3月31日の朝日新聞・朝刊に、フランス人の人類学者エマニュエル・トッド氏のインタビューが掲載されている。内容は、トッド先生の近著の「文明の接近」ついてである。すごくわかりやすい面白い視点だったので、ここに簡単にまとめるのである(このインタビュアーのまとめがあまりに完璧すぎて自分なりにまとめるところが全然ないのだけど…)
エマニュエル・トッドは次のように言う。現在、世界各地で起こっている「文明の衝突」のような紛争や対立は、近代化の発展過程で必然的に起こってしまう「発熱のようなもの」である。そして、近代化がさらに深く進行すれば、「社会は平熱を取り戻す」と。
(もちろん、彼も、近代化が進めばすべて上手くいくと言っているわけではない。文明は一致するのではなく、あくまで「接近する」といっている。国家はそれぞれの価値や制度を持ち続けるし、対立や紛争は継続して起こり続けるという)。
この彼の見解で最も刺激的かつ独創的なのは、「近代化」とは「何よりも識字化(教育)の普及」であると言い切っているところである。
「読み書きは単なる技術ではない。人間の精神形成に深く関わる。ひとりで本を読めれば内省が可能になる。それは精神の構造を変える。近代的な人間の登場だ。彼らは社会の権威関係を揺さぶる。一部の者だけが権威を独占するのが難しくなり、経済的発展や政治の民主化が促進される」。
そして、イスラム世界でも中国でもインドでも、「識字率(教育)の向上」により、同様の道をたどっていると述べる。
「だいたいイランで今起きているのは宗教保守派と非宗教はの対立だ。表面では神をうんぬんしていても、水面下で起きているのは、政教分離の動きだ」。
「イスラム世界だけではない。中国の経済成長の加速は共産主義を清算したからではない。共産主義的経済構造が発展を阻害していたとは思うが、中国が十分な識字率にまで到達したことの方が重要だ。インドの成長も加速したのは経済改革の前からだ。むしろ識字率の上昇と一致する」。
「グローバル化とは呼ばれるものは、識字化が世界に行き渡り教育レベルが一致したときに達成されるのだろう。私たちはあまりにも経済的な考え方に支配された時代に生きているので、経済自由主義の広まりをグローバル化と同一視がちだ。しかし、歴史を動かすのはむしろ教育だと思う」。
これらは考えてみると、すごく面白い指摘である。
トッド先生の説に沿った政策を立案すれば、非民主的な地域や国家主体に対しては、とにかく、学校や図書館を建てまくり、教育を普及させまくればよいということになる。貧困に対する産業的な手当てとは別にして、むしろそれよりも、とにかく「教育的支援」を何よりも優先させればよいのである。
もちろん、そんな簡単にはいかないだろうけれど。
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