スウェーデンのホッケー

 プサラに来たばかりの頃のことだ。何かしら運動したいと思って、スポーツサークルを探しているとき、スウェーデン人の友人に「一緒にバンディーやらないか」と誘われた。バンディ?それはどのようなスポーツかと尋ねると、英語では「フロアーボール」だという。僕がまだ要領を得ない顔をしていると、彼は手を左右に振り回しながら、ホッケー、ホッケー、という。
 そう、バンディーとは、体育館で行うホッケーのことである。アイスホッケーの「アイス」がないバージョンと考えてもらえれば、わかりやすい。北欧諸国において最も人気のスポーツの一つで、よくテレビでも放送している。多くのスウェーデン人も小さい頃からスティックを持って遊んでいるらしい。
      
             
 やってみると、かなり単純なスポーツだ。つばの先が微妙に右に曲がっているスティックを両手で持ち、小さいプラスティックボールを上手に運びながら、相手のゴールに叩き込めばよいのだ。アイスホッケーのような重厚な装備も必要ない。小さいゴールとスティックとボールと人間がいればできる。もちろん、かなりの運動量は必要とされるが。
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 バンディーはバンディーで面白いのであるが、それよりも、僕にとって興味深かったのは、このバンディーが21時から始まることだった。このことを最初聞いたとき、「ほんとに!それ遅くないすか?」と、つい日本語で言ってしまいそうになるくらい、ちょっとなにそれ、という遅い時間帯である。
 だが、それはウプサラ大学では全くもって普通のことである。
 先日、参加したサッカークラブも、22時から23時までだった。また、夏の間(ほぼ白夜)であれば、恒例の24時キックオフというサッカーイベントがFLOGSTAという最大の学生寮のそばで開かれる。日本では味わえない、学生町ならではの光景といえようか。
 ただ、少し残念なのは、このスポーツ活動は他の人との交流を深めるにはあまり役に立たないということだ。というのも、このバンディーが終わったあと、これに参加した人たちは、スウェーデン人を中心にして、そそくさと足早に体育館を後にする。彼らにとっては「バンディーをする」ということがこのコミュニティーの目的(テーマ)だから、その用が済んだらさっさと帰ってしまうのである。
 このような振る舞いは日本人には少し奇異に見える。日本では、何かしらの運動のあとには、「それじゃあ、ちょっと一杯行きますか」的な雰囲気になるのが普通だろう。ジムで運動して、それが終わったらすぐ帰るというようなビジネスライクな感覚は、たしかに少し冷たく見えるかもしれない。
 だけど、これはコミュニティーの在り方が違うから仕方ない。
 むしろ、僕にとってはこっちのクラブ活動のほうが肌に合っているといえる。こっちのクラブ活動は、NATIONという自分の所属している団体ごとに開かれているのであるが、もし希望すれば所属していない他の団体のスポーツ活動へも参加することができる。だから、僕の参加しているバンディーも毎週のようにメンバーが入れ替わる。誰でも(大学生以外でも社会人でも)いつでも参加できるのだ。
 これが日本の場合であれば、サークルの同質的かつ排他的性格と戦わなければならない。たとえば、3年生になってからテニスをしたいと思っても、テニスサークルに「今からテニスをしたいので入っていいですか」とは言いにくいし、「新聞の記事を書きたいので今から塾新入っていいですか」とは言えない。「お前、いまさら入るのかよ、空気よめよ」という無言の圧力が彼には降りかかることになる。
 悲しいことである。
 このような事情は、丸山真男が日本社会を「タコツボ型社会」と形容したころから変わっていないと思う。それぞれの組織が開かれた共通のドアを持つことなく排他的に閉じていて、派閥化しやすい。「タコツボ型」とは、なんとも本質を突いた表現を使ったものだ。
 いくらスウェーデンのコミュニティーが自我を包み込むような、包容性を持たない冷たいものであったとしても、逆の意味での風通しの良さ(オープンネス)を思えば、冷たいとは感じない。むしろ、なんと合理的なのかと感心してしまう。日本の皆さんがどう思うかはわからないが、これは半分くらいは本当のお話である、と思う。

ぐし について

スウェーデンのウプサラ大学大学院政治行政学修士取得、欧州議会漁業委員会で研修生として勤務後(-2013年3月)、ブリュッセルでEU政策や市場動向などを調査の仕事に従事。2014年11月から慶應大学のEUSI研究員。千葉市まちづくり未来研究員(自転車政策)。NPO Rights副代表理事として若者政策(主に若者参画)の提言や分析を行う。連絡先:gushiken17@hotmail.com
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