スウェーデンでのリサーチクエスチョン

 ウェーデンへの出発は8月20日。あと一ヶ月と少しに迫ってきた。そろそろ気合を入れて準備に掛からないといけないと思い、ブログデザインと題名をスウェーデンを意識して変更した。 一年という短期間の交換留学では、あっちで「何をやるか」よりもあっちに「行くこと」が大事だとよくいわれる。でもやっぱり明確にやるべきことを決めておいた方が効率的かつ充実に過ごせることは間違いないだろう。というわけで、スウェーデンでの「リサーチクエスチョン(仮)」を立ててみたのである。
 〇 スウェーデンの持続可能な福祉社会への取り組みを政治学的に眺める
 個別のテーマについては以下で述べるが、基本的にはやはり大きな枠組みのなかで、歴史的な流れをなかで次の二つのことを考えてみたいと思う。①福祉資本主義とは何か、②スウェーデンは質の高い民主主義なのか。もしそうだとしたらそれはどのような条件の下で可能となるのか。
 
 ①については福祉国家論の大家であるエスピンアンデルセンの理論を参照しながら、社会保障とは何か、なぜ国家が保障しないといけないのか、などの根本的な理解から深めてきたい。②については国民の政治に対する「信頼観」と「参加感」というものを、特に地方分権という視点から見ていく。
 たぶん、最初の三か月は全く英語がしゃべれないから死ぬほどもがき苦しむだろう。勝負はそのあとである。リスニングさえある程度できるようになれば相槌を打ちながら質問を打つことができる。だから徹底的にフィールドワーク、取材、インタビューに出ることが可能になろう。専門家はもちろん、市井の人に話を聞く。新聞社に行く。夜、公園で寝る(強制収容されるらしい笑)。スウェーデン在住の日本人にインタビューする。友人の家に入り込む。スウェーデンのグローバルカンパニーの人に話を聞く。
 〇 社会保障について ―年金、医療(介護)、子育て、教育―
 ☆ 年金制度
 スウェーデンの年金制度は順調に行っているらしい。最低ミニマム分を「税方式」で保障し、それ以上は所得比例という形で賄うスウェーデン方式。日本の年金制度もスウェーデン方式を参考に改定されつつあるが、スウェーデン方式を移植するときに果たして日本の現状にマッチングするのか。日本の現状にどう合っていてどこが齟齬をきたすのか。そもそも高負担を許容できる土台は何なのか(現在スウェーデンでは自由主義派が与党であり、高福祉に対して逆風が吹いている)。単なる制度論だけではないその土台の文化や慣習(英語ではlegacyと表現する)をしっかり観察したい。
 ☆ 介護と(障害者支援)
 家族による介護から「社会」による介護へ―。日本の介護保険制度もスウェーデンモデルをもとして作られた。スウェーデンの介護制度がどのように運営されているのか。どこが上手く行っていてどこに課題があるのか。ここらへんはスウェーデン以前に日本での制度自体がよくわかっていないのでもう少し調べる必要があるだろう。たぶん、介護ヘルパーの人が地元でいかにフレキシブルに働けるのかという「地方分権」的な視点から、協同組合やNPOなどを参照しながら、見ていくのが良いと思う。
 ☆ 子育て
 子育てについては国からの手当て(公的負担)はもちろんのこと、女性の社会参加がどれほどのものであり、男性の育児参加がどれほどなのか、というところを調べたい。(たぶん後者の方をいかに改善するかが今後の大きな問題なんだろうと感じる)。スウェーデンでは公的機関では男女は同等のポストを与えられているが、民間ではそれほど進んでいないと聞くからだ。スウェーデンのなかでも特にグローバルカンパニーに焦点を当てて、男女の雇用環境を眺めてみると面白い気がする。
 ☆ 教育
 上とやや被るが、人生前半の社会保障の中核である教育。教育では「手当て(公的負担)」の問題や授業内容ももちろん見てみたいが、特に①教育の地方分権度と、②大学の役割について興味がある。特に後者の大学については日本とはかなり異なるであろう。留学に行かれた方はご存知かもしれないが、あっちの大学生の多くは社会人だという(半分くらい)。
