21世紀の農業③とやま

             富山バスツアー① 富山バスツアー②
 山バスツアーでのゲストとして参加していた、湘南(SFCの横)で養豚場を営んでいる、みやじ豚の宮治さん。ツアーの中でもみやじ豚を焼いてくれたのだが、これが、むちゃくちゃ美味い。なぜ美味しいかといえば、もちろん手塩にかけて、手間ひまをかけて、育てているからである。
 宮治さんは、「第一次産業を、『かっこよく、感動できて、稼げる』という3K産業にしたい」という。父親が養豚業を営んでいたこともあって、SFC時代から友達を集めて開催していた「バーべキューパーティー」。そこで言われた「お前のとこの豚、むちゃくちゃ美味い」という言葉は、ずっと彼の胸の奥底に引っかかっていたという。そして、SFCを卒業後、パソナに務めた後、「みやじ豚」をイチからプロデュースすることを決意する。「第一次産業を活性化させたい」という使命感を抱きながら。
 「従来の農業の問題は、消費者の顔が見えなかったことだ」。
 みやじさんは、旧来の古いやり方を批判して、新しい農業のあり方を提唱する。「生産から出荷までプロデュース」が、彼の合言葉だ。これまでの生産者(農家)は、消費者と分断されていた。生産物は一括して「農協」に買い取ってもらい、それがどんな消費者に届いているのか感知することはなかった。極端にいえば、農協から要求されるがままの規定の生産物を作るだけのロボットであり、特別に消費者を意識することも創意工夫することもなかった。それが、すべての根底にある問題だったのだ、と。
 土遊野農場の橋本順子さんも「川上から川下まで」と主張している。つまり、生産だけでなく出荷までをプロデュースするということである。原料だけを生産し、あとの流通を農協に丸投げしてしまうと、価格の決定権はない。しかも農協は規格に合わないと受け付けない。少しでも虫に食われていると買い取らないのである。このような不条理かつ不合理な経営体制を打破しなければならない。だからこそ、21世紀型の農業は、自分で生産・出荷までをプロデュースできる、「かっこよくて稼げる」経営感覚を持った人間が担うべきなのだと、彼らは訴える。
 もちろん、このような流れのなか、農協や中間業者に頼らず、生産者と消費者を直接につなぐ「直売店」が増えている。特にこの直売店は、「地域のモノを地域で食べる」という意味において、また、地域主義を促進させる「地域のハブ」としての役割も期待されている。悪玉にあげられがちな農協も、自ら「直売店」を作り、変革をアピールしているともいう。
× × × × × × × × × ×
 現時点での農業のもっとも大きな問題は、十分な耕作地が利用されていないこと、つまり「農地」を巡るものであると柴田明夫氏は述べている。。氏いわく、がちがちの規制緩和により、耕作地の集約化(大規模化)を図り、経営感覚に優れた農家や法人(プロ)を参入させることである。
 大規模化についてはいろいろ是非はあるだろうし、僕としても整理できていないところであるが、上記に挙げたような生産・出荷までを担える経営感覚を持つ「プロ農家」を育てるという点については全くの賛成である。だが、根本的な問題は、では、どのようにして「プロ農家」を育てるかである。規制緩和をしたところで、そもそも担い手となる人間や企業がいない。採算として取れるかもわからない。このような困難な状況はおそらく今後も続いていくと考えられる。
 だからこそ、重要なことは、ある種の「使命感」を持った人間をどれだけ育て増やせるか、という点に戻ってくる。人材普及のために何をするべきか。ここに「富山バスツアー」のような意義が滲み出てくる。すなわち、都市と地方(農村)との交流をさらに増やしていくことから、できるだけ参入へのアクセスを増やしていく。あるいは学校単位での食育を増やしていく。そして、このような草の根の動きを政府も支援していく―。地道だが地に足のついた運動を継続するしかないなと僕は思う。

ぐし Gushi について

Currently working for a Japanese consulting firm providing professional business service. After finishing my graduate course at Uppsala University in Sweden (2013), I worked for the European Parliament in Brussels as a trainee and then continued working at a lobbying firm in Brussels(2015). After that I joined the Japan's Ministry of Foreign Affairs, working in a unit dedicating for the negotiations on EU-Japan's Economic Partnership Agreement (EPA/FTA) (-2018). 現在は民間コンサルティング会社で勤務。スウェーデンのウプサラ大学大学院政治行政学修士取得、欧州議会漁業委員会で研修生として勤務(-2013年3月)、ブリュッセルでEU政策や市場動向などを調査の仕事に従事した後(-2015年3月)、外務省で日EUのEPA交渉チームで勤務(-2018年3月)。連絡先:gushiken17@hotmail.com
カテゴリー: 体験ツアー報告 パーマリンク

21世紀の農業③とやま への2件のフィードバック

  1. ちゃんgす より:

    >「生産だけでなく出荷までをプロデュースするということ」
    農産物に付加価値を与える仕事を積極的に農家が担うことの必要性は、これから求められてくるし、全面的に賛成なんじゃけど、やっぱりちっちゃな新規参入の個人農家にとっては、経営感覚も含めて、資金力、人材、ノウハウ、いろんなものが要求されるから、なかなか厳しいよね。
    そんなかで最近は食品会社の農家への参入が増加傾向にあるみたいじゃけど、彼らの力はいろいろな面で個人農家に比べて圧倒的に上じゃし、それに加えて大規模経営を奨励していこうという動きがあって、制度的にもそれが可能になってくると、個人にとってはますます新規参入の敷居も高くなってくるんじゃないかな。
    そうすると、やっぱりいままでどおり個人農家を保護するための制度は残しておかんといけんよね。農協が農産物を買い取ってくれんとやっぱり困るんじゃろうし、農協は引き続きそういう役割も担わんといけんとは思う。けど、それが農家にとって「甘え」を生み出す原因となるのもこれまた問題で。
    >『かっこよく、感動できて、稼げる』
    宮地さんのブログ見たけど熱いね笑。この中では「かっこよく」てのが一番難しいと思う。

  2. おぐし より:

    ちゃんgす
    大規模化、特に法人の全面的参入についてはいいのか悪いのかよくわからんっす。そもそも日本で大規模農業しても他国に伍していけるのか(収益上げられるのか)かなり微妙だろうし、小作人が復活するし、農村のコミュニティーが破壊されるかもだし(今のままでも誰もいなくなって農地が荒れ果てるだけだろうだけど)。。。
    まあ、我ら市民にできることは、できる範囲でなるべく米を食べて、値段高くても文句言わず、地元のものを買って、中国冷凍食品とバランスよく付き合うことじゃね。
    >『かっこよく、感動できて、稼げる』
    みやじさんは冷静で思慮深くて、面白くて、カッコいい!!あの「身の回りの人から幸せに」みたいな地に足ついた感じがステキ。みやじ豚バーベキューパーティーは毎月開催とのことだから、香港から帰ってきたら、食べに行こうぜ☆

コメントを残す

以下に詳細を記入するか、アイコンをクリックしてログインしてください。

WordPress.com ロゴ

WordPress.com アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト /  変更 )

Facebook の写真

Facebook アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト /  変更 )

%s と連携中