ、カレー、オムレツ、肉じゃが(卵を加えて半卵焼き)。特にパスタは安いこともあり、二日に一回は必ず作っている、と思う。
 一番のお気に入りは「ザ・和風パスタ」である――パスタを茹でている間に、たまねぎをみじん切りにし、半分のじゃがいもを八分の一の大きさに切り、ガーリックに切り込みを入れて、オイルをしいたフライパンで熱する。途中で「ほんだし」と「桜えび」を加えながら、こんがりした色になるまで待つ。そして、6分ほど茹でたパスタを微妙に水を含ませた状態のままフライパンに移して、永谷園の「お吸い物」をパッパと掛ける。そして、20秒ほど強火で水を飛ばして出来上がりである。
 ちょっとした些事加減で大きく味が変わってしまう、そんな料理の醍醐味も学んでいる。最悪だったのは、グラタンのホワイトソース。牛乳を入れるのが少しだけ早かったせいで全然固まってくれなかった。友達から「気をつけろ」と言われいただが、まさかそんなちょっとしたことでダマになるとは思わなかった。プランニングをして、それを一寸の狂いもなく実行する”わざ”が必要とされる。慣れるまでは特に。
 さらに、一週間に1回のペースで「クッキー」を作るようになってしまった。スウェーデンはご承知のとおり、冬は3時くらいに暗くなり、しかも寒いので家の外へ足が向かない。何もすることがないので、じゃあスイーツでも作っちゃおうか、みたいなノリになる。実際にスウェーデン人はみんなケーキを作るのがうまい(男もみんな上手い)。
 僕のお気に入りの一つはフランス人の女の子から教えてもらった簡単チョコケーキだ。チョコ、バター、砂糖をそれぞれ130gずつ、卵を三つ、そして小麦粉を60gをミックスして電子レンジの最大出力で10分チンするだけ。20分もあればすぐにできる。日曜日の午後14時、太陽がわずかに残っている時間帯に、この出来立てのチョコケーキを短編小説を読みながら食べることは至福のひとときだ。
      
      

ぐし について

スウェーデンのウプサラ大学大学院政治行政学修士取得、欧州議会漁業委員会で研修生として勤務後(-2013年3月)、ブリュッセルでEU政策や市場動向などを調査の仕事に従事。2014年11月から慶應大学のEUSI研究員。千葉市まちづくり未来研究員(自転車政策)。NPO Rights副代表理事として若者政策(主に若者参画)の提言や分析を行う。連絡先:gushiken17@hotmail.com
カテゴリー: スウェーデン(その他), 自分事 パーマリンク

留学して一番良かったと思うこと への5件のフィードバック

  1. Ryo Kamiki より:

    おぐし!本郷で一緒だった神木っす☆
    ほんと色々な事を君は考えてて、いつも感心しながら、おぐしのブログを読ませてもらってるんだ。慶應に入って、そして今北欧で勉強しながらありとあらゆることに刺激を得てるんだなぁ。俺は青学に入って、就職活動と単位を終えたので、今は残りの半年をNZで暮らしています。
    たった6ヶ月しかないのだけれど、俺にとってはやっぱりありがたくて、同じように今までの自分とこれからの自分について思いを巡らしてます。異国だから、意識的に自分を保っていたり、主張しないと存在が希薄になっていく気がするときもあるし。
    将来のことを考えながら、今の自分と向き合うのは必要な事だけれど、なかなか難しかったりする。考えすぎなのかもしれないが。
    マクドナルド・牛丼から脱却してスイーツにまで手を出してるおぐしを尊敬しつつ、エールを☆
    お互いがんばろや!
    りょう

  2. はるき より:

    料理の腕は負けません。
    1月に海士行ってきます!

  3. えふたか より:

    おぐしゃーがクッキーなんて!
    いいですね、なんかこう、パスタ作るとか『ねじまき鳥クロニクル』みたいになれちゃいますね。

  4. おぐし より:

    かみき氏
    お久しぶりです。コメントありがとう。
    ニュージーランドはどうですか。なんとなく暖かそうで羨ましいけど笑。
    ミクシーで読んだところ楽しく過ごしているようで何よりです。
    環境の変化は大事だよね。たとえ六ヶ月という短期間でも、というかむしろ限定された短い時間の方が集中してそれまでの自分を振り返ることができるからいいのかなと思います。
    お互い残り少ない異国生活を満喫しましょう!

  5. おぐし より:

    はるき氏
    お久しぶりっす。
    料理の腕ははるちゃんには及びませんよ。
    日本に帰ったら、魚を裁けるようになりたいなと。
    海士に行って、魚釣って、自分で裁いて食べたいなぁ。
    年末海士は羨ましい。ぜひぜひみなさんによろしくどうぞ。
    えふたか氏
    村上春樹を読みすぎていたせいで、きっと深層心理のなかで、「料理がしたいな」という願望がふつふつと煮たぎっていたのでしょうね。彼の小説を好んで読む人はたいていフェミニンな感じになっちゃう、というのが経験的にわかってきました。おそるべし村上効果。(ちなみにいまは「ねじまき鳥クロニクル」を英語で読んでいるところです)。日本に帰ったら、ケーキパーティーやりましょう。

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