 それはなぜかというと大学が「生涯教育」(専門的技能や能力)の場として位置づけられているからである。一度社会に出ても、やる気があればいつでも学び直すことができる。これこそ競争原理の公平性を担保するプラットフォームではないか。もしこれがスムーズに機能しているとしたら本当に素晴らしい。日本の大学生は残念ながら多くなり過ぎたかもしれない。どうせ遊ぶために大学に来るんだったら、高校卒業段階で働いてもらうべきだ。その中でまだ学びたいという人がいるのであれば、そういう学びの環境を提供できる仕組みを作ればいい。その点、高校の「職能化(専門学校化)」も本気で考える必要があろう。具体的には、6、3、3制をどのように改変できるのか色々と検討してみたい。
 〇 環境について
 ☆ 炭素税
 スウェーデンは90年代から炭素税を導入している環境先進国である。日本でも環境税の導入が検討されているが、それをどのように組み込んでいくかが議論の焦点となっている。スウェーデンの場合は、電力会社のCO2排出に炭素税をかけているが、その税が企業の競争力を落とさないように川下(家庭)の段階で価格転嫁ができるような仕組みをとっているらしい。あるいは炭素税を入れる代わりに既存の雇用保険などの負担を下げることで「税収中立(エコロジカル税制改革)」をとったりしている。(たぶん、もっとも大きな問題は電力会社のような独占的企業ではない鉄鋼や科学メーカーがどれほど価格転嫁が可能なのか―価格転嫁すると他の企業に負けてしまう―という点であろう)
原子力発電所
 スウェーデンは80年代に国民投票により、それ以上原子力発電所を作らないことを決めた。つまり、時点で存在している発電所が止まれば2010年に原発はなくなるのである。ただ資源高騰や地球温暖化の問題で、今また原子力発電所必要性の議論が活発化している。ちょうどいいタイミングなので温暖化の国別目標の問題と絡めながら注視していきたいところだ。
 ☆ 農業とコミュニティー
 スウェーデンと日本の共通点はなんといっても、国土に占める森林割合が高い(6~7割)ということだ。でも日本は世界有数の森林国なのに林業が盛んではない。なぜか。ここらへんはあまり調べていないので推測だが、やはり、国の補助金政策などに戦略性がないのではないか。特に、林業に焦点を当てながら、スウェーデンの政策を見て行きたい。
 〇 スウェーデンのメディア・ジャーナリズム
 スウェーデンは「プレスの自由」や「情報公開」でも評価が高い。中でも有名なのは、犯罪報道における「匿名報道」だろう。スウェーデンでは、原則として、犯罪を犯した人を実名で公開することはしない。犯罪は「刑法」によって裁かれるべきであり、マスメディアによる「社会的制裁」をしてはならないからだ。でも、日本では「実名報道」が原則とされている。なぜなら匿名報道では警察や当局による隠ぺいが生じやすく、権力の監視ができないからだというのが主な理由である。スウェーデンでははたして匿名報道はどのように機能して、どのように一般市民に受け入れられているのだろうか。
 〇 スウェーデンの外交政策―特に紛争地域における平和構築―
 スウェーデンは歴史的には「中立」政策を維持してきた。それが変わったのは第二次大戦後、国連という枠組みができてからである。特に、スウェーデンの英雄、ダグ・ハマーショルドが第二代国連事務総長に就任し、スエズ危機をきっかけに国連緊急軍という今のPKOの基礎となるものを作ったのちは、スウェーデンも中立政策を変容させながら、国際社会に積極的にコミットするようになった。
 スウェーデンがどのように中立から多国間協調に変わっていったのかを、ハマーショルドという人物に焦点を当てつつ、彼の世界への影響というよりも、スウェーデンに対して与えた影響という点に重きを置きながら見ていく。最終的には現代の紛争にどのようにコミットしていくのかについて考えたい。

