こうしてインターネット上に文章を書いて発信することに、どのような意味があるのだろうか。そんなことをふと考えているとき、タツル先生のこんな一文に出会った。「インターネットは、人間関係のあり方を変えているというよりは、人間のあり方そのものを変えているのである」(大人は愉しい)。
「人間関係だけでなく人間そのものを変えている」。なんとも含蓄の深々とした示唆である。このたったワンフレーズを紡ぎだすために、どれだけの知的営為が費やされたのであろうか、ちょっと考えただけでもクラクラしてしまう私である。
ブログを書くのは、他人のためであり、自分のためである。自分が書いたものがどこかの誰かに共感されるというのは、相手にとってもハッピーであり、自分にとってもハッピーである。それは、別にどれだけ内容が高度に示唆的なものであろうと、どれだけ些細で自己満足的なものであろうと、関係ない(mixiを見よ)。重要なのは「受け手」である。人をして、ネット発信へと向かわしめるのは、「どんな思いであれ、それを受信し共感してくれる人がどこかにいる、という確信が得られたとき」なのである。
ふつうの人間の日常や個人的な妄想などは、ほとんどの場合、口に出されぬままに終わってしまう。だが、インターネットの登場によって、個人的な妄想を発信できるようになる。そして、それにより、その個人の日常が、「発信」を前提として営まれることになる。つまり、日常の過ごし方に変化が生じるのである。
このことを、タツル先生は、「恋愛の効用と似ている」、と書いている。
「恋人ができると人は急に雄弁になる。それは自分の語るどんなつまらない言葉にも深く心を込めてうなずいてくれる聞き手を得たからである。そうすると、その日に起きた、『あらためて人に聞かせるほどのこともないけれど自分の心には残った出来事』をきちんと記憶しておこうという気分になる。…恋をすると一日が濃密になるような気がするのは、別に時間の方がどうかしたわけではなく、『聞いてくれる人がいる』がゆえに、一日の出来事を記憶し、それについての個人的印象を言語化する『張りが出る』ことの効果なのである」。
「インターネットで発信することの余得は、そうでもしなければ誰も聞いてくれないはずのとりとめのない『思い』を受信し、耳を傾けてくれる誰かがいるという期待のせいで、何だか生きている『張りが出て』くるということにある」。
「ネット発信」と「恋愛」の効用の1つに、「人間を変える」ことがある。「聞き手」が存在するという「確信」によって、漠然として営んでいた「日常」に、生きている「張りが出て」くる。その結果、人間が変わるのである。なるほど。こうして曖昧模糊とした私の茫漠たる疑問は雲散霧消した。合点ガテン。
× × × × ×
ところがどっこい、やはり疑問は浮かんでくるものだ。
「ネット発信」と「恋愛」の相関関係についてである。たとえば、次のような仮説の妥当性はどれほどあるだろうか、と。『ネット発信をしていると、恋愛をする動機付けは減退し、逆に、恋人がいれば、ネット発信する動機付けが低下する』――これはいささか馬鹿げた問いのように見えるが、実は、「コミュニケーションの根本」にも関わる重大な問題を含んでいる。
簡単に結論だけ述べよう。僕の経験上、やはり『他者の承認』に飢えている人ほど、ネット発信をしたがるきらいはあると思う。自分のなかの「そこそこ」の出来事は、ネット上か恋人しか聞いてくれないからだ。そして、恋人がいる人は、「そこそこ」の出来事は、ネット上でアップする必然性がないため、ネット発信の頻度は少ない。だから、ここが怖いことであるが、「そこそこ」の出来事についてネット発信を頻繁にしている人は、恋愛をしていない人だとわかってしまうのである(わぉ!!)。
そして、さらに恐ろしいことが発覚する。その「恋人ナシ+ネット発信」の人間は、上の仮説(=ネット発信している人は恋愛する動機付けが減退する)にもあるように、「まあ、別に恋人いなくても、ネット上で吐き出せるから、別に恋愛しなくてもいいや」という気持ちになってしまう。つまり、恋愛に対する無関心が促進され、恋愛できないスパイラルがさらに加速されることになるのである(わぉ!!)。
やはり、インターネットは怖いのである。なんてね。
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