スウェーデンで英語を使っていて思ったこと

 のコリドー(学生寮)の住民たちは、ほぼ毎日のようにリビングルームで映画を楽しんでいる。冗談ではない。ほんとにほぼ毎日である。(しかもときどき二本立て)。「こやつら、なんでそんなに暇なんだ?」と思うと同時に、「なんでそんなに映画を持っているんだ?」と不思議に感じたものである。
 そのスウェーデン人に聞いてみると、「PIRATE BAYにアクセスすればいい」といわれた。調べてみると、PIRATE BAYとは、スウェーデン発の世界的に有名な違法ダウンロードサイトのこと。ITリテラシー大国のスウェーデンでは、学生のほとんどがネットを介してコンテンツをゲットしている。
 ちなみに、近年の総選挙では、ネットコンテンツの無料化を掲げる政党が立候補して話題を呼んでいる(比例代表制のスウェーデンでは全体の4%の得票率に達しない政党は議会に認められないので、もちろん、彼らが入ることはないのだが)。
 スウェーデンで生活をしていて改めて痛感したのは、自分のITリテラシーの低さである。海外の学生はITに関する知識が半端なく豊富で、有益にハイテクノロジーを使いこなしている。日本では標準レベルくらいに思っていた自分だが、世界標準からすればまったくのチャチであった。
 映画はネットでダウンロードして見る、ニュースに関してもポッドキャストを利用してMP3プレイヤーで聞く。電話もパソコン同士でスカイプ(ちなみにこれもスウェーデン発のシステム)を利用するから無料。固定電話へ掛けたい場合もパソコンから一分3円で電話できるから、みんな自国へはスカイプで電話する――これは日常風景である。
 また授業のIT活用に関しても、進んでいる。たとえば、ある授業を履修すると、データを一元的に管理しているサーバーからメールが送られてきて、自動的に、その授業専用のサイトに組み込まれる。そこでは、パワーポイントや文献が随時アップされるだけでなく、自分の提出物もそこにアップする、そして参加者全員がシェアーして閲覧できるようになっている。
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 もう一つ発見したことがある。
 海外のニュースサイトを見るようになり、「ポッドキャスト」なるものを利用するようになったのだが、そのウェブサイトの多くが情報をほぼ無料で惜しげもなく提供しているのである。(ポッドキャストとは、そのサイトに登録しておくと、そのサイトの情報が更新されたときに自分のコンピューターへと自動的に配信されるシステムのことである)
 たとえば、ECOMONISTにしても、CNNにしても、BBCにしても、そのサイトにいきさえすれば、紙面だけでなく、ビデオとオーディオサービスにアクセスすることができる。それだけでなく、多くの学術紙も無料オンラインでゲットすることができるし、カーネギーカンシルCFRといったシンクタンク組織も、非常に高度なコンテンツ(分析)を無償でアップロードしている。
 特に感動したのは、BBCの気前の良さである。とにかくラジオがすごい。いつでもネットを開けば、BBCのラジオがオンラインで聞けるようになっているし、そのコンテンツの量と質もかなりのものである。いわゆる一般的なニュースから、アフリカだけのためのニュース、果てはコメディーまであらゆるジャンルに射程が延びている。ちなみに、僕のお気に入りは、BBCランゲージのなかの「6minutes English」や「Talk about English」、「MY Correspondence」、「Documentary」である。
 残念ながら、日本との落差は大きいといわざるをえない。たとえば、NHKのホームページを開いてみても、オンラインで入手できる映像・ラジオコンテンツはほとんどない。日本人は海外にもたくさんいるのに…。せっかく良い番組を作っているのだから、もっと公開してほしい。特にラジオに関しては二次利用の機会が少ないのだから、コピーライトを気にせずに公開できるのではないか、とも思う。
 日本のメディアは、日本語という最強の障壁に守られているため(英語がわからないため)、海外との競争がない。だからサービスを向上しなくても、やっていける。海外メディアは世界共通言語である英語を使っているために、あらゆるアクターとの競争を強いられる。だから、ライバルに負けないためにオンラインサービスへも出て行かざるを得ない。
 その結果、英語が使える「消費者」は、あらゆる種類の情報サービスを享受することができる、というわけだ。とっても簡単な話であるが、英語の苦手な日本人には残酷無情な話でもある。単に英語ができるというだけで情報の取得に関してかなり幅が広がってしまうのだから。
 ……と、英語バンザイのような話をしてきて恐縮だが、結局のところ、何にアクセスするかは自分の意思次第だということは付言しておかねばならない。たとえ選択肢がたくさんあったとしても、アクセスする意志(「学ぶ意志」と言い換えても良いだろう)がなければ、単なる宝の持ち腐れだからだ。英語云々よりも学ぶ意志に関する問題のほうがもっともっと大事ではないか、と思う。