ぐし について

スウェーデンのウプサラ大学大学院政治行政学修士取得、欧州議会漁業委員会で研修生として勤務後(-2013年3月)、ブリュッセルでEU政策や市場動向などを調査の仕事に従事。2014年11月から慶應大学のEUSI研究員。千葉市まちづくり未来研究員(自転車政策)。NPO Rights副代表理事として若者政策(主に若者参画)の提言や分析を行う。連絡先:gushiken17@hotmail.com
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スウェーデンでのリサーチクエスチョン への5件のフィードバック

  1. はまちゃん より:

    はじめまして。
    ハマーショルドの道しるべを読んで、とても感動する一方で恐れ多くも自分に置き換えてしまい胃の痛い思いをしている者です…(‘◇’)ゞ
    興味を持って調べてみたら、ここにたどり着きました。
    ハマーショルドやリンネが卒業したウプサラ大学にご留学とは羨ましい…
    これからの世界や日本の行く末を考えるとスウェーデンは近代資本主義の中で重要な国だと勝手に個人的な興味で注目してます。沢山のことを吸収して頑張って下さい☆
    陰ながら応援してます。お体に気をつけて頑張って下さい!

  2. おぐし より:

    はまちゃんさん
    コメントありがとうございます。
    ハマーショルドかっこいいですよね。
    彼の粘り強い知性がなければ国連の役割はもっと矮小化されたものであったでしょう。国家と国家といっても個人の役割が大事だなと、国連創設期に関する本を読むとつくづく感じます。
    僕は、物事の良し悪しは相対比較することでしかわからない、と考えています。スウェーデンから日本を見てみたときにどのように映るのか、非常に楽しみです。来月、現地からいろいろと報告したいと思っていますので、また見に来てコメントしてくださいませ。ではでは☆

  3. 留学がんばってくださいねー!
    日本の地方自治が宝の山なんじゃないかと踏んでいるんで
    スウェーデンとか興味津々です。
    ブログ記事のアップ楽しみにしてます。

  4. ミッチェル より:

    ふじえです。
    留学のヴィジョンがとても明確で、刺激を受け、コメントせずにはいられなくなりました。
    出発が近付くほどに初志を忘れそうになる自分に喝を入れられた気分です。
    何のために留学にいくのか、何を学ぶのか、もう一度考え直して、
    (そして英語と仏語をしっかり勉強して)フランスに立ちたいと思います。
    もしよければ出立の前にお会いできたら、と思います。

  5. おぐし より:

    中川くん
    >日本の地方自治が宝の山なんじゃないかと踏んでいるんで
    >スウェーデンとか興味津々です。
    まさに日本の最重要課題ですね。
    いま日本で進んでいる三位一体の改革(補助金を減らし、権限を委譲し、交付金を全体的に減らす)は、スウェーデンでは80年代に経験していることなんですね。(もちろん、それ以前には大規模な市町村合併を二回もやっています)。そこの補助金と権限移譲の度合はぜひ見てきたいところ。
    あとは気になるのは兼業議員の存在!!。あっちの地方議員の大半は兼業議員(普通に仕事している)らしいですが、なぜそういうことが可能なのか、僕もよくわかっていません。これはウプサラを事例にフィールドワークしたいですね。
    ふじえくん
    コメントありがとう!!そういう反応をしていただいて僕としても嬉しい限りです。
    あっちで何を調べたいのか、リサーチクエスチョンは本当に大事だよね。
    個人的には、短期の留学で重要なことは、あっちで「新しく何かを学ぶ」ことではなく、事前に調べたものを「現場で具体的に確認する」ことじゃないかと思っています。自分なりの座標軸がないまま、つまり白紙の状態で何か新しいことを現地で学んでも、それがどういう点で良いのか悪いのかよく整理できないんですよね、たぶん。
    だから、ふじえくんも、出発までに英語フランス語とともに、自分が学ぶことに関する日本語文献を徹底的に調べておくことをお勧めします。というか、これはゼミの先生に言われたことで、いま僕も必死に関連文献を読みまくっているところなのです笑。
    ぜひぜひ出発前に会いましょう。(フランス遊びに行きますw)

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