ロビーイングはもはや汚い言葉ではない

 ラルドトリビューンの記事を読んでいたら、バラク・オバマがホワイトハウスへのロビー活動を制限しようと戦っていると書いてあった。ホワイトハウスを対象にしているロビー団体は登録が必須となり、過去12ヶ月の間にロビー活動をしたものには政治的地位を与えることを禁止するらしい。――このロビー活動の制限がどこまで成功するかはオバマの「変革」の程度を測る上でも分かりやすい試金石といえるかもしれないと思う。
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 「ロビー活動」という言葉で思い出したが、一ヶ月くらい前、Comparative European Politicsという授業のなかで、ストックホルムにあるWESTANDERというPRコンサルタント会社を訪問したことがあった。PR会社といっても、単なる広告会社ではない。その仕事は「政治に対するロビー活動」そのもので、社員の多くが元官僚とかジャーナリスト、そして博士号を持った人間だという。
 ロビー活動はそれ自体は悪いものではない。あらゆるアクターが政治へのアクセスをめぐって競争(ロビーイング)し合うことで、政策決定者はより多様な選択肢の中からより良い決定を行うことができるとポジティブに考えられているからだ。民主主義システムのなかでも、このような政治と社会のあり方は、現在の政治学の理論では、「多元社会論」と呼ばれている。
 もちろん、その健全性はロビー活動がどれほど開放性があり透明性が確保されているかにもよるだおる。バラク・オバマがホワイトハウスにおけるロビー活動を制限しようとしているのは、ロビー活動が歯止めの利かないくらい行き過ぎたものになり、民主政治という本来の姿を歪めてしまっているからだろう。ロビーイングの前提は、誰でもが政治にアクセスできるしアクセスするべきというものである。多くの政策が、お金の多寡によって決定されるとすれば、たしかに健全とはいえまい。理想的なロビー活動は断じてそのようなものではない。
 さて、話を戻そう。
 このWESTTANDERというPR会社のコンセプトは「開かれたロビーイング」だという。クライアントの取引会社の名前はすべてWEBで公表しており、どこの誰とどんな仕事をしているのかについても聞かれればすぐに答える。この情報開示によって、たとえば、敵対しているクライアントの案件を扱うこともないという(PR会社によってはライバル同士のクライアントの案件を扱ったりする)。
 彼らが対象とするクライアントは、政策決定に与したいと考えるすべての団体・組織で、労働組合やNGOだけでなく、民間の営利組織も扱っている。その仕事といえば、彼らの言葉を使うと、クライアントに対して政治へのアクセスが上手く進むようにお手伝いをすること(make client’s job easier)。
 
 たとえば、環境団体の案件であれば、ただ単に緑の党の議員を紹介するだけでなく、現在の政局において力を発揮できそうで、かつその政策について妥協できそうな政党のメンバーを取り込む。そして、それと並行しながら、マスメディアに対しても積極的にプレスリリースを打つなどして、世間の注目を集めるように仕込みを入れていく――。
 なるほど、話を聞いていて面白いと思ったのは、このPR会社の社員は、クライアントの案件が気に入らなければその仕事をしなくてもよいという点だ。たとえば原子力政策については社員の中にも賛成や反対が分かれて対立がよく起こるという。でも、そのことは仕事の支障にはならない。「僕はこれからの時代は原子力政策は欠かせないと考えているので、この環境団体の「反原子力政策」の案件は扱うことができません」といえばよいからだ。むしろ、このように多様な人間を有している方が政治を専門とするPRコンサルタントには有利なのだろう。
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 「スウェーデンにおけるロビー活動のPR会社」と聞いたときはかなり興味を引かれた。というのも、スウェーデンは、これまで「コーポラティズム(協調主義)」の代表的な国として認識されていたからだ。コーポラティズムとは、あらゆるアクターが政治へのアクセスをめぐって競争し合う「多元主義」とは対照的なモデルのこと、すなわち、少ないアクター(たとえば、労働組合、政策決定者、経営者団体)が、組み込まれた制度のもとで協調しながら物事を決定していくというモデルのことである。
 
 もちろん、コーポラティストモデルは90年代の間にかなり変わりつつあった。
 グローバル化の進展に伴い、ボルボなどの大企業は中央交渉の場(協調的な労使交渉)をいち早く抜け出し、自分たちの利益の増大を目指して「ロビー活動」を開始するようになる。メディアや独自のチャンネルを使ったほうが自分たちの意志を伝えやすく政策として具現化しやすいと考えてのことだ。
 また、変わったのは利益団体だけではない。従来のように政策決定にかけることの出来る時間が少なくなり、政治家や官僚たちはますます忙しくなった。このような状況のなかで、「市民アクター」たちがより良い「解決策を提示」してくれるのならば、彼らにとっても悪い取引きではない、というわけだ。
 
 「ロビーイングはもはや汚い言葉ではない(Lobbying is no longer a dirty word)」。「ロビーイングはロビーイングでも、これからは「開かれたロビーイング」が必要になる」とPR社員は言うが、これは程度の差はあれど、日本でも同じことであろう。これまでのように単に政治家に公共事業とか補助金などを「お願い」しに行くという意味でのロビーだけではなく、市民社会の側から「これが良い」と解決策を提案していくことが必要とされているからだ。

ぐし について

スウェーデンのウプサラ大学大学院政治行政学修士取得、欧州議会漁業委員会で研修生として勤務後(-2013年3月)、ブリュッセルでEU政策や市場動向などを調査の仕事に従事。2014年11月から慶應大学のEUSI研究員。千葉市まちづくり未来研究員(自転車政策)。NPO Rights副代表理事として若者政策(主に若者参画)の提言や分析を行う。連絡先:gushiken17@hotmail.com
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ロビーイングはもはや汚い言葉ではない への2件のフィードバック

  1. たけちゃん より:

    なかなか面白い授業があるんだな~。
    ロビー活動といえば、今日のニュースでyahoo!の株価がついに10ドルを割ったというニュースがあったんだけど、その中で、yahoo!のロビー活動が取り上げられてた。
    なんでもyahoo!はgoogleとの提携話の時に160万ドルもの資金をロビー活動に当ててたんだと。(もちろん独禁法に抵触しないことを議会に認めてもらって、提携話をうまく進めるためにね)
    こういう話を聞いてても、アメリカのビジネスが、政治と不合理な部分でも結節していることがわかるよね。世の中はやっぱり合理性とか論理性とかだけでは語れないw
    それはそうと、スウェーデンの物価は相変わらず高いかね?貨幣は円高みたいだが。。

  2. おぐし より:

    たけちゃん
    ロビーイングをどこまで制限するのかがこれからの政治における問題のひとつかもしれないね。ロビーイングそのものは悪いものではないし、これからもシステムの一部として機能し続けるだろうし。ただ、アメリカについてはあまりにも陰謀話が多すぎて正直わからないことばかりだわ。
    スウェーデンの通貨はユーロに対してもドルに対しても、そしてもちろん円に対しても弱いよ。いまは僕にとっては最高の時期ですね。

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