ぐし Gushi について

Currently working for a Japanese consulting firm providing professional business service. After finishing my graduate course at Uppsala University in Sweden (2013), I worked for the European Parliament in Brussels as a trainee and then continued working at a lobbying firm in Brussels(2015). After that I joined the Japan's Ministry of Foreign Affairs, working in a unit dedicating for the negotiations on EU-Japan's Economic Partnership Agreement (EPA/FTA) (-2018). 現在は民間コンサルティング会社で勤務。スウェーデンのウプサラ大学大学院政治行政学修士取得、欧州議会漁業委員会で研修生として勤務(-2013年3月)、ブリュッセルでEU政策や市場動向などを調査の仕事に従事した後(-2015年3月)、外務省で日EUのEPA交渉チームで勤務(-2018年3月)。連絡先:gushiken17@hotmail.com
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スウェーデンで英語を使っていて思ったこと への8件のフィードバック

  1. 小宮山ミツル より:

    日経のPodCastはいかが?
    クオリティはそこまで高くないし、ドメスティックな内容が多いけれど。

  2. おぐし より:

    こみー
    お久しぶり。元気?
    いまちょうどゼミは合宿中だね。
    行けなくて残念です。泣。
    そういえば、日本のポッドキャストなんて聞いたことないな。ラジオのコメディーくらいかな。日経はチェックしてみます。もしお薦めなのがあれば教えてくださいまし。

  3. うえだひろき より:

    おぐし先輩、お久しぶりです。
    うえだです。
    今はSFCに編入して2年生からやり直しています。
    また、塾新をやめて体育会バドミントン部に移籍しました。
    来年からは小熊研とメデイア・コムの藤田研に所属するつもりです。
    閑話休題。
    昨日、日吉にNHKの今井副会長(塾員・経済学部卒)がやってきて講演をしてましたが、来年の二月からNHKは英語によるオリジナル国際放送を始めるそうです。アル•ジャジーラ英語版みたいなアジアを全面に押し出したコンテンツを放送するみたいです。これが「文化政策」ってやつですね。また、海外向けのオンデマンドサービスも始めるそうです。放送法の制限があって国内ではNHKアーカイブスをネット配信することはできないのですが、海外ではOKになったみたいです。BBCと比べるとNHKはまだまだしょぼいですが、在外日本人にとっては嬉しいニュースだと思います。
    では、また。

  4. candy より:

    自分も、海外スポーツの話題は、基本“BBC”と“レキップ”のHP&ラジオでゲット!
    「ITリテラシーの低い」自分からすれば、こういうシステムって本当に画期的だと思うんだけどw

  5. candy より:

    自分も、海外スポーツの話題は、基本“BBC”と“レキップ”のHP&ラジオでゲット!
    「ITリテラシーの低い」自分からすれば、こういうシステムって本当に画期的だと思うんだけどw

  6. おぐし より:

    うえだ氏
    お久しぶりです。
    アジアを前面に押し出した国際放送、いいですね。「日本」ではなくてアジアを、っていうところがなんか良いのか悪いのかわからないけど。笑。でもスウェーデンに来て、日本をはじめとしてアジア的なるもの(文化)が、エキゾティックなものとしてであれ、人気なことはひしひし感じます。在外日本人だけでなく、普通に外国人向けにWEB配信しても需要は大きいと僕は思います。
    放送法による規制でアーカイブ配信できない…そんなものがあったんですね。初めて聞きました(><)いずれにしても総務省による監督は早くなくしてもらいたいですね。
    小熊研入るんだ、いいね。ぼくも来年は一度授業か研究会ををもぐりにいきたいと思っています。メディアコムにも入るなら、忙しくなりそうでまた燃焼しないか気がかりですが、気楽に頑張ってください☆

  7. おぐし より:

    CANDYさん
    お久しぶりです。BBCはスポーツもびっくりに充実してますよね。ほんと画期的なくらい。公共放送であるBBCがなぜこれほど広範にスポーツなどの娯楽を扱っているか。これは僕も少し不思議だったんですが、これはある意味でほかの商業放送に対抗するためなんだそうです。
    10月に履修しているMEDIA POLICY AND REGULATIONという授業では、たとえば、昔であれば、「国家からの自由」がその焦点であったのに対して、いまや「メディア企業(オーナー)の独占からの自由」に焦点が当てられていると学びました。(これは日本と少し違うところでしょう。日本ではいまだに国家からの自由が獲得できずにいますから)。
    つまり、一部のメディアオーナー、マードック率いる「BSKYTV(サッカー)」などの独占を許せば、お金のない人はもしかしたらその試合を見れないかもしれない(契約しないといけないから)。だからBBCはその「誰でもユニバーサルにアクセスできる公共性」という観点から、積極的にサッカーの放映権を買い取って放送しています。
    公共放送がその公共性を担保するために「商業化」しつつあるというのは、「それはもう公共放送じゃなくね」と思うのですが、まさに世界の流れはそのようなものなのだそうです。日本でも民放の独占支配が崩れてサテライトやケーブルがさらに多様化して競争するようになったとき、NHKの役割がどうなっていくのか(さらに商業化していくのか)、議論されるようになると思います。

  8. CANDY より:

    >BBCはその「誰でもユニバーサルにアクセスできる公共性」という観点から、積極的にサッカーの放映権を買い取って放送しています。
    >公共放送がその公共性を担保するために「商業化」しつつあるというのは、「それはもう公共放送じゃなくね」と思うのですが、まさに世界の流れはそのようなものなのだそうです。
    非常に参考になる視点、ありがとう!

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