西千葉駅から千葉大学の敷地に向かうと、自転車がせわしなく行きかっていた。 キャンパスの端から端までいくのに20分はかかると思われる広大な敷地。なんとなく、アメリカの大学っぽい雰囲気である。
ぼくは迷い歩きながら、その研究室にたどり着いた。
教授の名は、広井良典先生。
先生はさわやかな笑顔で迎えてくれた。ついでにお茶まで出してくださった。非常にウェルカムな雰囲気である。おそらく今まで出会ったなかで、もっとも柔和な人格者の一人である。ぼくの興味・関心に沿って、丁寧に文献のアドバイスから今後の将来の方向性のご教授までしてくださった。
広井先生の研究室には、「福祉」や「環境」、「死生観」や「医療問題」、「コミュニティー」といった幅広い分野に渡る文献が所狭しと積み上げられている。机の上には、ぼくも読もうと思っていた、日経新聞社の「されど成長」という本が置いてあった。
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広井先生の専門は一言でいうことはできないが、あえていうとすると、その本の名前のとおり、「持続可能な福祉社会」(ちくま新書)の可能性の探求、ということになるであろうか。
その本を一読して感銘を受けた。ぼくがこれまでの大学生活で探求してきたことが「持続可能な福祉社会」という概念のもと、多角的に分析され、的確に言葉にされていたのである。
本書の軸である「人生前半における社会保障」の示唆は、かなり説得力がある。
最近でも、「後期高齢者」という言葉に表されるように、そもそも人間のライフサイクルの寿命は延びている。出口がどんどん後ろに延びていっているのだから、入り口だってどんどん後ろに伸びていってしかるべきである。それは論理的に考えて、当然の帰結であるといえる。
でも、実際に「入り口」は変わっていない。
高校を卒業したら社会人として働く。大学を卒業したら社会人になる―。宙ぶらりんな生活は、原則的に許されていないのである。むしろ、社会的な合意として認められていないといった方がよいだろうか。 広井先生は、ここの「後期子ども」というべき期間に対してさまざまな保障があってよいと言い、たとえば、「若者基礎年金」というものを提唱している。
また、話は飛ぶが、そのほかにもヨーロッパの事例を挙げながら、環境税の可能性も示唆している。環境税とは、税収のアップという点よりも、地球環境への負荷を減らすという点を狙いとした税である。日本では、「企業の活力を奪う」として、経団連を中心に反対されている。
ただ、環境税の使い方を工夫すれば、「国際競争力」を殺がない形での「経済成長」と「環境保全」は両立可能である。本書のドイツの例によると、環境税を導入することで環境保全を促進する。そしてそこで得られた税収を、年金保険料の負担軽減などに当てて「福祉」の充実を図る。
そして、環境税によって年金保険料が引き下げられれば、企業の保険料負担も減る。その結果、国際競争力が高まる。これが、ドイツで行われたエコロジカル税制改革である。
道路特定財源の一般財源化をどうするのか、暫定税率を再び上げるか上げないかということで泥沼の政治状態にある日本であるが、すでに90年代に環境税を導入しているヨーロッパにしてみれば、今頃なにを議論しているのかと、「理解不能」のことと思っていることだろう。
日本のヴィジョンが見えないという方は、是非一度、広井先生の著書をご精読いただきたい。
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