オーロラに誘われて

 たちがアビスコに到着したとき、気温はマイナス10度だった。目の前の視界はほぼ真っ白。パウダー状の細かい雪が顔に突き刺さる。太陽の姿は、空一面に広がる分厚い雲に覆われて見えない。わずかばかりの隙間を縫って、わずかばかりの光が漏れてくる。とにかく寒い。

 ウプサラ市から夜行電車でゆっくり北上すること、16時間。スウェーデンの北国、ラップランドの北の果てにアビスコは位置している。人口800人の小さい町。夏は陽の沈まない楽園として、冬は暗闇に包まれる極寒の地として、人々をひきつける―。周りを見渡すと、大きくうねりを上げて隆起した山の連なりがどこまでも続く。大自然によって生かされている町というと、どこかしっくり来る。

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 ある夜、寮のみんなとオーロラを見に外へ出かけた。

 どうして冬のラップランドに足を踏み入れるのか。その理由といえば、オーロラしかないだろう。僕たち9人は、漆黒の闇のなかで空を見上げて、オーロラが現れるのを待った。青と緑の混ざったような色を探して、ひたすら空に目を凝らしてみた。遠くに光が見えると、誰かが叫ぶ。星の光が無数に群れ落ちてくる。ときおり、車の光がどこからともなく反射してやってくる。

 それでも、オーロラは現れない。

 結論からいうと、オーロラは見ることができなかった。一ヶ月のうちに5日見ることができればラッキーというものだから、そんな簡単に見れないことは最初からわかっていた。それでも、僕たちはそこに居続けた。そうすることがここではもっとも自然のような気がしたから。

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          (僕らの宿舎。フランス人・マリオンの写真から拝借)
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 翌日、いわゆる「ドッグスキー」に挑戦してみた。

 小柄で目のくりくりした白熊の子供のような犬と、白黒の毛むくじゃらの犬を二頭ずつ、ソリの前にくくりつける。僕はソリの後ろに立って、左右に体重を掛けたり、ブレーキを踏んだりしてコントロールする。犬たちは、小柄なのにものすごい勢いで走りだす。僕の犬たちはパワフルで、坂道でも止まることなく突き進む。ブレーキを踏んでとめるのが大変なくらいに…。

 一時間半かけて、山頂へと駆け上った。

 山のギザギザしたうねりに、薄い赤色の光が差し込んでいた。日の出なのか日の入りなのか、もはや区別は付かない。犬が一匹、その山へ向かって吠えほじめる。すると、他の犬も一緒になって吠え始める。「ワンワン」という低い声ではない、もっと甲高くうなるような感じの声。「ファウーン」という声はなだれを打って大きくなり、もう誰も止めることはできない。彼らはただただ、走りたいのだ。

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 夜の17時にアビスコ駅を出た電車は、翌朝の10時半にウプサラ駅へと着いた。どこか「夢」の国から、現実の世界に戻ってきた感じ。不思議だ。日本から来たばかりのころは、ウプサラが夢の世界だったのに。もしここが「現実」の世界だとしたら、日本での生活はいったいなんなのだろうか。「現実」とはいったいなんのことなのだろうか。

ぐし について

スウェーデンのウプサラ大学大学院政治行政学修士取得、欧州議会漁業委員会で研修生として勤務後(-2013年3月)、ブリュッセルでEU政策や市場動向などを調査の仕事に従事。2014年11月から慶應大学のEUSI研究員。千葉市まちづくり未来研究員(自転車政策)。NPO Rights副代表理事として若者政策(主に若者参画)の提言や分析を行う。連絡先:gushiken17@hotmail.com
カテゴリー: スウェーデン, スウェーデン(旅行) タグ: パーマリンク

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